10ターン目 スキルの成長
帰りは行きよりも長く感じた。七匹のリザードの死体を連れているのだから当然と言えば当然だろう。荷車を引いているのは≪鋼鱗のドラゴン≫だが、キャラクターの存在を維持しているとシオリも疲れるようで、時々休憩を入れながら進む。
「ごめん。私もバトル以外でも実体化させられれば良かったんだけど」
「気にしないで。私もこれができる前は誰かと組んでやってもらっていたから」
シオリは本当にいい人だ。こうやって一緒に行動できたらとても頼りになるし楽しいだろう。だが、彼女は行きの途中で今は基本的にソロでやっていると漏らした。そして、その時の表情が陰っていたのは印象深い。世話を焼いてくれているのも同じ世界からの転生者かつクロマジスタだからだろう。今パーティーを組んでも私がお荷物になるのは見えている。だから、まだこちらからは切り出さない。
街が見えたところでシオリが少し怠そうに口を開く。
「先に街に入ってギルドから人を呼んできてもらえる? 私は入口付近で待ってるから」
たしかに人の多いところにリザードの死骸をいきなり持ち込むのは気が引ける。街の入口には兵士が立っていた。少し離れたところに見えるシオリのことを話し、赤いタグを見せるとすんなりと通してくれる。
ギルドの受付で事情を話すと、お姉さんは人を呼びに行った。戻ってきた時には筋肉ムキムキのおじさんと、中肉中背の青年が一緒にいる。
「お二人はモンスターの鑑定や解体を行っている業者の方です。依頼の達成を確認するために私も同行します。案内していただけますか」
入口ではシオリと兵士が何か話していた。特に問題があったわけではなく、ただの世間話のようだ。ドラゴンは消えており、リザードを積んだ荷車だけが残っている。
お姉さんがシオリと荷車を見比べながら声をかける。
「お待たせしました。では確認いたします」
「はい、お願いします」
シオリが答えると男二人がリザードのあちこちを触っていく。私たちはそれを見守っていた。飲食店にでも休憩したかったところだが、鑑定中に素材をちょろまかされる事件があったと言われたら立ち会わざるをえない。その間に本当は八匹倒したが死骸が食われてしまったということと、村は八匹分の報酬を支払うと言ったことをシオリがギルドに説明していた。
鑑定は二十分ほどで終わった。青年が紙を渡してくれる。
「素材として使えるのは四匹です。お二人の取り分は銀四枚になりますね。詳細はこちらに書いておきました」
解体とか素材の売却の手間賃が結構引かれているようだ。まあノウハウも売却先もわからないし仕方がない。
私たちはギルドに戻り、お姉さんの出した紙にサインする。折半して二枚ずつ銀を受け取った。これで依頼達成だ。すると目の前にあの説明の表示が出る。なんだか久しぶりだ。
『デッキ1の編集が可能になりました』
お、やったね。
「編集できるようになった?」
「うん」
「すぐに階級も上がると思う。そうしたらカードの所持上限か、デッキの所持上限が増えるよ」
「それどこで確認できるの?」
「やったことない? デッキケースあたり触って念じてみて」
言われた通りにすると、たしかに表示された。
『使用可能デッキ1/1 カード所持数43/100』
「ほんとだ、知らなかった」
「上限が増えると、持ち込んだ他のデッキが使えるようになったり、新しく作れるようになるよ」
未使用のカードでもまだ六十枚近く持てるということだ。
「シオリは何枚持ってるの?」
「二百枚くらいかな。あんまり中身変えてないから使ってないカードも多いよ」
「じゃあ使ってないカード売ってくれない?」
今回の依頼で貰った銀五枚を差し出す。
「いいよ」
聞いといてなんだが、まさか理由も聞かずに即答されると思わなかった。
「ただ譲渡ができるかわかんないよ。これあげるから所持数に反映されるかみてみて」
そう言って適当なカードを手渡してくれる。所持数の表示をもう一度開く。
『カード所持数44/100』
「増えた。そっちは?」
「減った。これ地味に便利じゃない? よく気がついたね」
クロマジは"トレーディング"カードゲームなのだ。やり取りできない理由がない。
「じゃあこっちで売ってもいいカードだけ渡すからその中から選んで。その後いくら貰うか決めるから」
シオリも生粋のカードゲーマーだ。カードの価値を加味して金額を決めるだろう。あまり強いカードばかり選ぶとお金が足りなくなる。
「ここでやるのもあれだし、どこか座れるところに行きましょう」
近くの食堂に入ってご飯を食べた後カードを選ぶ。ノーマル多め、テキストはわかりやすいものを優先、かつ色々な戦略が取れるようにカテゴライズされていない汎用性の高いカードを多めに。計四十六枚。一応所持数に十枚の余裕を残しておいた。
シオリに確認してもらう。
「これなら銀一枚でいいよ」
「え……?」
「だってどれも使わないし。元の世界のようにカードの供給が多いわけじゃないからこれくらいもらっとくって感じかな。でも一つ聞かせて。戦士ビートで使わないでしょ? もしかしたら今後使うかもってことで手持ち充実させておきたいの?」
理由に不純な動機は全くないが、ちょっと恥ずかしい。けれど隠すことで信頼を失いたくはない。
「……クロマジを布教しようかと思って」
シオリは笑いだす。
「あはははは! いいね、その発想はなかったよ。そういうことならタダでもよかったのに」
「そういうわけにはいかないよ」
「きっちりしてるね。じゃあまたカード溜まったら買い取ってもらおうかな」
「待ってるよ」
「じゃあ、次会う時までにお金貯めて、デッキや所持数の上限増やしておくこと」
「うん、色々とありがとう」
シオリは私のお礼に微笑みで返答し、街の外へ歩いていった。
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