28ターン目 VSパワープラント

「ユキノ! 無事でよかった!」


 声をかけてきたのはシオリだった。


「シオリ、久しぶり」

「ちょっと時間ある?」


 一度家に帰りたいと告げるとギルドの前で待っていると言われた。慌ただしく帰宅してリーナにお礼を言ってまた出かける。この往復に五十分くらいかかる。乗り物が欲しいものだ。


「……お待たせ」

「別に急がなくてもよかったのに。そこの喫茶店入りましょう。私も喉が渇いたし」


 喫茶店と聞いて、そういえばこの世界にはどんな飲み物があるのだろうと思う。水とミルクと家で出てくる麦茶っぽい味のお茶しか飲んだ覚えがない。

 看板には丁寧にメニューが書いてあった。思ったより色々あるようだ。シオリにおすすめされたケーキとジュースのセットを注文する。


「暗い顔してたら奢ろうかと思ったけどその必要はなさそうね」

「気にしてくれてたんだ」

「紹介したのは私だもの。レネアのことは残念だったわね」

「仲間の人たちには申し訳ないことをしたとは思ってますけど、必要以上に落ち込んだりするつもりはないよ」

「じゃあ冒険者は続けるの?」

「当然」


 ケーキとジュースが運ばれてくる。少しパサついたパウンドケーキのようなものと、柑橘系の甘酸っぱいジュースだった。


「緑になったってことはデッキ枠増えたんでしょ?」

「うん」

「対戦しましょうって言いたいところだけど、仕事の都合でのんびりしてられないのよね。まあ元気な顔見れただけでよしとするわ」


 食べ終わって立ち上がろうとしたシオリを呼び止める。


「待って、これ見てほしい」


 ≪銀勇の戦士≫をポーチから取り出す。


「……レネア?」


 シオリもレネアだと認識したようだった。


「こういうこともあるのね。戦士カテゴリなだけじゃなくて効果も優秀。ユキノのためのカードと言っても過言ではないわ」


 私はシオリに見せれば使うべきだと言ってくれると期待してしまっていた。自分一人では使っていいのかわからなかったのだ。他者の言葉に自分の行動を後押しさせるなんてズルいと思う。それでも欲しかった言葉が聞けて安心してしまっている。


「じゃあそろそろ行くわね」

「うん、ありがとう」


 シオリと別れて帰ろうとする。そこで背後からいきなり声をかけられる。


「おい、あんたがユキノだな?」


 ブレザー姿の女の子がいた。初対面の人間からこんな小馬鹿にされた表情で見られるのは初めてだ。


「誰?」

「灰ノ井桜だ」


 サクラ・ハイノイ、そうじゃないかと思った。こんなに早く出会うとは思わなかったが。


「何の用ですか?」

「さっきのカード見せてもらいたいと思ってな」

「これですか?」


 ノーマルカードを取り出す。露骨に苛立った表情をされた。


「そんなチンケなカードの話してたんじゃねえのはわかってんだよ。見せてくれって言ってるだけだろ。何なら力尽くでもいいんだぜ?」


 面倒くさいのに絡まれた。よくない噂が多いというのは本当だろう。


「生憎、私はこんなチンケなカードしか持ってません」


 サクラは舌打ちしながらカードを取り出す。


「しょうがねぇな。お前らの大好きなクロマジで勝負だ。勝ったらそのカードを貰う」

「こっちにメリットのない勝負を受けるとでも?」

「あんたの居候先がどうなってもしらないぜ?」


 やられた。たとえ嘘でも受けざるをえない状況にされてしまった。やっぱりもっと早くあの家を出ておくべきだったのだ。


「……わかりました」

「TCGルールとこっちの世界のルールどっちがいいかくらいは決めさせてやるよ」

「じゃあTCGルールで」


 こっちの世界のルールっていうのはつまり、ほとんどルール無用の殺し合いのことだろう。名の知れた冒険者である彼女にそちらで勝てる自信はない。


「まず家族の無事を確認させてください。勝負はその近くの森でやりましょう」

「いいぜ」


 家族に気づかれないように遠くから確認する。コウが外で薪割りをしている。家の中と時々会話をしている様子だった。周囲にサクラの仲間らしき人物はいない。


「大丈夫です。数分歩いたところに開けた場所があります。そこでやりましょう」

「いいぜ」


 以前シオリと勝負した場所だ。邪魔が入りにくい。


「スキル発動!」


 お互いのデッキが光って浮かび上がる。自動的に先攻後攻が決められる。先攻は取られてしまった。


「ドロー。≪パワープラントガーデン≫を召喚」


 周囲が低い塀で囲まれて、その中に様々な植物が現れる。キャラクターカードだが、無生物のような存在のカードでAPは0。


「召喚時の効果でデッキからパワープラントカードを一枚手札に加える。ターンエンドだ」


 パワープラントは中低速のデッキで相手の行動を封じるロック戦術を得意とする。植物ロックとかPPロックと呼ばれていた。サイドデッキで対策しやすいことから三本先取が主流である大会での使用率は高くなかったが強いデッキではあった。


「ドロー。≪雷霆の戦士 ナーデア≫を召喚。そのままアタック」

「ガーデンの効果発動するぜ。手札を一枚墓場に送ってキャラクターのアタックを無効だ。さらにパワープラントカードを墓場に送ったから一枚ドローできる」

「MP2消費してクイックマジック≪悔し涙の再戦≫を発動。アタックでLPにダメージを与えられなかった場合、APを倍にしてもう一回攻撃できる」

「またガーデンの効果発動だ。手札を捨ててアタックは無効」


 またパワープラントカードを墓場に送ったが、ガーデンの効果でドローできるのは1ターンに一回までだ。


「≪救援の旗≫を使用してターンエンド」

「戦士か、相手が悪かったな。ドロー。≪パワープラント ローズ・ザ・ワイルド≫を召喚」


 頭が赤いバラ、首から下は軍服という奇妙なキャラクターが現れる。APは2。こいつも厄介なカードだ。


「ローズが場にいる間、全プレイヤーはマジックとアイテムはそれぞれ1ターンに一度しか使用できないぜ。アイテム≪グリーンハウス≫を使用。これで場のパワープラントカードは破壊されない。ターンエンドだ」


 このまま長引くと徐々にできることがなくなっていく。打開できる一手を引きたい。

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