斬光一閃、耀く明星

 その夜は綺麗な星空だった。寝転がり仰向けになると、まるでこの世界は全て星空に包まれたようで、虫の鳴き声一つしない静かな夜だった。聞こえるのは風に揺れて草木が擦れる音だけ。この世界には自分一人しかいなくて、あの星空は全てを見つめている巨大な万華鏡のようだった。星とは空に散らばる宝石だった。私はその散らばる宝石を掴んで、この地に降り注がせるのだ。こんな静かで綺麗な夜空だからだろうか、こんなにも叙情的な気持ちになるのは。ああ、私の宝石はこんなにも近くにあったんだと。


 俺たちは森の中を走り回っていた。この流星群の使い手を探し出すために。コトネは先程から血を周囲に張り巡らせ敵の位置を探っているらしいが、どうも先程の磯上に任せてから見当たらないらしい。まだ遠くにいるというのか。突然、夢野が悲鳴をあげた。だがそれはあまりにも遅く、俺は一人空へと飛んでいた。

 「な、なんだこれ!!」

 あまりにも突然の衝撃と加速で何が起きたのか分からなかった。だがそれはすぐに気がつく。俺は敵に捕まり遥か高い空に飛ばされている。敵の背中にはジェットパックのようなものがある。これが奴のアタッチメントだろう。空を飛んでいたから、地を這うコトネの血液に感知されなかったのだ。

 「安心しろよ、学章が無事なら死ぬことはねぇ、高度3000mから落ちたことはあるか?」

 俺を掴み急上昇していく。風を切り、体温は急激に低下し酸素は薄くなっていく。敵はマスクを付けており、恐らく元からこういうことができることを想定したアタッチメントなのだろう。地面はもう遥か遠く。地形全体が見える。

 そして見えた、流星群の使い手が。あんな遠くに……!"あんなところ"から攻撃していたのかと!!

 敵の位置を確認できたなら、こんなところでもたつくわけにはいかない。

 「お前こそあるのか?高度3000mから叩き落されたことが!」

 俺は力ずくで拘束を振りほどき、敵の身体を掴む。当然バランスは崩れ、まっすぐに急上昇していたのが、ぐるぐると旋回しだした。

 「な、お前正気かよ!こんなところでそんなことしたら……。」

 全て言い終える前に俺は敵を地面に向けて思いっきり投げつける。そして俺は自由落下していく、この高さ数千メートルの場所から。時間は十分にある。俺は手をかざした。それは俺の能力の一つ。目標を定め光線を発射する能力。手の先に月の光が集まる。月の光はまるで意思を持った光の精霊のように少しずつ俺の手の平を照らし、やがて収束していく。

 狙いは流星群の使い手のいる場所……即ち敵のサブベースである。流星群の使い手は、俺たちのメインベースから遥か離れたサブベースから、ずっと狙っていたのだ。恐らく夜になるのを待っていたのだ、星が出るこの時まで。そして俺の手から光弾が発射された。光弾はサブベースに直撃し、一瞬で崩れ去るだけではなく、その爆発により周囲一体を吹き飛ばして、小規模なクレーターを作った。かろうじて残ったのはサブベースだった残骸である。

 下を見ると血で作られた巨大な木のようなものが生えていた。俺とはぐれないようにコトネが生やしたのだろう。俺は木の枝を掴んで根元まで下りていった。

 「だ、大丈夫なの!?なんか遠くで凄い音がしたけど……。」

 駆け寄るコトネ達に伝えた。流星群の使い手を見つけ、倒したことを。あの爆発だ、もう生きていないだろう。そう考えたのだ。だがそれはあまりにも甘い考えだった。冷静になれば分かることだった。あれだけの距離からアタッチメント能力を展開できる者が、果たしてあんなあっけなく倒されるだろうか。大きな衝撃音がした。流星群の狙いは俺たちへと向けられたのだ。そして、ここには狙ってくださいと言わんばかりの、巨大なコトネの血木がある。

 気づいたコトネは血で作られた木を崩したが、既に時遅く大量の流星群が降り注いできた。確かにあれだけの数を落とせば一発は当たるだろう。そして、その一発がマトモに当たれば、致命的なのは間違いない。

 「急いで向かうぞ!!」

 俺たちは敵のサブベースへと駆け出した。敵が動かないならまだあそこにいる筈だ。廃墟となったあそこに。

 「い、いや待ちなさいよ!その前に目の前の隕石が。」

 俺は目の前に降ってきた隕石を思い切り殴りつける。隕石は爆発四散して周囲に弾け飛んだ。俺個人を狙うなら、隕石なんてのは目ではないのだ。

 「そ、そんなことできるなら、早く言いなさいよぉ!」

 俺は夢野を担いで森の中を疾走した。コトネも血液を操作して、無数の触手のようなものを出して木々に引っ掛けその反動で移動する。この速さなら流星群も俺たちを補足できまい。一直線に、最短距離で敵のサブベースに向かった。

 森を抜ける。満天の星空が見えた。そこは俺の放った光弾により更地となっていた。サブベースの瓦礫が月明かりを反射して、非現実的な風景を感じさせた。そして俺は失敗したことに気がつく。大量の流星群は今まで森という目隠しがあったからこそ、広範囲に放たれた。だが今はこの満天の星空と月明かりの下、廃墟となったサブベースと更地に立つということは、向こうからすれば何処にいるか簡単に分かるのだ。大量の流星群が降り注ぐ。俺は無事に済むだろう。だが……コトネと夢野はどうなる?守りきれるか?考えても仕方ない、俺は可能な限り目に見える流星群を殴りつける、だが間に合わない、駄目だ防ぎきれない……そう思った瞬間、流星群がバラバラに切断された。そして切断された流星群は宙で次々と爆発していった。

 月光が反射し一閃、また一閃と光が走る。そしてそれとともに爆発が起き、俺たちを庇うように流星群は全て無力化される。月明かりに照らされた二つの影。それはまるで幻想的な風景で、一つの舞踊のようだった。そして一つの人影が俺たちの前に庇うように立つ。

 「変わったところで会うじゃんレニー、けどダメだね!ちゃんとレディをエスコートするのが紳士の基本っしょ!」

 そこには全裸の無限谷が立っていた。

 「へ、変態だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 「いやぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」

 俺たちは全裸の無限谷を見て叫んだ。夢野はちゃっかり俺の背に隠れて悲鳴を押し殺している。この事態を予知してたな……。

 「変態とは失礼じゃね?これはそう……俺ちゃんがアタッチメントを使うために必要な姿……つまり戦闘礼装っしょ?」

 無限谷はポーズを決める。無駄に筋肉隆々なのが悔しい。そして股間が光り輝いている。耀く明星という異名とか一人で戦うのが向いてるってそういう意味かよ!というか何でこんな光ってるんだ。

 「あぁ、これ気になってる?アタッチメントよ。光を固定するアタッチメント使うやつがクラスにいるの、光田って言って去年からの友達。」

 学校は絶対、無限谷と光田くんを別のクラスにしないで欲しいと切実に願った。そんなことを話していると流星群が更に降り注いでくる。しかし今度は更に細かく斬り刻まれ、俺たちに直撃しないで周囲に瓦礫として散らばった。無限谷のインパクトある登場のせいで忘れていたが、もう一人いた。剣だ。

 「その……無限谷さんはいつも全裸なんですか……?どうにかならないんです?」

 剣も引いていた。流星群を切断していたのは剣のようだが、どうやったのかまるで分からない。だがまるで剣の周りにバリアでもあるかのように、流星群は全てバラバラとなり周囲に散らばっていく。全裸の無限谷はともかく、この状態を何とかしなくてはならない。あんな連射されては近づきようがないのだ。

 「簡単だよ、お前らが流星群の使い手を倒せばいいっしょ?流星群は暫くの間、俺が止めてやればオーケイよ。」

 俺の考えを理解したのか、無限谷は軽々と言ってのけた。この流星群を止めると。そして無限谷は肩をぐるぐる回して準備運動をした。もう行く気満々のようだ。本当に無限谷一人で何とかできるのか?その質問に無限谷は親指を立てて笑顔で返した。ならばこれ以上は何も言うまい。俺たちは無限谷を信じて飛び出した。それに合わせて大量の流星群が降り注ぐ。だが……空に一人、月明かりを背後に空を舞う全裸の男がいた。いつの間にあんな高さまで跳躍したのか。無限谷は流星群から俺たちを守るように飛び立った。月明かりが無限谷の裸体に反射し無限谷の見たくない部分が嫌でも目に映る。

 「境野!一々俺を見るな!見惚れるのは分かるが今は流星群の使い手を何とかするんだぞ!」

 視線に気づいたのか無限谷に怒られる。そのとおりだ、無限谷はきっと命を賭して流星群を相手にするのだ。全裸なのは気になるが気にしては駄目だ。だが俺はもう一度無限谷を見て、わかったと返事をしようと見つめると……無限谷は大きな音を立てて爆発四散。絶命した。

 「は?」

 俺は何が起きたのか理解できず思考停止し思わず声にだしてしまった。

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