16ターン目 パーティー加入と作戦会議

 ギルドから北に徒歩十分ほどで三階建てのレンガ造りの建物に到着した。『冒険者ギルド運営宿場』と掲げられた看板が目に入る。

 一階はエントランス兼レストランのようだ。広い空間に多くのテーブルが並び、所々で食事をしたり歓談する人がいる。奥にはギルドの職員と同じ格好をした人たちが受付をしていた。

 三十人でぞろぞろと入っていくと職員の男性がこちらに来た。


「レネア様、お待ちしていました。旗の置いてある席をお使い下さい」


 奥の方にまとまって黒い旗が置かれているテーブルがあった。レネアが迷わずその中央あたりに座る。まだ肩を組まれている私は自動的にその隣に座ることになった。

 全員が席に着いて荷物を下ろしたことを確認するとレネアは立ち上がる。


「早速だが作戦を立てる! まずは集まった情報を共有するぞ。フエナ」

「はい」


 レネアの隣の女性がゆっくりと立つ。


「目的地は北方の古戦場、元ヌベーテ領。百年ほど前に魔王軍と大規模な争いがあった土地です」


 待って魔王軍って何? そんなのがいるの? じゃあ人類対魔王軍って構図になってるの? とか聞きたいが今はグッと飲み込む。


「依頼内容は調査及び浄化。骨だけとなって動き続ける人間やモンスター、いわゆるスケルトンがうろついているようです。その数は百ほど。目安として元人間のスケルトンは緑以下、元モンスターは緑程度とのことです。その数と再生が厄介との報告が多数上がっていますね。一定以上の小ささに砕けば復活はできないのでそれを積極的に狙っていくことになるでしょう」

「いつも通りでいいと思うんだがどうだ?」

「ええ。ただ……」


 フエナが私の方に目線を向けた。


「ただ、何だ? はっきり言え」


 レネアの口調が少し荒っぽくなる。


「ユキノさんに何を任せたいのか、そもそも彼女に何ができるのかがわかりません」

「あー、そういうことか。実は私もよく知らん。でもシオリと似たようなことができるんだろう?」


 これははっきりとさせておかなければ。


「私のスキルはシオリとほとんど同じなんですけど、できることは少し違うんです。たとえば、四十枚のカードから三枚引いたカードに書かれている魔法が使えるんです」

「では何が出るかはわからないというわけですか?」

「そうです。ただ、その四十枚は私が好きなように入れ替えることができるんです」


 パーティーメンバーの中には首を傾げたままの人もいるが、レネアとフエナがついてこれているようなので話を勧める。


「同じ魔法は三枚まで、強い魔法は連続して使いにくいんとか色々制約があるんです。メリットはカードさえ持っていれば長い修行をしなくても魔法が使えるということですね」

「なるほど、最大四十の魔法を持てるというわけですね。もし、その魔法を使い切ってしまったらどうなるんですか?」

「使い切ったことがないのでわかりませんが、敗北となるのでこのスキルのルール次第では死にます」


 レネアは大声で笑った。馬鹿にするような雰囲気はなく、単純にスキルの話を楽しんでいるように思えた。


「リスキーだけど面白いスキルだな。シオリはそうやってデカいドラゴンを召喚してたわけか。さっきの言い方から察するにユキノはドラゴンは召喚できないんだろう?」

「はい、私は主に戦士を使います」

「というと私たちみたいな人間ってことか?」

「見た目はそうですね。ただ会話はできませんし、自発的に動くこともありません」


 レネアはフエナの方に顔を向ける。フエナは少し考える様子を見せた。


「その戦士は最大何人まで召喚できますか?」

「条件さえ整えば何人でも」


 クロマジにキャラクター召喚上限数はない。基本的に1ターンに一体しか召喚できないが、除去されなければ五体でも十体でも際限なく並べることは可能だ。


「なるほど、では維持距離や時間の制限は?」


 それは考えたことがなかった。カードゲームの性質上、自分と場のキャラクターの距離が変わることはない。時間については公式戦では対局時計を使う。シオリとTCGルールで対戦した時はそのような表示はなかった。憶測でしかないがよっぽど長考しなければ時間に制限はないのではないだろうか。


「距離については不明です。時間制限はないと思います」

「それについては少し調べた方が良さそうですね」

「……わかった。ユキノ、ついてこい。お前たちは好きに飲み食いしてていいぞ」


 宿場の外へ出て、少し歩くと街の外へ出ていた。舗装された道だが今は人の行き来はない。


「なんだ、全員ついてきたのか」


 私とレネアを取り囲むように仲間たちが立ち止まる。


「一緒に戦う以上、私たちもユキノさんの能力を把握しておくべきでしょう」

「それじゃあ距離から確認するか。ユキノ、召喚してみてくれ」


 スキルを発動する。手札にはキャラクターがいない。


「すみません、少し待ってください……」


 首筋に何かの先端が当たった。指、つまり手刀だと理解するのに数秒かかった。


「戦場でそんなこと言ってると死ぬぞ」


 その瞬間、手札が増えていることにも気づかずにその場にへたり込んでいた。鋭い手刀と言葉を突きつけてきた人物が、さっきまで明るく話していた人物と同じだとは思えなかった。


「ユキノさん!」


 フエナが駆け寄ってきて、背中をさすってくれる。私の呼吸が少し落ち着くとレネアの方に向き直る。


「レネア! 何考えてるんですか!」

「すまんすまん。でも通過儀礼みたいなもんだろ?」

「青に上がったばかりの人にやることではないでしょう! 第一……」


 そこで声が聞こえなくなり私の頬を何かが伝っていた。無意識のうちに涙を流していたのだ。それに気づいたフエナが口を止めてまた背中をさすってくれた。


「大丈夫ですか?」

「…………」


 恐ろしかった。胸が刺された感触と生温かい血が広がっていく感じを思い出す。自分の死因、しかも殺害された記憶が蘇る恐怖が襲いかかる。


「その反応、前に死にかけたことがあるな」


 なんとか体を動かし涙を拭うとレネアが目の前でかがんでいた。死にかけたのではなく死んだのだと言いかけて留まる。


「……はい」

「苦しいかもしれないがそれが冒険者だ。降りるなら止めはしない」


 私はこの世界を舐めていたようだ。これまでやってきたのは狩りで、これからするのは戦いなのだというのを体中で理解できた。

 シオリの顔を思い出す。彼女がくれたチャンスを無碍にしたくはない。レネアを睨むように見つめる。


「もう一度させて下さい」

「だそうだ。フエナ、下がってろ」


 レネアは立ち上がり先程と同じくらいの距離を取る。私はもう一度スキルを発動させる。キャラクターカードは二枚。私の力を見せるならこちらしかないだろう。


「≪雷霆の戦士 ナーデア≫を召喚。MP1消費で≪鼓舞の旗≫を使用。戦士キャラクターはAP1アップ。AP3になったナーデアでアタック」

「へえ」


 ナーデアの一振りを剣で受け止めた。LPは40/40と表示されている。規格外の数値だ。どうやら防御されるとLPにダメージは与えられなくなるらしい。


「MP2消費でマジックカード≪悔し涙の再戦≫を発動。LPにダメージを与えられなかった場合、キャラクター1体のAPを倍にしてもう一度アタックできる」


 AP6になったナーデアがもう一度斬りかかる。レネアは後方へ跳んで回避した。


「レネアさんが避けた?」


 仲間たちの誰かが驚いた様子で発した。


「一回目よりちょっとヤバそうな感じがしたんだよ。オーケー、召喚魔法とその戦士に対する強化魔法で戦う感じだな。今目の前にあるカードが増えたから新しい魔法が使えるわけだ。説明通りでも実際に見ないとわかりづらいこともあるからな」

「維持距離をまだ見てませんよ」


 フエナに言われ「そうだったな」と笑う。私はナーデアからゆっくり離れるように歩く。みんなの姿が見えなくなってしばらくしたところで仲間の一人が戻るよう呼びに来た。


「相当な距離維持可能であることがわかりました。自発的に様々なことができるわけではなさそうなので限界距離を測定する必要もないでしょう。そうよねレネア」

「ああ、ユキノは後衛だな。もし魔法や魔道具の有効範囲があるなら、前に出てきてもらいたいがまずフエナの指示に従ってくれ」

「はい」

「それ以外はいつもの陣でいいだろう」


 宿場に戻るとフエナが一人一人の名前を呼び役割を指示していく。

 作戦会議が終わったためその場を抜け出そうとする。建物を出たところでレネアに呼び止められた。

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