21ターン目 ハイスケルトン
陽が昇ったばかりだというのにヌベーテの街は禍々しい雰囲気に包まれている。しかし、まだモンスターは見当たらない。
「少し先を見てくる。ラドヴァ、ゼオマ、一緒に来てくれ。みんなは待機だ」
レネアは前衛の男二人を連れて先へ行ってしまった。明らかに危険だが誰も止めはしない。しばらく懐中時計と前方を交互に見ていた。十分くらい経ったところで三人が戻ってきた。
「スケルトンは城に固まってる。途中にもいたがほとんど単独行動で巡回というよりはフラフラと徘徊している感じだった。ラドヴァ、数はわかったか?」
「城までに十、城門付近に二十、一階に二十まで確認できましたがそれ以上は……」
それを聞いてフエナは顎に手を当てて考える仕草を見せた。
「スケルトンは百は確認したという報告がありましたが、残りは城の上部にいるということでしょうか」
「何かおかしいことがあるか?」
「街中で遭遇し、集団で襲い掛かって来たという報告が多いんです」
「どういうことだ?」
「スケルトンの知能は高くありません。それまでしていなかった籠城という手段を取ったことに違和感があります」
私も同じことを思った。それに加えもう一つ気になることがあったため口を挟む。
「あの、城に籠るということはそこに何か守る対象があるってことですよね?」
「そう考えるのが普通ですね。そしてその対象は私たちの前に来た冒険者の時はなかったとも考えられます。ユキノさん、それが何かまで予想できますか?」
少し考える。フエナが自分を試したくてこんな質問を投げかけたわけではないのはわかっている。それでもここでの発言は仲間に先入観や余計な不安を与える可能性があるから容易に答えるわけにはいかない。
「スケルトンを指揮できる存在が現れたのではないかと思います。スケルトンの習性に詳しくないのでなんとも言えませんが……」
「急にスケルトンにとって価値のある財宝やアイテムが湧い出てくるよりは納得できますね」
レネアが手を叩いた。
「スケルトン以上の存在がいるかもしれないって頭に入れて戦えば問題ないだろう。行くぞ」
フエナと私は口を塞ぐ。
そして進行を開始した。最初にスケルトンが現れた時は驚いたが、時々現れるスケルトンを前衛が簡単そうに処理していくのを見るとすぐに慣れた。模型が武器を持ち、ぼろ布をまとって歩いているだけに見えてきたくらいだ。
城門がはっきりと見えたと同時に前衛が飛び出す。スケルトンは一瞬で倒されていく。
「すごい……」
ロシュカが呟く。その時後衛の全員が彼女らの無双っぷりに目を奪われていただろう。
「全員下がれ!」
レネアの怒号で私たちは我に返る。前衛に向けて放った言葉だったというのは二人の男が倒れたのが見えてからだった。
「ラドヴァ! アダスカ!」
ラドヴァは頭、アダスカという男は胸に剣が突き刺さっている。しかしその場のスケルトンは全部倒されていた。剣の放たれた方向を見ても誰もいない。
「コルドとオーヴェは前衛へ来い! 後衛は大魔法の準備!」
私たちの近くで待機していた中衛から男女二人が前衛と合流する。後衛は指示の直後バタバタと動き始める。私はスキルを発動させて手札を確認する。
「ユキノさん、どうですか?」
道具を弄りながらフエナが聞いてくる。
「戦士が二体、遠距離攻撃魔法が一回です」
「では戦士は前衛と合流させて下さい。魔法は温存を」
「はい! ≪大盾を構える戦士≫を召喚!」
AP2で攻撃の引きつけを持つキャラクターだ。≪鋼鱗のドラゴン≫よりステータスは低いがこちらは攻撃できる。相互互換というやつだ。壁としてはドラゴンの方が使いやすいが戦士専用サポートを受けられる点からこちらを使っている。
≪大盾を構える戦士≫をレネアの近くに配置する。一瞬誰だという表情をしたがすぐに私の戦士だと気づいたようだ。
姿を現さず数のわからない敵にパーティーはその場で止まって警戒するしかなかった。
「………全員ここで待機」
レネアがゆっくりと踏み出す。しびれを切らして動いたというよりは何か策があるように見えた。三歩進んだところで立ち止まる。風を切る音と金属と金属がぶつかる音がほぼ同時に聞こえた。放たれた剣を弾き飛ばしたのだ。そして一気に前進する。また金属のぶつかる音がした。それまでのスケルトンの倍くらいの大きさはある巨大なスケルトンと剣を交えていた。その傍らには黒い布が落ちている。
「よくぞこの隠形の魔道具から我を見つけたな」
「最初は範囲型の罠かと思った。けどそれにしては狙いが正確すぎだ」
何度も切り結ぶがどちらもかすり傷一つ負っていない。レネアは体勢を立て直そうと数歩下がるが、巨大スケルトンは追撃せず剣を握り直していた。
「大魔法準備完了!」
フエナが叫ぶ。
「よし! 放て!」
「当たるものか!」
レネアが右に跳んだのとほぼ同時に巨大スケルトンも同方向に動く。巨大な光線が二人の横を通り、奥の壁を壊した。そこでレネアが僅かに手を挙げたのを私は見逃さなかった。合図だ。
「≪大盾を構える戦士≫でアタック!」
「何!?」
巨大スケルトンの前に私の戦士が現れる。盾で殴りかかろうとしたが反撃されて消え去った。……それで充分仕事はした。
レネアの下から上への一太刀が巨大スケルトンを斜めに真っ二つにした。
「見事だ……」
崩れた巨大スケルトンの頭を切っ先で潰す。甦る可能性があるためだ。息を荒くするレネアにフエナが駆け寄る。
「レネア、大丈夫?」
「ああ、ユキノのお陰で楽に倒せた。それよりスケルトンが少なかったのはそういうことだったか」
どういうことかよくわからない私にロシュカが説明してくれた。
「モンスターが集まって上位種になることがあるの。それまで確認がされてなかったことからもスケルトンが集まって一体の強力なハイスケルトンになった可能性が高い」
「さっき五十体くらいは普通のスケルトンがいるって言ってたけど、残りの五十体がこれってこと?」
「いや、多分これは十から二十体くらいだと思う」
もう一体さっきのようなのがいるということだ。
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