第9話 魔剣士の矜持
ミリスが攻め入った後の城の周辺には、亡骸は一つもない。
魔法陣があったと思われる広大な空間を、荒れた大地が、燦燦と月の光に照らされて浮かび上がっていた。
その空間の思い思いの場所に空中に浮かびあがり、高い木の枝に座り、地面の草の香りを楽しむ。
少し前まで戦場だったとは思えない光景の中、魔剣士たちは城を思い思いに見つめていた。
「これからどうします?」レシール
「もどって報告するにもこれだけ一方的にやられたら情報もないよね。」ティルレイン
「魔剣士もかなりの魔法を使いこなす上に、それと同等の魔力を操る魔導士がもう一人いることはわかっている。」スレイン
「侵入して、情報収集するか?」ジルベール
「情報はほしいね。」アーバイン
「危険じゃない?」レシール
「どうだろう、危なくなった時点で各自引き上げることにしようか。」ジルベール
敵が退却した後の空間に、数人の気配を空間感知したエルシードは、アスファと手分けして確認のため城外にでた。
「うん?気配を消して魔力探知にかからないようにしていたのに、みつかったのか?」アーバインが顔を曇らせる。
気配は隠していたはずなのに、ほどなく見つかる。
「君たちは何者ですか?」エルシードの透き通った凛とした声が響く。
「よくわかったな、魔力感知か?」
「いいえ空間感知です。他にも数人いますね・・・」
「私はアーバイン、ミリスから派遣された魔剣士だ。」
「ミリスに魔剣士がいるといった話は聞いていませんが、どういうことでしょう?」
「ミリスでも知られていないからね。我々の存在は・・・」
「単刀直入に聞きます。あなたは敵ですか?」
エルシードの両腕が魔力で暗く白く浮かび上がる。
その圧力にアーバインは驚く。
魔剣士の魔力はそれほど大きくないのが普通であり、エルシードのそれは最高位の魔導士を軽くしのぐほどの魔力であった。
「お前魔剣士ではなく魔導師か・・・我々は、旧アルカテイル領の組織で育った魔剣士の生き残りだ。現在は一応ミリスの支配下にある。敵でないとはいえないか。」
アーバインは空間移動から瞬時にエルシードの目の前に出現、切りかかる。
きれいな金属音が数回響き離れた。
「いい腕ですね。」エルシードも身体強化をかけた上で双剣を操り、高速の剣撃を幾重にも放つ。
「早い!避けきれない!!」
横からもう一本の大剣がエルシードの高速剣を阻む。
横からもう一人剣士が介入したことに気づくと、瞬時に剣先から青白い光を放ち魔力が重い鎖のように魔剣士に降りかかる。
「グラビティフォール!!」
ジルベール・アーバインの二人は地面にひれ伏して動けなくなった。
「やられた、なんて魔法発現の速さだ」
これでは接近戦だとしても剣が魔法に負けてしまうほどの状況だ。
「俺はランディア、次は俺だ、覚悟しろ」
恐ろしく長く変形した刃を持つ大剣を肩にかけ、体格の良い男がエルシードの前に立つ。
「むん!!」一撃で5条の剣劇が生まれる。剣速はほぼ互角か・・・斬撃の破壊力はエルシードよりも明らかに上である。
エルシードは攻撃の効果範囲が読めないためやや大げさに避ける。地面が大袈裟に裂ける。危ない・・・
話をしている間に、魔剣士が周囲にさらに4人集まってきた。
「包囲したぞ、1対7で戦うか?俺は名乗ったぞ、お前は誰だ。」
「僕はエルシード・ファン・カルシエル・ド・アルカテイル。」
「君は本当にアルカテイル王太子なのか?」
「自分で確認のしようはないが、これが答えだ!ディメンションバースト!!」
周囲を取り囲む彼らを一瞬にして弾き飛ばして、囲みを抜ける。
王族しか使えない空間魔法だ。
しばらくは1対7の厳しい戦闘が続く。
エルシードは剣聖レベルの腕になっているとはいっても、さすがに危うい。
双剣による高速の剣劇も、それを補う身体強化の破壊力もやや分が悪い。
「あっ」遅れて左足に痛みが走る。
ひるむと左腹部にティルレインのエアブラストが撃ち込まれる。
続いて、レシールのとどめのサンダーアローが次々と襲う。
「うあぁぁぁ・・・っ」悲鳴が上がる。
左足大腿部の深い裂傷、左腹部の内臓破裂、全身やけど・・・大ダメージだ。
勝負は決まったかに見える。
「ファイアウォール!!」
恐ろしい範囲の炎の壁が、エルシードと彼らの間に立ちふさがる。
エリアリーゼである。
転移してきたのだ。
「許さない!」一言、
血みどろのエルシードを抱き起して
沈んだような深く青い瞳は大事なものを壊された怒りに炎のように燃え盛る。
「セイントアロー!!!」
超広範囲で天から降り注ぐ光の矢が雨のように敵に降り注ぐ。
逃げ切れない。
魔剣士たちの重ね掛けしたはずのマジックバリアをボロボロに打ち砕きながら何発かがほぼ全員に撃ち込まれた。
「きゃー・ぐあぁぁ」
あちらこちらで激痛に耐えられず悲鳴が上がる。形勢逆転だ。
双方ボロボロである。
「まって、エリア・・・まだこの人たちには話があるんだ・・・殺しちゃだめだ。」
「逃げないで!」
うなりながらなんとかそれぞれの魔剣士達が動き出す。
「もうやめて投降してください。これ以上はあなた達を殺さなければいけなくなる。あなたたちは、曲がりなりにも我がアルカテイルの戦士、殺したくない・・・」
エルシードは荒い息で意思を伝える。
エリアはまた泣きながらも、嬉々としてエルシードの治療に集中する。
他に誰も見えていないようだ。
「強い、あなたなら十分だ・・・」座り込んで動けなくなったジルベールがいう。
「そうね、悪い話じゃないかもね。やっと主人を見つけたんだもの・・・」
倒れ込んで起きれないままのエルセフィアが初めて口を開く。
こんなにならないうちに分かり合えないのだろうか?その場にいる全員がそう思った。
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