24ターン目 召喚魔法使いファラエス

 キングスケルトンの所へ戻ると前衛の数が減っていた。負傷した三名が中衛まで下がっていたからで、死者は出ていないようだ。しかし、全員消耗してきている。このまま戦いが長引けば前衛からやられていくのは明らかだった。


「胸部にあったということは心臓のようなものでしょうか。砕いて終わるのならば簡単なのですが……」

「もしそれ以外の使い方だった時に壊してしまうと取り返しがつきません。最後にしませんか?」

「仰る通りですね」


 四角く黒い何かをフエナとどうするか議論を交わす。持ってみるとそれはガラスのように冷たく石のように重かった。とても心臓には見えない。


「私が持って行きます」


 スキルを発動する。壁モンスターと防御札が手札に来ているので安心して近づけた。≪戦士の休息≫を発動し、≪大盾を構える戦士≫を同行させて走る。


「何か見つかったか?」


 私に気づいたレネアが声をかけてくる。見つけたそれを掲げる。


「壊さないのか?」

「これ自体が罠で壊すとスケルトンが暴走する可能性があります」

「じゃあどうするんだ?」


 正直どうするかは考えていない。やっぱり壊してみた方が良かったかもと思った瞬間、キングスケルトンがこちらに手を伸ばしてくる。

 レネアが手を真っ二つに切る。キングスケルトンは今度は剣を振り下ろしてくる。それもレネアが捌いてくれた。仲間たちが攻撃をし続けているのも構わずにこちらだけを狙っている様子だ。


「もういい、壊すぞ!」


 レネアは私の手から黒い何かを奪い取って地面に叩きつける。

 キングスケルトンは低い唸り声を上げながら崩れ去っていった。


「ほらな。フエナもそうだけど心配しすぎなんだよ」

「それは結果論じゃないですか? それにまた再生しないとは言い切れませんよ」

「まあそうだな。何日かここに留まって様子を見るか」

「その必要はない」

「誰だ!」


 声のする方へ振り向くとフェイネと彼女より頭一つくらい背の低い人がいた。


「それを壊した者を殺すよう命令を受けている」


 キングスケルトンの心臓部だったことには間違いなかったようだ。しかし罠があったことも予想通りだった。


「でもファラちゃん、ユキノちゃんお姉さまと似た魔力を持ってるよぉ」


 ファラちゃんと呼ばれた人はため息をつく。


「……ファラちゃんと呼ぶな。そしてそれを先に言え。ではユキノとやらは生け捕りだ。それ以外は死んでもらう」

「私を殺せると思うのか」


 レネアが剣を構える。少し離れたところにいた周りの仲間たちもじりじりと近づいてくる。それでも二人が動揺する様子はない。


「フェイネ、ユキノの隣にいる剣士からるぞ。あれさえ倒せば他は雑魚だ」

「はーい」


 フェイネは地面を蹴って一瞬で距離を詰めてきた。先程見せた規格外の拳を放つ。しかしレネアはそれを受け流す。


「援護する! そのまま攻め続けろ!」


 ファラちゃんが両手を合わせると淡い光とともにライオンと鳥が現れる。ライオンと言いつつも翼を持ち尻尾がヘビになっている。キマイラとかぬえを彷彿とさせた。鳥は見てくれは普通のタカかワシだが、頭から足先までで人くらいの体長がある。当然翼を広げればより大きく見えるため怪鳥と呼ぶのが適切だろう。AP/LPはライオンが4/18、怪鳥が5/16。厄介な相手だ。ちなみにフェイネのそれは確認できない。

 私は感動も恐怖もそこそこに手札を確認する。≪大盾を構える戦士≫も≪戦士の休息≫の効果も生きているが、攻め手がないとジリ貧になる。


「ナーデア召喚! MP2消費で≪強敵襲来≫! デッキからアルメナをクイック召喚!」

「後ろの動物は任せた!」


 レネアは振り向かない。一瞬でも目を離せば命取りになるとわかっているからだ。

 仲間たちは動物たちの方へ体を向ける。


「フエナさん、剣士の人たちはライオンに専念させて下さい。鳥は私が引き受けます。魔法の援護も不要です」

「わかりました。剣士はライオンをレネアに近づけないように戦いながら可能であれば術者を狙って下さい! 魔法部隊はライオンに集中攻撃を!」


 私とキャラクターたちは怪鳥とその奥にいるファラちゃんへと視線を向ける。


「……いいだろう。召喚魔法使い対決だ」


 怪鳥が飛び立ち、こちらへと急降下してくる。その爪は大盾を狙うも≪戦士の休息≫により阻まれ、逆に大盾とナーデアの攻撃が通る。

 私はカードをドローし、≪魔力貯蔵庫≫を使用する。


「三体で攻撃!」


 怪鳥は急上昇して回避する。ならばとその攻撃で術者を狙わせてみる。すると急降下してきた怪鳥の爪が大盾を捕らえて消し去った。そしてそのままファラちゃんを守るように立ちはだかる。


「MP2消費して≪悔し涙の再戦≫を発動! ナーデアのAPを倍にしてもう一度攻撃!」


 素早い動きで女戦士が怪鳥を斬りつける。これでLPは8だがまだ油断はできない。こちらのキャラクターはどれも一撃でやられてしまうのだ。

 ファラちゃんの顔は先程までの無表情でなくなり、苛立ちが見えていた。


「マスターと似た魔力、その力量、本物の『異界の使徒』のようだな」


 『異界の使徒』。初耳だが語感から察するに私たち異世界からの転生者のことを彼女はそう呼んでいるのだろう。


「……何の話?」

「異界よりこの世界に招かれた者だろう?」

「だったら何?」

「これ以上は話せない。私たちと共に来れば教えてやろう」

「じゃあいいや。ごめんね、ファラちゃん」


 他人を煽るなんて久しぶりだ。


「私の名前はファラエスだ!」


 ファラエスの怒りの声に応じるように怪鳥が低空飛行で向かってくる。このままぶつかれば私もキャラクターも無事ではすまない。


「≪鼓舞の旗≫を使用! ナーデアとアルメナでアタック!」


 戦士たちは怪鳥に正面から攻撃を仕掛ける。≪鼓舞の旗≫の効果でそれぞれAPが1アップしているため合計4ダメージ。しかし、こちらのキャラクターは全滅してしまった。さらに1ダメージを受ける。APの差分のダメージを受けたようだ。


「これでお前を守るナイトは不在だな。やれ!」


 怪鳥の羽根が私に叩きつけられる。5ダメージでLPは14/20。

 ……これを待ってた。


「MP2を消費してクイックマジック≪ヴァルハラの開門≫発動! 墓場のナーデア、大盾、手札のハルルを召喚!」

「何だと!?」

「ハルルの効果、待機状態にすることでナーデアのAPを2アップ! そのままナーデアで攻撃!」


 上昇が間に合わなかった怪鳥はナーデアの剣で真っ二つになる。

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