26ターン目 別れ、そして次へ

 翌日、街の外に人だかりが見えた。歓声に交じり泣き声が聞こえてくる。レネアの訃報はもう伝わっているようだ。

 街に入るとギルドの人が『冒険者ギルド運営宿場』まで案内してくれる。宿で待っていたのはどこかで見たことある人物だった。


「副長のオズドです。まずは依頼達成お疲れ様です。代表の方はギルドまで来ていただいてよろしいでしょうか」


 オズドは階級昇格の時に話した人だと思い出した。フエナは仲間たちに気にせずゆっくりしていてと告げて彼の後をついていく。二人が消えるとその場で食事にしたり、個室に行ってしまったり、街へ繰り出したりと各々行動を起こす。

 私はロシュカとハンナに街へ行こうと誘われたのを断ってリーナたちの家へ向かう。


「ユキノさん!」


 大通りでリーナに声をかけられる。このタイミングで街にいるということは先程の人だかりの中にもいたのだろう。


「リーナ!」

「無事で良かった……」


 泣いているリーナを抱きしめる。


「……もう聞いたんだね」

「うん……」

「帰ろう。久しぶりにみんなに会いたいよ」


 依頼の結果を知ってか知らずか優しく迎えてくれた。久しぶりのお風呂、賑やかだけど煩わしくない食卓、温かい布団、どれも懐かしいとさえ感じた。


 倒れた後、変な時間に寝起きを繰り返したせいか早朝の四時に起きた。物音を立てないように外へ出る。近くを流れる川を沿って歩くと腰掛けるのに丁度いい岩がある。数回深呼吸をしてフエナから受け取ったパックを取り出す。ゆっくりと開封する。今回も三枚入っているようだ。一枚目≪スピードアップ!≫。二枚目≪キングスケルトン≫。こちらの世界のオリジナルカードだが、イラストが光っていることからレアカードであることが察せる。

 三枚目を見ようとした時そよ風が吹いた。それに呼応するかのようにガラス玉が揺れて光った気がした。何だったのだろうと思いながらカードに目を落とす。


 ≪銀勇の戦士≫


 そんなカード名のカードだった。鎧姿の長身痩躯の女性が片手にヘルメットを持ち、腰に剣を下げて凛と立っているイラストだ。少し口角を上げた爽やかな顔といい、名前こそ書かれていないがレネアそのものだった。

 涙が溢れてくる。カードが濡れないようにハンドタオルで涙を拭いた。


「……ありがとうございます」


 涙が止まるまでどれくらい経っただろうか。帰ったのは四時四十分だったが、まだ誰も起きていなかったのでもうひと眠りすることにした。

 リーナに起こされたのは七時半。朝の仕事を何もしなかったことを謝罪するも家族は「疲れているだろうから気にするな」とか「しっかり眠れたならよかった」と言ってくれる。

 昼前、リーナと一緒に街までおつかいを頼まれた。大した荷物でもないので一人で行くと言ったがリーナが心配だからついていくと頑なになる。買い物を終えたところで見知った顔に声をかけられた。ハンナたちだ。


「あ、ユキノ! 丁度よかった。今呼びに行こうとしてたんだ。……忙しい?」


 恐らくパーティーの今後のことか報酬の話だろう。荷物を置きに帰ったらすぐ行くと答えようと思ったが


「荷物は私一人で大丈夫だよ。行ってきて」


 とリーナが先に答えてしまう。


「じゃあお願いね」


 と言ってしまう。

 ついていくとギルドの運営する宿ではなくギルドの中へ入っていった。フエナやロシュカ含めパーティーメンバーが十人程いた。


「ユキノ連れて来たよ」


 ハンナの声でみんながこちらに注目する。フエナとオズドが一緒にやって来た。


「報酬が出たので分配していたところです。それだけなら渡しに行ったんですけど、ギルドの方からも話があるそうなので来てもらいました。オズドさん、お願いします」

「ではお先に失礼。今回の依頼達成を評価して階級の昇格が可能になりました。すぐにでも手続き可能ですがどうなさいますか?」

「お願いします」


 ノータイムで返答できる。昇格を渋っていたかもしれないが、今朝のカードのおかげで自分のせいで他者の道を閉ざすことをレネアは許さないだろうと思えた。

 この前の昇格と違い、大した質問もなく必要事項の記入のみで緑級のタグを貰った。


「ではこれで手続きは終わりになります。ユキノさんの今後の活躍をお祈りしています」


 すると久しぶりに説明表示が出る。


『デッキ2の解放及び編集が可能になりました』


 これは嬉しい。持ってきたデッキは三つだが残り二つのうちどちらが使えるようになったのだろうか。後で確認せねば。

 手続きを済ませて受付カウンターの近くに戻るとフエナから袋を渡された。


「報酬です。申し訳ないのですが勝手に分けさせてもらいました」

「ありがとうございます」


 袋を持つとずっしりとした感じがした。全部金ということはないだろうが銀でも相当の額になる。


「あとこれを。私の実家です。魔道具が入用の時は是非来てください」


 住所と思しきものが書かれた紙を手渡された。すぐに立ち去ろうとするフエナを呼び止めた。


「あの、レネアさんのお墓はどこに?」

「実家の近くに立てる予定です。遺体はヌベーテに埋めてきましたが。墓参りでしたら私の実家に来てもらえれば案内しますよ」

「……何から何までありがとうございます」

「いえ、頑張ってください」


 そう言ってギルドを出て行った。ロシュカ以外の仲間たちがその後ろをついていく。どうやらゼステア家で雇ってもらうつもりだろう。


「ロシュカは行かないの?」

「思うところあるし一度帰ろうかなって考えてる。けど冒険者を諦める気はないから。もしユキノさえよかったらまた一緒に仕事しましょう」

「その時はもっと強くなって黄色くらいには昇格しておくから」

「ユキノならすぐだよ。あんなに強いんだもん。でも再開する時には私も強くなってるから」

「じゃあ次会う時はお互い成長した姿を見せあうってことで」


 そうして街の外までロシュカを見送った。

 リーナに買い物を任せてしまったし一度帰ろう。そう思い外へ出ると左方から私の名前を呼ぶ声がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る