第8話 ミリス襲来

エルシードの強行脱出の後、ミリスの玉座では混乱と畏怖の混じった険悪な雰囲気で今後の対策が練られていた。


未成熟魔剣士の予想をはるかに超える強さと、ドラウネス軍師の大胆かつ周到な策に、次の策を出しかねていた。


まず、玉座という圧倒的な兵力の囲みを打ち破り、足止めをする兵士たちを子供のように弾き飛ばし、あまつさえ驚愕をもって準備された巨大な黒龍も魔剣士の絶対切断の前になすすべもなく四散したのだ。


「いかがなされますか?ミリス王」


「当初の目論見としては、アルカテイル再興を掲げさせて投降させる予定だったが、悪い方向に勘繰られてしまったんじゃな。懐柔ができないなら、ミリスにとって彼はとてつもない脅威であろう。戦争は避けられん」


「しかし今回は、こちらがドラウネスの使者を取り押さえるのに失敗している状況。大義はこちらにはないと思われます。」


「やむをえまい。はめられたという事か・・・」


「ボルコフ将軍! では、作戦はいかに?」


「此度は、魔剣士殿が祖国や領民に対する気持ちを強く持っていると感じました。故に今回編成するドラウネス攻略の兵士は、旧アルカテイルから招集しようと思います。やつのことだから、自国領民を自ら傷つけるという事ならば、思うようにたたかえなくなる事もあるでしょう。」


「卑怯な手段ですな、ボルコフ殿。」


「総兵力は10万、前衛にアルカテイル兵を配置して1週間後に出陣とする。」


**********


作戦通りとはいえ、これからが本番。


これからミリスから敵が攻めてくるのだ。


「まずは、城の周囲の防御態勢についてですが、私が強制転移の魔法陣、エリアが高出力広範囲な状態異常・麻痺の魔法陣を敷いていきます。」


「ちょっと待ってください。むしろ、周囲を炎で囲んでしまい、逃げられなくなったところをエリア様の広範囲高出力魔法で消滅させるのほうが、効率的ではありませんか?ましてや強制転移ってどこに移動させるおつもりで?」


「ドラウネス後方、エルシアに接する位置まで転移させます。状態異常は数日有効ですのでしばらくは動けないはずです。」


「敵兵は生かしておいても兵料を減らすだけで役に立ちませんぞ。」


「その通りなんですが、今後のことも考えて、今回捕まえた兵士を、私が懐柔して我が兵に加えます。」


「そんなことできるんですか?アスファ様」


「う~ん、魔剣士様が言っても聞かないんだよね・・・」


「その分、落ち度が出ないように僕は上空からちゃんと対応しますので・・・うまくいかないときは私が殺します。」エリアに殺させたくないのだ。


「ま、今回の作戦は、エリアリーゼ様と魔剣士殿がいないとどうにもできない作戦なので、意見を飲むしかないんだよな~」


この時、まさか攻めてくるのがアルカテイル出身の兵士が攻めてくることを知らないエルシードではあったが、得てして運命はエルシードの思惑通りに進んでいく。


**********


「なんと、戦闘に不慣れなアルカテイル領の人間を徴兵ですと?それでは死にに行くようなものだ。」


もともとアルカテイルは一部の超人的な兵士が少数で守っていた国である。


今更戦闘に駆り出されても使える者はほとんどいなかったのだ。


とはいえ、魔剣士の流れを汲むものは隠れて存在していて、実践を経験する重要さも理解しているため、おそらく今回の戦争には駆り出されることになる。


「では、今回は我が組織は全員出陣になるからな。」


「魔剣士ジルベール・ランディア・アーバイン・スレイン・ティルレイン・レシール・エルセフィア7名、アルカテイルの誇りを示してまいります。」


*****


「今回のドラウネス攻略で問題なのは、魔剣士だって知ってたか?」


「我々以外にも魔剣士がいたなんて驚きだな。」


「それも、我がアルカテイルの王太子らしいぞ?」


「まじか!でも面白そうだな、お手並み拝見ってところか?」


「でもなんでドラウネスに身を寄せているんだ?もともとあまり評判のいい国じゃないだろう。」


「まって、150年生きてるってこと?」


「んなわけないだろう。マジックスリープだろう?」


「若いの?」


「未成年らしいぜ。」


「未成年でドラウネスの剣客ってか?ないわ~」


魔剣士の間でも興味の尽きない話題なのだ。



1週間後の夜。


ミリスは10万の兵でドラウネス城を取り囲む。


作戦開始だ。


まずは、広大な魔法陣が光りだす。


エリアリーゼの体から薄青く魔力のオーラが立ち上る。


「メガパラライズ!!」


まるで、夜空に薄黄色い光の柱を突き上げるように魔力が渦巻きながら上昇する。


魔法耐性の強い魔剣士たち以外は、体の自由・思考をすべて奪われその場で重なるように倒れ込む。すでに3万人ほど戦闘不能になっていた。


ランディアが多少左足をパラライズに巻き込まれながら、ジルベールに問いかける。


「オッと向こうには凄い魔導士いるみたいだぜ。魔剣士様だけじゃないみたいだ。こんだけ威力のある、状態異常魔法なんて後にも先にも聞いたことないわ。」


「次は何が来る?」魔剣士たちが構える。


状態異常魔法の成功を確認したエルシードは直ちに軍隊レベルの大人数を強制転移するように魔法陣に魔力を叩き込む。半端な魔力量ではない。


「空間転移!!!」


一気に魔法陣から激しく揺れるような魔法振動が生まれ、その薄暗い白いオーラが魔法陣一帯のすべてを消滅させる。


空中浮遊で距離を取りながらスレインはつぶやく。


「やってくれるな。これは無属性の空間魔法・・・これってアルカテイルの王族の技だな。」


「王太子の魔法か?魔剣士にしては魔力デカすぎだぁろ」


「でも、なぜミリス兵を殺さずに転移させてるんですか?そんな余裕ないはずですよ。」怪訝な顔をするレシール。


「どうでしょうね、もしかして攻めてきているのが、アルカテイル縁の兵士たちだからでしょうか?ティルはどう思う。」


「う~ん、我々は今回の戦いに参加しないほうがいいかもしれませんね。王太子は敵じゃないかもしれません。」


「おいおい、それじゃ俺たちの実践にならないだろう。」


「ランディア血の気が多すぎよ。」


*****


城の周囲の状況はほぼ魔法陣を使い切り、ミリスの兵士を6万も消し去った。


一応アスファの狙い通り戦力の排除ができたわけだ。


ミリスは二人の力を見誤ったのだ。


残り4万の兵力は四散して撤退していった。


せっかく準備した黒龍3体もミリスに引き上げていった。


とりあえずの勝利である。






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