14ターン目 クロマジ体験会その4

 リーナは三分くらい手札とにらめっこしていた。待ちきれないという様子でコウが口を開く。


「ずっと考えてても仕方ないだろ。負けても死ぬわけじゃないし、現時点で思いつくことをやってみたらどうだ」


 ごもっともなんだけど、それを負けたら死ぬ世界で生きてる私の前で言うとは大したものだな。


「……マジックカード≪人を呪わば≫を発動。自分の墓地のカードとこのカードの中からランダムに一枚選ぶ。それが≪人を呪わば≫なら相手のモンスターを全て破壊する。違ったら私は手札を一枚捨てる。発動には墓地に五枚以上のカードが必要だけど、LPが5以下だから枚数関係なく発動できるよ」


 彼女の墓地には≪鋼鱗のドラゴン≫、≪スピードアップ!≫、≪ポイズンリザード≫の三枚。つまり四分の一の確率で全破壊だ。

 トウが四枚を受け取りシャッフルして並べる。リーナが一枚を表向きにした。


「当たった!」


 大したものだ。けれど次のターン速攻持ちが出たら負けるぞ、どうする?


「MPを2消費して≪回復カプセル≫の効果発動。一枚ドロー。≪首取り亀≫を召喚」


 いい防御札を引いたみたいだ。APは0だが≪鋼鱗のドラゴン≫のようなアタック引きつけ効果に加え、バトルした相手キャラクターを破壊する効果を持っている。

 そういえばドラゴン、トカゲ、ヘビ、カメと爬虫類系のキャラクターが多いな。組む際には単純にステータスや効果で選んでいるから私は意図していない。


「≪邪道な蛇童≫でアタック。ターンエンド」


 これでトウのLPは7。


「ドロー、MPを3まで回復。≪見習い戦士 ハルル≫を召喚。アイテム≪救援の旗≫を使用してターンエンド」


 手札事故かリソース切れの時の戦士ビートでよくある盤面だ。今回は後者が近いか。


「ドロー、MPを3まで回復。≪回復カプセル≫の効果でLPを2回復。マジック≪ブレイク≫を発動。≪救援の旗≫を破壊するね」


 彼女は序盤から≪ブレイク≫を握っていた。アイテムを使用するのを今かと待ち構えていたわけだが、この局面では相当に響く。


「≪ミスターアックス≫を召喚。≪邪道な蛇童≫でアタック。ターンエンド」


 リーナのLPは5まで回復、対してトウのLPは4。


「ドロー、MPを3まで回復。≪見習い戦士 ハルル≫を墓場に送りMPを1消費。≪雷撃の戦士長 ナーデア≫を覚醒召喚。≪ライトニングソード≫を使用。≪首取り亀≫をアタック」


 覚醒ナーデアはAPが上回った分LPにダメージを与える。つまり7のダメージ。


「負けちゃったー」

「すげーいい勝負だったな」


 コウの言う通りだ。まさか寄せ集めでここまで見ごたえのある対戦を見せてくれるとは思わなかった。


「うん、どっちが勝ってもおかしくなかった。致命的なプレミはなかったし、運が勝敗を分けたって感じ」

「プレミ……?」

「ああ、プレイングミスの略。明らかにした方が良かったことをしなかったり、逆にしない方が良かっただろうってことをした時に言うの」


 私は戦士ビートから二枚のカードを、寄せ集めから一枚のカードを抜きだした。


「例えばさっき≪暗殺の呪詛≫で≪血に染まる鎧の戦士≫を破壊したでしょ。その時一緒に≪魔法戦士 アルメナ≫がいたけど、どっちを破壊するかどうやって決めた?」

「APが高いからだけど……」

「だよね。じゃあ相手の墓場にマジックカードが四枚以上あったら?」

「それだとアルメナかな」

「同じAPでアルメナは毎ターンアタックできるわけだし、マジックを使ったらまだまだ上がるわけだろう」

「そうだね。その場面だと≪血に染まる鎧の戦士≫を破壊するのは一般的にプレミとされるの」


 まあさっきの場面でも自分のターンを二回行った際に与えられるダメージはアルメナが6、血鎧が4だからダメージ効率だけで言えばアルメナの方が良い。ただ他にわかりやすい例が浮かばなかったのだ。いや、もう一つあった。


「さっきカプセルで回復し忘れそうになったのもそうだね。何を破壊するかは結果論みたいなところがあるけど、自分だけのミスは気をつければ絶対なくせるからそこは意識しようね」

「うん、わかった」


 さて、そろそろ大事なことを聞こう。


「どうかなクロマジは楽しかった」


 三人とも好意的に首を縦に振ってくれた。


「カードを増やしていくと戦略の幅が広がってゲーム性が増していくんだけど、今のところカードを手に入れる方法が私が戦うしかないみたいなの。だから依頼をこなしていきたいと思ってる」

「今のままでも十分楽しいぞ。危険な冒険をしてまでカードを増やすことはないんじゃないか?」

「そうだよ。ユキノさんと遊びたいよ」


 私だってみんなと一緒に遊びたい。でもそれ以上の気持ちがある。


「……カードを集めて、強くなって、シオリに勝ちたい。それに他にもクロマジスタがいるかもしれない。だから冒険に行くの」

「そっか、いつでも帰ってこいよ。リーナ、泣くな」

「最初のうちはあまり遠くに行かないからもう少しこの家を拠点にさせてもらうつもり」


 顔を上げたリーナを抱きしめる。


「大丈夫、お別れじゃないよ。新しいカードを持って帰ってくるから、その時は今日みたいにみんなでご飯食べて一緒に遊ぼう」

「……うん!」


 その三日後、ギルドからの手紙が届いた。

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