9ターン目 パック開封!
「≪竜の激昂≫を発動!」
シオリのところに行くと、全てのポイズンリザードが倒れていた。ワンターンファイブキルゥ……。彼女も光るパックのようなものを手にしながら、達成感を見せつけるような表情でこちらに向き直る。
「お疲れ様。初クエストの感想は?」
「異世界でも手札事故は怖い……」
「ほんとそれ。でもノーダメで終われたじゃない」
「リザードが怯えて攻撃してこなかっただけだよ」
「そうね。だからデッキ編集が必要なの。今手にしたのが拡張パック。後で開けてみましょう」
そう言いながらシオリは≪鋼鱗のドラゴン≫召喚して、リザードの死骸を一か所に集めさせた。アイテム≪巨大な荷車≫を使い、それにリザードを積み込ませる。ちなみに、この荷車はゲームで使用するとアイテム使用時のMP消費をマイナス1する効果を持つ。
「銀貨八枚。今日はこんなものかな。山分けでいい?」
「私は三枚でいいよ」
「じゃあそうしようか。村長の家に戻りましょう」
しかし、村長の家に行く前に村人に見つかり、先に彼らに報告することになった。話を聞いていたうちの一人が村長に報告しに走ってくれたようだ。
しばらくするとふくよかな男性が現れ、村長の息子だと名乗った。彼を連れてリザードの死骸のところへ向かう。
死骸のあるはずのところから巨大な影が伸びているのが見えた。
「みんな下がって。ユキノはデッキの準備して、私の一歩後ろでついてきて」
「わかった」
シオリの言う通りにする。すると誰かが
「デスバルチャーだ……」
と呟いた。私はなんのことだかわからなかったがシオリが
「デカいハゲワシってことね」
と言ったのでピンと来た。死肉を狙うスカベンジャーというやつだ。
こちらに気づいたようでギョロっとした目で一瞥すると、逃げるように死骸を一つ持ち去る。残った七つのうち二つは食い荒らされていた。呆気にとられる私たちの中で真っ先に口を開いたのは村長の息子だった。
「……死体は確認しましたので、ちゃんと八匹分の報酬をお支払いします。この後は我々が見張りますので、一度帰って休んでください」
善意というより私たち冒険者やギルドと揉めたくないという風に見えた。シオリと相談して一旦村長の家に戻ることにする。
村長が温かいスープとリンゴのような果実を切って出してくれた。一息つくとシオリがデッキケースからパックを取り出す。すっかり忘れていた。
表にも裏にも何も書いていない黒いビニールの入れ物だ。
「開けてみましょう」
「うん」
と返事したところでどうやって開けようか悩む。両手で引っ張って横に開けるのもミシン目を縦に裂くのもカードを傷つけた経験があり、あまり好ましくない。
「はい」
シオリがハサミを渡してくれた。傍らに置いてある巾着に針と糸も見えたので裁縫セットを持ち歩いているのだろう。なんと女子力が高い。
パックには四枚入っていた。一枚目は≪ブレイク≫。そこそこの汎用性があり、再録も多いカードだ。二枚目は≪おかしな魔女 キャンディ≫。ノーマルだが魔女デッキで必須のサーチ持ちキャラクター。≪パワープラント ライオン・ザ・ダンディ≫。名前の通りタンポポをモチーフにした、洒落た名前を持つカード。そして四枚目
「おお……!?」
思わず変な声が出る。シオリが「どうしたの?」と言いながら私の手元を覗き込む。
カード名には≪ポイズンリザード≫と書いてあり、イラストはさっき倒したトカゲだ。しかもレアリティの高い光り物である。元の世界ではなかったカードだ。
「倒したモンスターがそのままオリカになることもあるのね。初めて見た。テキスト見ていい?」
AP1、『このカードが相手のLPにダメージを与えた次のターン開始時に相手のLPに2ダメージを与える』。
「コンボ前提って感じね。同名カードが複数体ダメージを与えていたら効果はその数適用されるだろうし、LPに直接ダメージ通せるデッキなら強そう」
「≪ドレインサック≫が複数適用されるし、いけるっぽいよね」
≪ドレインサック≫は使用したキャラクターのバトル後に自分のLPを1回復するアイテムカードだ。そう考えるとこちらの世界のオリカと言っても、効果は奇抜というわけでもないのだろうか。
シオリがカードを返しながら言った。
「でもこれ、この世界だと使いづらいと思う」
私も同意見だ。明確なターン制でない戦いでは、次のターンの開始時というのが遅い。さっきモンスターとして現れたポイズンリザードのLPは5。つまり、攻撃してターンを終えても一体も倒せていない状況になる。一対一ならそれでも問題ないだろうが、群れで襲ってくる相手にはリスクが高い。残念ながら異世界でも私自身のフィジカルは変わっていないので、この足で逃げ回らなければならないのだ。相手が鈍足でも体力を消耗して数の優位で追い込まれてしまう。
「まあ何かいい使い道があるかもしれないよね。それがトレーディングカードゲームってものだよ」
「だね」
その後、少し談笑しながら眠ってしまったようだ。翌朝を迎えられたということはリザードは出現しなかったのだろう。起きると村長が袋を手渡してくれた。報酬の銀八枚だ。シオリからその場で三枚受け取る。
「さて、私は朝には帰ってギルドに報告に行くけどどうする? 残って稼いでもいいし、一緒に帰ってもいいよ」
答えは決まっている。
「一緒に帰るよ。帰り道の自信ないし、報告の仕方も知っておきたい」
「オーケー」
何よりリーナに会いたい。彼女たちに心配をかけてしまっているだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます