15ターン目 黒級冒険者レネア

 あれから四日しか経っていないが街に出るのは久しぶりな感じだ。ギルドには人が賑わっていた。

 手紙には階級についてのお知らせがあるから、ギルドに来るようにとのことだった。


「すみません、これで来たんですけど」


 手紙を広げて受付のお姉さんに見せる。


「はい、少々お待ちください」


 お姉さんは裏に行った。数分して壮年の男性を伴って戻って来た。


「どうも、副長のオズドです。お察しかとは思いますが昇格についてですね。ほぼほぼ確定なんだけども一応決まりとして少し面談させてもらいますよ。案内します」


 受付の裏へ通され、個室に入るように言われた。そこで座って待っていると、さっきのお姉さんがお茶を持ってきてくれる。お茶をすすっているとオズド副長と女性の会話が聞こえてきた。


「ギルド長、例の彼女来ましたよ」

「シオリ・アオミヤやサクラ・ハイノイみたいな魔法を使うっていうルーキーか。まだ青だろう、任せる」


 副長がわざわざ新人冒険者の昇格に立ち会わなくてもいいのにと思う。投げやりな言い方は少しムカつくがトップが来なくて安心した。しかし、サクラ・ハイノイとは誰だろう。名前からすると同じ転生者か?

 足音の方を振り返るとオズド副長がやってきた。


「お待たせしました。早速いくつか質問させてもらいます。冒険者もしくは開拓者としての目標はありますか?」


 カードを集めるためですと答えていいのか? 胡散臭いが世界平和とでも答えた方がいい?


「あまり気負わず答えてください。お金でも力試しでもいいんですよ。大っぴらに暴力を公言されると、その時点で警戒せざるを得ないんですけども」


 腰の低さと愛想笑いで緊張を解きそうになる。同時にいい回答に至った。


「シオリ・アオミヤさんみたいになるためです」

「……たしかギルド登録を彼女に勧められ、初クエストも一緒にこなしたとか。スキルも似たような召喚魔法だそうですね。やはりその繋がりで知り合ったのですか?」

「そうですね。召喚できるキャラクターは全然違うんですけど」

「彼女は短期間で黄色まで駆け上がってきた優秀な冒険者だと聞きます。そんな人に目をかけられたのだから将来有望なのでしょうね」

「いえ、そんな……」


 しかし、質問の意図が読めないな。入試の面接みたいだが、こちらは点数をつけるわけでもないだろう。本当にさっき彼が言った通りの大した意味がないお役所仕事なのか。


「憧憬ですか、いいでしょう。ではこれを」


 青い階級タグを渡してくれた。


「基本的に各階級に人数制限はありません。どうしてかわかりますか?」


 オズドが険しい顔になる。それで理由を察した。


「……一定数死ぬからですか」

「頭の回転が速い。階級は我々ギルドが管理しており、その功績で判断しています。昇降については他の冒険者たちの評価なども参考にしているのです。今日は人が多いでしょう? これからある冒険者が当ギルドに来る予定なのです。彼女は実績は勿論ですがその人気も買われて黒まで昇りつめた人物です。見ていくだけでも参考になるかもしれませんよ」


 実質最高位の冒険者が来るというのだから当然見ていこうと思った。

 オズドに礼を述べて受付の外に出る。来た時よりもさらに人が増えており、外まで溢れていた。子ども、エプロン姿の婦人、杖を片手にした老人など、明らかに冒険者ではなさそうな人も多い。有名人を一目見たいという感じなのだろう。外に出たところで誰かが大声を出した。


「あ! 来たぞ!」

「レネア様ー!」


 ギャラリーが道を開けるとレネアが見えた。先頭を歩く鎧を着込んだ女性がそうなのだろう。後ろには同じ鎧を着た男女が三十人ほどついてきている。凱旋なのだろうか。レネアはギャラリーたちに手を振りながらギルドまで真っ直ぐ進む。彼女は入り口で立ち止まった。


「失礼、ユキノ・クロカワという冒険者はいるか?」


 大声で私の名前が呼ばれた。気のせいと言い聞かせてコソコソとその場を立ち去ろうとする。すると後ろから声をかけられた。


「ようユキノ、あんたレネアと知り合いなのか?」


 ロランのはきはきとした声はその場の注目を集めた。余計なことしやがって。

 レネアが駆け足でこちらに向かってきた。


「おお、君がユキノか。私はレネア・ゼステアだ。早速だがこれから行く大規模討伐に参加してくれないか?」

「へぁ?」


 変な声が出た。たった今青になったばかりの初心者を誘う意味がわからない。


「シオリ・アオミヤに声をかけたのだが断られてしまってな。代わりにと君を教えてくれたのだ」


 この衆人環視の中で人気者の誘いをはっきりと断る勇気は私にはない。やんわりと断るためにこちらから話題を振る。


「どんな依頼なんですか?」

「よく聞いてくれた。開拓の仕事だ。北に骨だけの兵士が守り続けているという古戦場がある。その調査兼浄化だ。最低でも一人金一枚は保証されている。国からの依頼だから反故にされることもないぞ」


 なるほど、公からの依頼もあるのか。日本だったらギルドが大量の報酬を中抜きしてたんだろうな。


「私にどのような役目を求められているんですか?」

「先発隊に入ってもらおうと思っている」

「なら私のスキルでは難しいですね。召喚や魔法を使うのに時間がかかるので前衛だとすぐにやられてしまいます」

「ふむ、では中衛から後衛の配置ならどうだ?」


 そこまでシオリが欲しかったらしい。


「……シオリほどの働きを期待しないでください。今青に上がったばかりの初心者です」


 タグを出しながら思わずこう言ってしまった。これでは予防線を引きつつも行きますよと言ってるようなものではないか。

 レネアが私の肩に手を置く。


「おお、来てくれるか! 心配することはない。ちゃんと作戦を立てて行けばそこまで難しい依頼ではないよ」

「よ、よろしくお願いします……」


 拍手が巻き起こる。すごい恥ずかしい。


「レネア様のパーティーに加えてもらえるなんてすごいな!」

「姉ちゃん、頑張れよ!」


 やめてくれ。そんなに期待しないでくれ。


「ユキノ、三日後出発だ。作戦会議があるんだがこれから時間はあるか?」

「あ、はい」

「大所帯向けの宿を取ってある。そこでするつもりだ」

「作戦会議の後、一度準備に戻りたいんですが大丈夫ですか?」

「問題ないぞ」


 かくして黒級冒険者に肩を組まれながら大きな宿へと向かうことになった。

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