7ターン目 ギルド登録
結局シオリの部屋に移動して私が先に寝落ちするまで語り合っていた気がする。彼女が死んでからの半年間の環境、アニメの話、デッキ構築論、好きなカード等々……。
シオリは行儀よくベッドで眠っていた。私はというと狭いソファで座ったまま寝ていたせいで背中から腰にかけて少し痛い。立ち上がるとシオリも起きた。
「おはよう、起こしちゃった?」
「おはよう。昼まで寝ちゃってたかもしれないからむしろ助かったわ」
休憩スペースに行くと朝食にパンとミルクと薄味のスープがもらえた。
「朝食が用意されているってありがたいことよね」
シオリはパンにかぶりつく。私は持っただけで固そうだと思ったので、スープにひたしながら口にする。
「元の世界では学生だったし、こっちでも居候させてもらってたから、気にしたことなかったけどたしかにそうだね」
「うちは昔から共働きだったからお金渡されてテキトーに済ませてたわ。それでもこれよりはいいもの食べてたと思うけど」
シオリはミルクを一気に飲み干した。私がスープを飲み終えるとシオリは立ち上がる。
「じゃあギルド行くわよ。朝の混まないうちにサクッと済ませましょう」
まだ街は静かだった。パンの焼ける匂いが漂ってくる。憲兵と思しき男性たちが欠伸をしながら歩いている。夜勤が終わったのだろうか。
「ねえ、今って何時くらいかな?」
「六時すぎよ」
シオリは懐中時計を取り出しながら答える。
「そっか。…………え?」
「何?」
「いや、時計はお偉い人たちだけが持ってるって言ってたからさ。やっぱり高いの?」
「これは銀四枚くらい。ピンキリだけどあると便利よ。後で見に行きましょう」
銀貨四枚というのはそれなりに高価なのだと思う。スパゲティが銅貨五枚、さっきの宿代が銀貨一枚、朝食は銅貨三枚だった。まだモノの相場がイマイチよくわからない。
高価だとしても時間が把握できるのはありがたい。必要経費として買っておきたいところだ。
「あの大きな建物がギルドよ」
レンガ造りの灰色の建物は、色こそ違えど横浜の赤レンガ倉庫を思い出させる。オシャレな雰囲気だ。
扉は開けっ放しになっている。中には沢山の掲示物を物色している男女と、受付の女性と話している男二人しかいなかった。シオリは迷うことなく空いている受付に向かう。お姉さんが先に声をかけてくる。
「シオリさん、おはようございます」
「おはよう。今日はこっちの子の新規登録をしてもらいたいの」
「かしこまりました。ではこちらの用紙に記入をお願いしたいのですが、読み書きは可能ですか?」
A4くらいのサイズの紙にいくつか記入事項がある。自動翻訳されているようなので問題なさそうだ。
「大丈夫です」
その場で書き込んでいく。わかりにくい箇所はシオリに教えてもらう。こっちの生まれではないから生年月日はどうするのだろうと思ったが、そもそも項目になかった。出身地には悩んだがシオリ曰く
「日本って書いちゃったけど、何も聞かれなかったわ」
とのことなので同じように書く。
「この『得意魔法もしくは武術の流派』は?」
「召喚魔法って書いた気がする」
出せるものが違うだけで全く同じスキルのはずなので私もこれで問題ないはずだ。
「はい、お預かりします。不備がないか確認しますのでお待ちください」
そう言って受付のお姉さんは裏に行ってしまった。私たちは木製のベンチに腰掛ける。
すると男が入ってきた。なかなかのイケメンだ。こちらに近づいてくる。おいおい、ナンパはごめんだぞ。
「シオリ!」
「ロラン、久しぶり」
「君もこっちに来ていたんだな」
シオリの知り合いか。彼女と少し話すとロランは私に顔を向ける。
「俺はロラン。シオリとは何度か仕事をしたことがあって、時々依頼の紹介をし合ってる」
「ユキノです。シオリにギルド登録に付き合ってもらっているところです」
「そうか、じゃあしばらくはシオリがついて一緒に仕事するのか。それにしても弟子や部下はいらないと言っていた気がするが心境の変化か?」
シオリは基本ソロなのか。らしいと言えばらしい気がする。
「ユキノは私と同じ系統の能力者なの」
「そいつはすごい! じゃあユキノもドラゴンを出せるのか?」
「いえ、彼女は戦士を呼び出せるわ」
「すごいな!」
ロランは子どものようにワクワクした顔をしている。それだけシオリのスキルを買っているのだろう。
受付のお姉さんが私の名前を呼ぶ声が聞こえた。ロランは「邪魔したな」と言って掲示板を見に行く。
「お待たせしました。ギルド登録完了しました。こちらが冒険者のクラスを表すタグです。シオリさんから聞いてますか?」
私は受付のお姉さんとシオリの顔を見比べた。シオリは首を振る。色のことしか聞いていない。それをわざわざ言う必要もないと判断したのだろう。
「では、最初は赤になります。簡単な依頼を一定数、もしくは昇級に値するとこちらが判断した時点で青に上がります。さらに緑、黄色、黒と上がっていきますので頑張って下さいね。それと赤のまま百日経つと、登録破棄させていただきますので気をつけて下さい」
違和感があった。シオリは階級の説明の時一番上は銀と言っていたはずだ。なんで黒までしか言わなかったのだろう。しかし、それを聞く前にシオリが口を挟む。
「大丈夫よ、赤はいわば研修生。サボってなければ落ちることはないから。まして単独でミドルボアやビッグベアを倒せるんだから大丈夫」
「すごいですね。依頼で行っていれば、その時点で青は間違いないですよ」
さっきからすごいと言われ過ぎて小恥ずかしい。転生ものの主人公みたいにドヤ顔できないのが私の器なのだろう。謙虚な日本人なのである。
受付のお姉さんは掲示板の方に手を向ける。
「基本的に依頼はあちらの掲示物から探していただくことになります。赤の冒険者の方には簡単なものをギルドから用意していますのでそちらを希望の際は受付に声をかけて下さい」
そこでシオリが待ったをかける。
「そこら辺の説明は私がやるよ」
受付のお姉さんはきょとんとした顔をした。
「グループや報酬の受け取りについても大丈夫ですか?」
「うん。ユキノ、行こう」
私の手を引っ張って早足で歩く。余計な口を挟まずついていく。
掲示物を見に行くのかと思ったら、外へ出てしまった。
「ごめん、ちょっと苦手な人が来ててさ。さっきの続きはちゃんと説明するから。それに赤用のクエストなんてやらなくていい。さっさと階級を進めましょう。はい、これ」
ポケットから四つ折りの紙を手渡してきた。広げるとトカゲの絵が描いてある。
「ポイズンリザードの討伐依頼よ。緑以上推奨って書いてあるでしょ。まあ危なくなったら私が助けるから」
ポイズンリザード、危なそうな生き物だ。絵の下の説明を読むと、牙に毒があり、草食で農作物を荒らすから倒してほしいと書いてある。一体につき銀貨一枚の報奨が出るそうだ。
「ココゾ村ってどこ?」
「ここから南に歩いて三十分くらいのところね」
時間の話をして思い出した。
「あ、時計」
「そうね、買いに行きましょう。他にも必需品揃えないとね」
クエストの前に装備やアイテムを揃えるってすごくゲームっぽい。というかそんなにお金持ってないけど大丈夫かな。
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