6ターン目 カードゲーマーとして
村を抜け、体感三十分くらい歩くと市場に出た。リーナたちと来たことはあったが、食糧などの売り買いだけ済ませて帰っていたので、仕事以外で来たのは初めてだ。
「宿を取っているの。でもまずは何か食べましょう」
シオリは迷わず進む。大通りから少し外れた道にある飯屋に入った。カウンターが十席、四人掛けのテーブルが四つ。時間のせいか他に客はいない。中年の夫婦二人で切り盛りしている小さな店のようだ。
「こっちに来て何食べた?」
「イノシシとか野菜や果物かな。あとよくわからない鳥肉」
「じゃあそろそろ炭水化物が欲しいんじゃない?」
これまで意識していなかったが、そう言われると食べたい。
「じゃあ決まりね。すみません、おすすめ二つ」
出てきたのはクリームソースのスパゲティだった。玉ねぎとベーコンが入っている。
「スパゲティを出す店は他にもあるけれどここがイチオシよ」
麺は細めでスルスルと口に入ってくる。ソースはあまり混ぜなくても麺にしっかりと絡んでくる。まろやかだがコショウのようなピリッとしたものが効いていてくどくない。具材は厚く細く切られていてそれぞれの食感を楽しめる。
……やめた、食レポなんて向いていない。美味しいものは美味しい。それだけでいいと思う。
「美味しい!」
「そうでしょ!」
リーナの家で出る食事も美味しい。けれど慣れ親しんだ味に近いこちらの方がより美味しいと感じる。
二人とも食べ終えると女将さんが皿を下げてくれた。そしてクッキーのような焼き菓子を出してくれた。
「これ試作品なのお代はいいから食べてみて」
オーブントースターなしでどう作るんだろう。
口にすると少しポソポソしている。近所のスーパーの安いクッキーがこんな感じだったと思い出した。
「なんか子どもの頃に食べたことある味ね」
シオリも同じことを感じたらしい。焼き加減を変えてみてはどうかなどとアドバイスしている。
店を出ると大通りに戻った。少し歩くと四階建てのレンガ造りの建物を指さす。
「宿はあそこ。下に休憩スペースがあるからそこで話しましょう」
休憩スペースではテーブルを囲み色んな人が話し込んでいた。大荷物を持っている人と武器を持った人が多いようだ。行商人と冒険者といったところだろうか。シオリは「あそこにしましょう」と奥の席を選ぶ。
「じゃあ最初に教えてあげるわ。この世界の元々の住人にも魔法を使える人がいる。中には私のドラゴンでも歯が立たないような強者もいるわ。私たちだけが特別だと思わないことね」
シオリはいきなり告げた。予想はしていたが、そんな怖い表情で言われるとは思わなかった。彼女自身が危険な目に合ったのだろう。
「この世界には冒険者とか開拓者と呼ばれる職業があるわ。それには階級がある。上から銀、黒、黄、緑、青、赤って風にね。それはギルドでも教えてもらえると思う。辺りを見回してみて」
たしかに武器を持っている人のほとんどが首や腰に軍隊のネームタグのようなものを下げている。ほとんどが緑と青で赤が一人だ。シオリに顔を戻す。
「シオリは?」
ポケットから見えたのは黄色だった。
「私は黄色。真ん中よりは少し上程度ね。ただ、デッキ解放やキャラクターの自由度を高める条件の冒険を進めるっていうのはこれだけじゃないみたい。私も試行錯誤中だから深くは聞かないで」
疑問が
「冒険者なんてやらなくても、それこそ居候させてもらってる家で狩りや農耕をすれば生きていける。けれど、これを見て」
一枚のカードをポーチから取り出してこちらに向けた。カード名は≪遺物 再生の書≫。ぶ厚い本が開かれ、その上に魔法陣のようなものが浮かび上がっている絵が描いてある。
「私が死んだ後に出た新カード?」
「……知らない」
「そう。ということはこれはこっちで生成されたオリジナルカードってことね。一週間の間に新しいカードが出ていれば話は違うけど、これから出る新カードの情報も仕入れてたでしょ」
「もちろん」
「未開の地でこの前初めて手に入れたの。今までも既存のカードが手に入ることはあったんだけど、これだけは全く見たことがなかったから気になっててね。知る余地もないと思ったけど、これを聞けたのは収穫みたい。……というわけだから、冒険者をやるのをオススメするわ」
なるほど、ナビが教えてくれた新しいカードというのは未所持という意味だけではないのか。
「はい、終わり。あとは自分で頑張って。じゃあクロマジの話しましょう」
無理もない。カードに触れていたとしても半年間も人とクロマジの話ができなかったと考えればこの反応は妥当だ。それがカードゲーマーというものなのだ。むしろ大事な話を先に教えてくれたと感謝したい。
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