第7話 ミリスの要求
後日、ミリスからの要求が届いた。
交渉はアルカテイル王太子に直接交渉したいとのことで、エルシード本人が謁見のために来城するように要求された。
ドラウネスの要求であるミリス第一王女との交換については全く触れられていない。
つまり、交渉がうまくいかない場合はその場の力ずくで拉致してしまうような強引な手段ができる状況なのだ玉座 とはいえ、初めから予測の範囲内でドラウネスが動いていることは、ミリスには気付かれていないようである。
「まぁ、こっちの要求は全く飲まないという姿勢ですね。予想の通りですね。結果的にはこのドラウネスに攻めてきてくれれば、撃退する口実にはなるかな。」
アスファは続ける。
「現状はドラウネス隣国の一つ、ルーセリア公国からの補給路は抑えられていないようなので、このまま戦争に巻き込まれることをミリスは想定していないようですね。
かなりなめられているようで助かります。あとは、エルシード君にはミリスで少々暴れてもらってから逃げ帰ってもらえれば、ミリスは軍をまとめて攻めてくるといった予想ですね。攻めてきた際にはできるだけひきつけて大きなダメージを与えて撤退させれば初期の作戦は成功です。できれば5万以上の兵力はそいでおきたいですね。」
ミリスの作戦会議室では・・・
「今は亡き国の王子と、第一王女が引き換えとはとんでもない要求ですな。」
シロッコ主席外交官が苦々しくつぶやく。
「なんということもない。大義のない侵攻も時間さえかけなければ、他国からの悪評もたちますまい。」
「ボルコフ将軍、それは危険なのではないか?情報だとアルカテイルの王太子は今はほとんど存在していない魔剣士であるとは聞いております。未成人とあなどれない若武者ということですよ。」
「わずか一人の兵に怖気づいたか?さもあればこのボルコフ直々に成敗してくる。」
「エリア?相談があるんだけど・・・」
「なに?」
「今回このドラウネス城にミリス兵が攻めてきたとき、何とか殺さず無力化して捕虜として捕えられないかな」
「でもそれだと、ミリスの勢力を削ぎたいアスファさんと目的が異なるんじゃ?」
「捕虜が増えると、食料の問題も出てくるから難しいよ?」
「捕虜は労働力として後方の森の開拓に回して自給自足させれないかと・・・」
「できればいいけどねぇ」
「それに、エリアにこんな多くの殺人はさせたくないんだ。」
「うーん、じゃ広範囲状態異常魔法と広域転移魔法ってことで攻撃?でもアスファさんには相談しないと」
アスファは驚いて
「だめだめ、そんな甘い亊じゃ、負けちゃうよ!」
「でももし仲間にできれば、ミリスの兵力は15万にへって、ドラウネスは10万にふえるから、均衡とれるんじゃないかと思って。」
「あ~、そんな簡単じゃないと思うよ。」
エルシードは自分に言い聞かせるように言う。
「僕に任せてくれませんか?捕虜の心は僕がつかんで見せます。」
アスファはため息をつく。
そしてミリス帝国国王への謁見のため、ドラウネスの北からミリス帝国に入国した。
「ねぇアスファさん、アルカテイル地域ってミリスの北側ですよね。いつか行ってみたいな。」
「いいよ、まず戦争に勝ってからね。」
「町に入っても、町って大きいわりに賑わっていないような気がするね。」
「ミリスは宗教の弾圧が強くて、宗教上の制限が多いから、国民は窮屈な生活をしているのが実情だよ。王侯貴族に関しては贅沢三昧なんだけどね。」
「もっと自由に生きられないのかな?」
まもなくミリス城門にたどり着く。
馬車は厳しい検問のあと中に通された。
広い廊下を渡って突き当りに玉座の間があり、呼び入れられる。
エルシードとアスファは交渉人として玉座の前に進み出る。
「旧アルカテイル王太子エルシード・ファン・カルシエル・ド・アルカテイル参上いたしました。」
「ドラウネス宰相、アスファ・ジルベルディアにございます。」
「暗殺者の間違いではないのか?」
「これは手厳しいですな、ボルコフ将軍。」
「よく参った、顔を挙げよ。」
ミリス王の許しで、顔を上げる。
「ほう、そなたがアルカテイル王族の生き残りか。すでに大戦が終わって150年もたって会見できるとは思わなかったぞ。」
「早速悪いが、いくつか質問に答えていただけるかな?」
「仰せのままに・・・」
「まずは、そなたは国を復興して我が国と争う気があるのか?」
「いいえ、そのようなことは考えておりません。ですが、アルカテイルであった領地や領民がいささか気にかかります。」
「心配するでない。アルカテイルであった領地と領民はほぼ動かずにその地で生活しているぞ。」
「ありがとうございます。」
「自分の領民を思う心は同じであろう。此度の謁見を機会に、アルカテイル領の領主としてそなたを向かい入れたいと考えておるのだが、いかがか?」
おそらくは、領主に任じてから、毒でも盛って病死という形にするのだろう。
「お待ちください、エルシード殿は現在ドアルネスに保護権限がございます。勝手なことはしていただくわけにはまいりません。」
「ふむ」
「現在ドアルネスは、ミリスからの経済的政治的圧力がかけられております。今回の状況を加味して、ミリスの第一王女をエルシード殿の身柄と引き換えにいただきとうございます。」
「そのようなことはできぬ。」
「さもあれば、このまま、ミリス帝国はいずれ、疲弊した我々ドラウネスを手中に収めるおつもりではありませんか?」
「いやはや、ここで当方の申し出を断れば、場所を変えてもっとゆっくりとお話をせねばなりませんな。」シロッコ主席外相はいう。
周囲の兵たちが一斉に剣を挙げる。
予定通りではある。
「交渉決裂ですな。」
踵を返すアスファに従って、エルシードも玉座に背を向ける。
一斉に玉座の前に並んでいた魔法師団からアイスアローが放たれる。
そして、戦闘開始だ。
エルシードはマントを翻し、アスファと二人の空間に空間障壁を作る。
アイスアローはすべてはじかれ玉座に落ちる。
「これは、ドラウネスへの宣戦布告ととってよろしいですね?」
アスファはわずかに口角を挙げる。
エルシードに目配せする。
「ディメンションバースト!!」
周囲2~30mの範囲で一気に空間が拡張爆発する。
数十人もの魔法師団が一気に吹き飛び壁にたたきつけられる。
玉座からボルコフが駆けつける。
前からは数人の近衛兵がアスファと交戦している。
エルシードはボルコフ将軍と打ち合う。
散々に練習した剣技は冴えていた。
ボルコフを凪いでは突き、突いては凪ぐ、ボルコフは前に進めない。
それでもボルコフの重い破壊力を秘めた大剣がエルシードを屠る。
細剣を傾けて力をそらして受け流している。
「空間切断!」細剣に魔力をまとわせる。
一気にボルコフを大剣ごと薙ぎ払う。
大剣は真っ二つに割れ、攻撃の機会を失う。
何人かアスファに倒されずに残った近衛兵に対して空間魔法が襲い掛かる。
「グラビティフォール!」
十数人いた近衛兵が一気に重力に耐え切れずひれ伏す。
その中を悠々と玉座に背中をむけて退出する。
場外に出る廊下には多くの兵がひしめき、彼らの戦気を阻む。
絶対切断を纏わない双剣で道を切り開く。
時間稼ぎをするものはディメンションバーストで弾き飛ばした。
城門を出る。真っ先に大きな黒龍がエルとアスファの前に迫ってくる。
「黒龍を使役することができるのか・・・」
黒い炎が、二人を覆いつぶす。空間障壁がそれを防ぐ。
「空間切断・・・閃空刃!!」
黒龍に向けて、幾重にも重なる絶対切断の刃が放たれる。
あっという間に首や手足が切断され、断末魔のもと黒龍は四散する。
「つ、強い・・・」
ミリス陣営はこの二人を甘く見ていた。
ざっと300人程度の戦闘不能者を出して、二人を逃がしてしまったのだ。
二人はそのまま、作戦を成功させてドラウネス城へ戻っていった。
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