23ターン目 謎の女フェイネ
次は土地が関係するかの確認だが、ロシュカに聞く限りそれは難しい。スケルトンたちはこの土地を守るという執念や大切なものを守れなかったという無念で動いているものばかりのため、このヌベーテ領から出ることはないと言われた。逆に言えば、これまでそう遠くないところにある人間の生活圏を攻めてこなかったのはそれが理由だ。
「検証は終わりですか?」
フエナの問いには答えずカードをドローする。行ったり来たりでドローしていなかったため、そこそこ時間が経ったにも係わらず手札は四枚しかない。今引いたカードを確認する。やっと来てくれた。
「≪魔力貯蔵庫≫を使用! フエナさん、少し時間を下さい! もう一つ確認したいことがあります!」
「わかりました。それが失敗したら撤退します。今前衛にも伝えに走らせました」
≪魔力貯蔵庫≫は使わなかったMPを次ターンに持ち越すことができる。少しずつMPが貯まっていき、15になったところでもう一枚のキーカードを引くことができた。今度は誰にも何も言わずに駆け出して、前衛から少し離れたところで立ち止まる。
「MPを15消費して≪魂を浄化する光≫を発動! スケルトンを浄化させる」
元々はMP1消費ごとに墓場のカード1枚をデッキに戻す効果を持つマジックカードだ。スケルトンを相手にするのはわかっていたので組み込んでおいたが、行動不能のスケルトンが墓場にいるという扱いでなければ不発に終わる。
それも杞憂に終わる。光が天に昇っていく。それらは全てスケルトンの欠片から出ていた。
「光に気を取られずに攻撃を続けて下さい!」
キングスケルトンのLPの減りが速い。見た目にもダメージが蓄積していた。予想は当たったようだ。
レネアがどういうことかと聞いてくる。
「キングは周りの戦闘不能になったスケルトンの残骸を吸収して回復してたんです。今私の魔法で壊れたスケルトンを消したので、吸収できなくなって回復が遅くなったんです」
「なるほど! よくやったぞユキノ!」
前衛に左足に攻撃を集中するよう命令した。キングスケルトンの左足はすぐに崩れていき前のめりに倒れる。
「これで終わりだ!」
レネアの一撃がキングスケルトンの頭と胴を切り離す。バラバラと音を立てながら一体のスケルトンは大量の骨となった。
「やったぞ!」
仲間の誰かが声を上げる。勝ちを実感した仲間たちの歓声が響き渡る。
中衛と後衛は魔法攻撃の手を止めてこちらに近づいてくる。大量の骨を魔法で浄化するらしい。
その時、目の端にLP表示が見えた。気のせいかと思い見返した時には大量の骨は瞬時にキングスケルトンの姿を取っていた。
「距離を取れ!」
レネアの声が届くのを待たずに一人が骨の拳に潰された。次に槍を持った女が狙われたが、仲間たちが撹乱して立て直した。
「何度でも壊してやる!」
そう言って果敢に攻撃を仕掛ける前衛から、私は少し距離を取って観察する。
「ユキノさんの策は間違っていませんでしたよ。もう彼女たちが後れをとることはありません」
いつの間にかフエナが後ろにいた。ただ慰めに来たのではないだろう。そう言っているうちにキングスケルトンはまた崩れ落ちる。
「でもまた復活しますよ」
0になったLPが回復していく。連動して骨が集まっていく。ゲームだとこういう敵はどこか別に本体がある。
「フエナさん、もしこの土地で心臓を隠すとしたらどこに隠します?」
現実味も突拍子もない質問だがフエナは真面目に考えて答えてくれた。
「……信頼のおける人物に預けます。それが難しいなら、自身からそう離れていない場所ですね」
「この場所から考えると城ですか?」
「そうですね」
「じゃあ……」
「待ってください」
肩に手を置かれて止められる。
「私も行きます。剣士も一人連れて行きましょう。スケルトンはほとんど残っていないと思いますがそれでも万が一ということもあります」
フエナは中衛と後衛に戻り、指揮を他者に任せて剣士一人を連れてきた。
キングスケルトンが目の前にいるので真っ直ぐ進むわけにはいかない。大きく迂回して城門まで向かわなければならなかった。戦況を見つつ壊れた家屋の間を縫うように進む。幸いキングスケルトンはレネアたちに引きつけてくれたため、一切気づかれずに城門に辿り着くことができた。
ふとスキルが解除されていることに気づく。持続時間は三時間までは確認したことがある。それより短くても自分の体力の消耗などにも連動しているのだろうか。
「すみません、スキルが切れました」
「次に使えるのはいつ頃ですか?」
「わかりません。最大持続時間より短い時間で切れました」
「では一旦スキルは切ったままで温存してください。私たちが守ります」
ハイスケルトンが現れた場所までは一体のスケルトンもいなかった。そして階段を駆け上がる。
「上から見ていきましょう」
私の提案は受け入れられて最上階へと向かう。最上階の三階にも誰もいなかった。私は倉庫のような部屋を探す。鉄や木でできた箱を一つ一つ開けていく。
「ユキノさん、少しよろしいですか……」
寝室へ向かったはずのフエナが入口の近くから声をかけてくる。
「どうしました?」
「ベッドに人がいました。寝ています」
書庫を探していた剣士も呼び音を立てないようにゆっくりと寝室に忍び込む。しかし、気づかれてしまったようだ。
「うぅん……。だぁれ?」
ベッドから起き上がったのは背の高い女性だった。黒く長い髪や白い寝巻と相まって八尺様を連想させるシルエットだが声や顔は可愛らしい。
「とうとうここまで来られる冒険者が来ちゃったかぁ。お姉さまの言う通りだねぇ」
お姉さまというのがどのような存在かは不明だが、少なくとも味方ではないだろう。それは全員察したようで、剣士は構えながら一歩前へ出てフエナは魔道具を取り出した。私はスキルを発動させるべきか一瞬悩んだ。その時女性は両手を上げた。
「待って待って。私戦う気はないよぉ」
「では何故このような所にいたのですか?」
「お姉さまにここにいるように言われたからぁ」
「そのお姉さまとは誰なんですか?」
「お姉さまはお姉さまだよぉ」
いちいちフワフワした喋り方が腹立つ。自分が可愛いと思ってやってるやつだ。そんなことが気になり会話にいまいち集中できない。フエナも苛立ちを見せているが私と同様の理由か会話が成り立たないからかは不明だ。
「……では質問を変えましょう。スケルトンが大事に守っているものなどは知りませんか?」
「お姉さまが言ってたやつかなぁ」
女性は部屋を出た。私たちはその後ろをついていく。
倉庫の中で立ち止まった。両手を握ったり閉じたりしている。
「ちょっと魔力が欲しいなぁ」
私とフエナを見比べる。
「こっちかな」
私の頬に口をつける。
「は?」
突然の出来事に変な声が出た。彼女は全く気にしない素振りのまま、奥の壁に近づいて二回ほど拳を打ちつける。大きな音がした後、壁には大穴が開いていた。そこには黒く四角い何かが埋められていた。フエナはそれを手に取る。
「これは……?」
「キングスケルトンが生まれた時に胸のところにあったんだって」
「それはたしかに何かの鍵になりそうですね」
「ねえねえ、あなたの魔力お姉さまにちょっと似てる。名前教えて」
女性の関心は私に向いていた。
「ユキノです」
「ユキノちゃんかぁ。私はフェイネ。よろしくね」
「フェイネさん、ありがとうございました。ユキノさん、行きましょう」
フエナが割って入ったのを疎ましく思ったようで頬を膨らませている。私はそれを無視して城を出た。
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