12ターン目 クロマジ体験会その2

「もう使えるカードはないね。ターンエンドを宣言して」

「ターンエンド」

「じゃあリーナのターン。この時、待機状態のキャラクターがいたら自分の方に戻すの。これを臨戦態勢にするって呼ぶの。それからドローね」


 リーナは言われた通りにする。引いたカードは……ちょっと生々しいカードを見せることになっちゃった。


「これ出してもいい?」

「いいよ」

「≪血に染まる鎧の戦士≫を召喚」


 鮮血がべったりとついた鎧を着込んだイラストは意外と気にしていないようだ。そういえばMPの説明をするのに丁度いいカードなのでここで話しておこう。


「テキストに条件って書いてあるカードには効果を使うのにMPっていうのを使う必要のあるカードがあるの。MPを使う効果は強いものが多い。毎ターン3に回復するけど、逆に言うとその3の中で上手くやりくりしなくちゃいけないの。例えばこの≪血に染まる鎧の戦士≫はMP1を消費して速攻を持たせられるのよ。デッキの右下に置いたMPカウンターっていうのを離れたところに置いて効果の発動を宣言してみて」

「えーと、MPを1消費して≪血に染まる鎧の戦士≫の効果を使うね。これで速攻を持つよ」


 トウが不思議そうな表情を浮かべている。私は彼にどうしたのか聞いてみた。


「……ナーデアはカードやMPを使わなくても速攻を持ってる。ミスターアックスは他のカードを使わないと速攻を持たせられない。このカードはMPを使わないと速攻が持てないんだね」


 いい着眼点だ。


「じゃあまず血の戦士のAPを見てみて。4ってことはナーデアやアックスの倍だよね。それだけで強いのに速攻を無料タダで持ってたら誰もナーデアやアックスを使わないでしょ? パワーバランスっていうのを考えて作られてるの」


 三人とも納得したという表情になった。だがそこでコウが新しい疑問を投げかけてくる。


「じゃあアックスとナーデアは? 同じAP2でナーデアだけ速攻持ちだぜ」


 これはゲームバランスではなく、ビジネスという大人の事情なので納得しづらいかもしれない。


「アックスはナーデアよりずっと前に作られたカードなの。前よりちょっと強いカードを作るとその新しいカードが欲しいと思ってお金を出してくれるようになるでしょ? だからパワーバランスを崩さない程度に似てるけどちょっと強いカードが出てしまうことがあるの。こういうのをナーデアはアックスの上位互換、逆にアックスはナーデアの下位互換って言ったりするわけ。あと、一概にどちらが優れてるとは言えない相互互換って言葉もあるの。ホントはナーデアがあれば良かったんだけど、寄せ集めだからさ……」

「なるほどな」


 少し難しい話をした気がするがコウとトウは頷いている。理解が速くて嬉しい。


「アックスはかわいそうだね」


 リーナは優しい子だなあ。仮にも今さっき自分のキャラクターを倒したカードだというのに。


「そうだね。でもあの時ナーデアじゃきゃ助けられなかったのも事実なんだよ。さ、続きやろ。コウの場にはキャラクターがいないよ」

「うん。≪血に染まる鎧の戦士≫でアタック!」


 これでコウのLPに4のダメージ。今はLP10でスタートしたので残り4だ。

 ちなみに≪血に染まる鎧の戦士≫は次のターン臨戦態勢にできない。その説明をする。


「それなら2ダメージで二回攻撃できるのと一緒じゃないの?」


 リーナの質問に答えようとしたところ。


「でもこっちならAP2と相打ちにならない……」


 トウが先に答えを出す。それだけではないので付け加える。


「それも正解。基本的に1ターンに1回しか召喚できないでしょ? じゃあ相手のLPが残り3だったら?」

「あ! 1ターンで勝てる!」

「そういうこと」


 ここでターンエンド。コウがドローする。


「ユキノ、ここからは一人でやってみるから変なところがあった時だけ教えてくれ」


 私は無言で頷く。


「俺はMP2を消費して≪暗殺の呪詛≫を発動。≪血に染まる鎧の戦士≫を破壊だ。≪鋼鱗のドラゴン≫を召喚。ターンエンドだ」


 今でこそドラコンの壁役という印象が強いが、カテゴリやコンボを気にせず強いカードを沢山いれたグッドスタッフというジャンルのデッキでもよく使われていた。使っているといざというタイミングでアタックできないことがモヤモヤするが、相手にすると面倒くさい。血の戦士ならブランクこそあれど倒せたが、それも封じられた。


「ドロー。……うーん、どうしよう」

「あ、ドローと一緒にMPを3に回復ね。カウンターを元の場所に戻して」

「はーい」

「悩んだらカードの効果をよく見てみて」


 リーナが品定めするようにじっくりと手札を見比べて、数分後に耳打ちしてくる。自分の考えた戦法ができるかどうかの確認だった。


「できるよ。私もこの場面ならそうしたと思う」


 リーナの表情が明るくなる。それとなく褒めるの大事。


「MP2を消費して≪強敵襲来≫を発動! 相手にAP3以上のキャラクターがいるから、デッキからAP2以下の戦士キャラクターを召喚するね。≪雷霆の戦士 ナーデア≫をクイック召喚!」


 二体目のナーデア。


「さらにMPを1消費してアイテム≪鼓舞の旗≫を使用。戦士キャラクターのAPは1アップ。ナーデアでアタック」


 これは強制的に≪鋼鱗のドラゴン≫へのアタックとなる。


「相打ちか……」


 コウがカードを墓場に動かした。その後「あれ?」という表情でリーナと彼女の場に交互に目線をやる。


「そっちも破壊だろ?」

「≪鼓舞の旗≫の」効果で毎ターン一回だけ、戦士キャラクターはバトルで破壊されないの」

「何!?」


 デッキの地力が違うので仕方がないが、コウがあまりいい所を見せられていない。だが彼は一人でやってみると言った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る