11ターン目 クロマジ体験会その1

 リーナの家に帰ると家族総出で迎えてくれた。とても心配をかけてしまったようだ。申し訳ないという気持ちと同時に、この家に受け入れられていたという温かさを嬉しく思う。


「ユキノさん、怪我はない?」


 リーナが抱きついてきて、泣きそうになりながら聞いてくる。


「うん、悪い人じゃなかったから。むしろ色々教えてもらったよ。忙しくて帰れなくてごめんね」


 リーナは安心したという表情で私の胸に顔をうずめる。


「無事に帰ってきたならそれでいいんだよ」

「……おかえり」


 リーナの兄のコウとトウは優しく声をかけてくれる。

 三人の母親がまずはと水浴びを勧めてくれた。ここまで誰もそういう素振りを見せなかったが、私は今結構臭いと思う。

 三日ぶりの水浴びはとても気持ちがよい。でも街で公衆浴場に行っておけばよかったと思ってしまう。

 夕食を食べながら何があったかを話す。ありのままを話して差し支えないだろうけど、私をいきなりどこかへ連れていったシオリを悪者にしないように気をつけた。


「じゃあ冒険者になるのか?」

「うん、ゆくゆくはそのつもり」


 コウの問いに即答する。リーナはまた悲しそうな顔をしていた。


「すぐに出るわけじゃないよ。もう少しお金を貯めてから。それに伝えたいこともあるしね」

「伝えたいこと……?」


 夕食後、兄弟三人の前でカードを広げた。みんな食い入るように見つめている。


「これがさっき話したシオリから貰ったカード。折角だから一緒に遊びたいと思うんだけどどうかな?」

「やりたい!」

「俺も!」

「……うん」


 三人とも興味津々のようで嬉しい。


「じゃあまずこのカードを見て」


 ≪荒野を駆る戦士≫、≪ブレイク≫、≪ライトニングソード≫を横に並べる。


「クロマジにはキャラクター、マジック、アイテムって三種類のカードがあるの。キャラクターは私が出して戦わせてるやつね。マジックは時々攻撃を防いだりするので使ったんだけど覚えてるかな。アイテムはキャラクターに持たせたりするカードのこと。カードの右上にCって書いてあるのがキャラクター、Mがマジック、Aがアイテム。で、基本的に1ターンに一回だけキャラクターを召喚できるの。……ここまでわかる?」


 リーナはいまいちわかってなさそうだ。多分だけど二人も思ったより難しそうだと思っている。


「じゃあ実際にやってみようか。ちょっと待っててね」


 広げたカードを集めてデッキを組む。元々貰う時に使いやすいものやカードの種類のバランスを選んでおいたので、寄せ集めとはいえまとめるだけでそれなりのデッキとなる。デッキの最低枚数は三十枚、そして上限はない。貰ったカードだけだと一つしかデッキが作れなかったので、もう一つは私の戦士ビートを使ってもらう。

 私の戦士ビートは四十枚構成だが、貰い物の方は三十枚で組んだ。ちなみに、スキルとして使わないなら所持上限以上にデッキを組んで遊べるみたいだ。リーナが戦士ビート、コウが寄せ集めを使い勝負してもらうこととなった。

 当然だがここからは逐一指示しながら進める。デッキをシャッフルさせて右側に置いてもらう。その右横にLPカウンターを十個置く。


「普通は二十個でやるんだけど、三人いるし回数やってもらいたいから十点でやってみようか」


 その少し下にMPカウンターも置く。私は公式の販売しているおはじきのようなカウンターを使用しているが、普通のおはじきでもコインでも、なんなら紙で加減してもいい。ただ、LPとMPのカウンターがごっちゃにならないように気をつけること。それも説明しておいた。次にデッキの上から五枚を引かせる。私は二人の手札を確認した。先に見ておくことでチュートリアルを行いやすくる。

 先攻後攻の決定はじゃんけんでもコイントスでもダイスでもいいが、今回はコイントスで決める。リーナの先攻だ。


「まずは一枚ドローしてそれを確認。今回はどっちのデッキにも入ってないけど、引いた時に何かあるカードもあったりするから頭の隅に置いておいて。まずは好きなキャラクターを出してみようか。さっき言ったCって書いてあるやつね。どれがいい?」

「じゃあこれ」

「それを場、この辺に置いて」


 デッキの左上ら辺を指さす。リーナは≪雷霆の戦士 ナーデア≫を召喚した。私と一緒に彼女を救ったキャラクターだ。強そうで使ってみたいと思うのは当然だろう。速攻持ちで召喚したターンにも攻撃できるカードなので、相手の場にキャラクターのいない状況にも合っている。


「他に使えるカードはないから攻撃してみようか。普通は出したターンには攻撃できないけど、『速攻』って書いてあるカードならすぐに攻撃できるよ。カードを回して相手の方に向けてみて。それが攻撃宣言」


 カードを回転させて相手に向けた状態は待機状態という。攻撃宣言と同時に待機状態というのも変に聞こえるだろう。初期は攻撃をしたという目印として攻撃後に待機状態にしていた名残なのだ。


「≪雷霆の戦士 ナーデア≫で攻撃」

「これでLPに2のダメージ。デッキ横に置いたカウンターを二個取るよ」


 コウの手札にはこのタイミングで使えるカードはない。リーナも使えるカードはないのでターンは終了だ。コウの横に行く。


「俺の番だな。ドロー。ユキノ、これ出していいか?」

「出せるよ」


 判断が速い。というか直感で選んだな。本当はこの状況に適したキャラクターは別にいるけれど、使いたいキャラクターを使わせてあげよう。


「≪ミスターアックス≫召喚!」


 名前から察せる通り斧を持った巨漢だ。わかりやすく強く見える。


「まだ攻撃はできないんだよな?」

「うん、普通は。ただこのカードを見てみて」


 私は手札のカードを指さす。≪スピードアップ!≫、キャラクター一体に速攻を持たせるマジックカードだ。


「なるほどな。≪スピードアップ!≫を発動。≪ミスターアックス≫は速攻を持つ。ナーデアにアタック!」

「どっちもAPが2だから相打ち。キャラクターを墓場、こっちの方に置いてね」


 墓場は左側、デッキと反対側にある。置き場所の書いてあるプレイマットがあればなあと思う。

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