13ターン目 クロマジ体験会その3

 リーナの戦士ビート対コウの寄せ集めデッキはコウが守りを固められずそのまま終わった。

 次はコウが戦士ビート、トウが寄せ集めを使っての対戦だ。これも戦士ビートの勝利。それでもトウは初戦を見ていたのでかなり上手に立ち回っていた。しかし、速攻で点を削るのを目的としたデッキ相手にLP10でのスタートとなれば苦しいものがある。極端な話だが≪ライトニングソード≫を使用した≪雷霆の戦士 ナーデア≫に二回攻撃されたらゲームセットなのだ。

 そしてリーナが寄せ集め、トウが戦士ビートを使っての対戦だ。リーナの先攻で開始。


「ドロー、≪鋼鱗のドラゴン≫を召喚。ターンエンド」

「ドロー、MPを1消費して≪手札交換ハンドチェンジ≫発動。三枚デッキに戻して同じ数ドロー。≪荒野を駆る戦士≫を召喚。ターンエンド」


 ≪鋼鱗のドラゴン≫のAPを上回るカードがなかったようだ。これがドラコン相手だったらここで一手遅れるのは下手したら負けに直結する。


「ドロー。……うーん」


 何やら悩んでいるようだ。私とコウは何に悩んでいるのか気になり手札を覗き込む。その瞬間リーナがカードを出す。


「≪ポイズンリザード≫を召喚。≪スピードアップ!≫を≪ポイズンリザード≫に使うね」


 どうやら≪邪道じゃどう蛇童へびわらし≫と悩んでいたのだろう。こちらはAP0だが召喚時にAPを3まで好きな数支払うことで同数値分のAPになるキャラクターカードだ。


「≪ポイズンリザード≫でアタック」


 この状況トウはどうする? 同じ立場なら私もどうするか悩む。


「≪荒野を駆る戦士≫の効果発動。デッキに戻してアタックを無効」

「ターンエンド」


 ≪ポイズンリザード≫の追加ダメージを嫌っての選択だろう。キャラクターを残しておくという選択肢もあった。≪ライトニングソード≫や覚醒ナーデアを引けば≪鋼鱗のドラゴン≫を超えられるから逆転の可能性もある。


「ドロー。MPを3まで回復。≪血に染まる鎧の戦士≫を召喚。そのままアタック」


 ≪鋼鱗のドラゴン≫は破壊される。だけどこのままだとダメージレースで負けてしまうぞ。


「MP1消費して≪戦士の休息≫を発動。次のアタックを一回無効にする。ターンエンド」


 実はこのカード、元の世界にいた頃はデッキから抜こうと思っていた。アタック無効は任意のタイミングではなく次の一回目の攻撃なので、二体以上のキャラクターを出してAPの低いキャラクターでアタックしてからであれば容易に本命のアタックを通されてしまう。MP1消費でこれはイマイチだ。カード名には『戦士』と入っているが戦士デッキ以外でも使うことができる汎用性の高い効果である。にも関わらず最近ではほとんど使われることはない。入れている理由はナーデアやハルルが鎧を脱いで飲み物片手に歓談しているっぽいイラストが好きだからだ。

 しかし、こちらでは何かと重宝している。ドローまでの時間を稼ぐのに逃げ回る際、万が一の場合にモンスターの攻撃を防ぐ保険としての意味合いが強い。何かと救われているし今のところ抜かないだろう。

 さてリーナの番だ。


「ドロー。んー……」


 さっき手札を見た限りだと≪邪道な蛇童≫を出すものだと思ったが、何を引いたのだろうか。


「≪回復カプセル≫を設置。MPを2消費して一枚ドロー」


 今使った効果と毎ターン開始時にLPを2回復する効果を持つカードだ。なるほど≪暗殺の呪詛≫とどちらにMPを使うか考えていたようだ。


「LPを3払って≪邪道な蛇童≫を召喚。これでAPは3になるよ。≪ポイズンリザード≫でアタック」

「≪戦士の休息≫の効果でそのアタックは無効」

「ターンエンド」


 LPはリーナが7、トウは10。けれど盤面はリーナの方が少し有利といった感じである。

 少し考え事をしている間にトウが自分の番を始めていた。≪血に染まる鎧の戦士≫は自身の効果で臨戦態勢に戻れない。


「≪魔法戦士 アルメナ≫を召喚。ターンエンド」


 手札を見ていないがMPを温存したことで彼が引いたカードの予想がつく。経験者であれば、ここで相手のターンに使えるカードを握っているというブラフを仕掛ける可能性がある。相手もそれを警戒して動くことになるが、まだそんな発想には至らないだろう。


「ドロー、MPを3まで回復。≪回復カプセル≫の効果でLPを2回復。MPを2消費して≪暗殺の呪詛≫を発動。≪血に染まる鎧の戦士≫を破壊するね」


 LPを9にし、相手のアタッカーを破壊。流れが来ているのはリーナだ。しかし……。


「≪邪道な蛇童≫でアタック」

「MPを3消費してクイックマジック≪ネヴァンの声≫を発動。≪邪道な蛇童≫と≪ポイズンリザード≫をバトルさせる。これで≪ポイズンリザード≫は破壊される。その後、その二体のAPの差以下の戦士キャラクターをデッキからクイック召喚できる。≪荒野を駆る戦士≫をクイック召喚」


 思わず「へぇ……」と感心の意の声が漏れてしまう。何のアドバイスもしていないのにこのコンボに辿り着くとは大したものだ。

 相手のキャラクターが同じAPであればどちらも破壊されるが、そうなることは多くない。そうなると残ったAPの高いキャラクターのアタックは可能となってしまう。そちらは荒野の効果で防ぐという戦術だ。

 ちなみにネヴァンというのはケルト神話に出てくる女神だそう。カラスの姿で恐ろしい声を上げ、戦士を発狂させて同士討ちさせるらしい。イラストには同じ軍服を着た男が剣を持って向かい合っている様子と、それらを遠くから狙っている敵の兵士が描かれている。

 リーナが私を見ていた。


「≪邪道な蛇童≫は≪ポイズンリザード≫とバトルしちゃったけど、最初のアタックはどうなるの?」

「それは続行できるよ。ネヴァンにはアタックを無効にするとは書いてないからね」

「じゃあそのままアタックするよ」

「≪荒野を駆る戦士≫の効果でデッキに戻してアタックを無効」

「ターンエンド」


 トウのターンだ。彼の墓場のマジックカードは≪手札交換≫、≪戦士の休息≫、≪ネヴァンの声≫の三枚。アルメナのAP3は保証されている。


「ドロー、MPを3まで回復。MP2を消費して≪強敵襲来≫を発動。デッキから≪雷霆の戦士 ナーデア≫をクイック召喚。MPを1消費して≪魔法戦士 アルメナ≫の効果を発動。墓場のマジックカードの数だけAPをプラス。APは4になる」


 合計APは6。≪ライトニングソード≫でもあれば勝ちだが……。


「≪見習い戦士 ハルル≫を召喚。効果を発動。待機状態にして≪魔法戦士 アルメナ≫のAPを2プラス。そして二体でアタック」


 LP1。ギリギリ決着にはならなかった。それでもトウのLPは変わらず10。次のターンで逆転の一手がなければそのままリーナの負けだろう。


「ターンエンド」

「ドロー、MPを3まで回復。…………」

「……カプセル」


 効果を忘れてそうだったのでボソッとアドバイス。考え事が多いとそういうこともあるよね。


「あ! ≪回復カプセル≫の効果でLPを2回復」


 手札とにらめっこするリーナの手札を覗かないことにした。何を握っていてどう動くかを対戦相手と同じ状況で見たいと思ったからだ。

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