魔剣士の軌跡(ドラウネス編)

第6話 果てしなき旅立ち

ドラウネス軍師のアスファとの会話が続く。


交渉というわけでもなさそうで、どうもエルシードを気になっているアスファが執拗に煽っているのだ。


「おまえはアルカテイル王国の残子だ、おそらくミリス帝国もそろそろお前の存在に気付いているはずだ。お前の身柄引き渡しをエルシアに要求してくるだろう。その宣告が来る前に魔剣士エルシードとして、その道を自分で切り開いてみたらどうだ。ドラウネスはミリスに敵対する勢力として貴様に土台と隠れ蓑を提供しよう。」


「・・・」


「クリティカルヒール!」


呪縛を解かれ静かに話を聞いていたエリアがゆっくりとした動作でアスファの切られた両足に治癒魔法をかける。


「そう・・・きっと今のままではいられないのね・・・」


静かに真っ青な眼いっぱいに涙をためるエリア。


「僕の問題だ、エリアは何も気にしなくていいんだ。ただ今のままだと、エリアには遅かれ早かれお別れを告げる時が来る。それだけは確かだ・・・」


「私、エルが前に進むならいっしょに行くよ!今はまだ11歳だから、そんな子供が国を出て大国に挑んでも、単なる戯れにしか思われない。ならば、私はエルシアの事は考えずに自由にしていいはずです。もちろん許嫁もいないしね!エル

シアは私を単なる家出娘にしてくれればいいんだ。」


アスファが笑う。


「お二人でドラウネスに来てくだされば、あなたたちにできるだけ迷惑をかけないように、その能力は利用させていただきますよ。いままで私らにはいくら策を労しても、十分な駒と手段がなかった。あなたたちがいれば、いかようにも考えられる。」


「エリア本当に来るのか?この機に乗じるので、僕はこのままドラウネスに行くことにするけど・・・」


「いいよ。一緒に行くよ。」


二人は、交渉に落ちたのではない。見て見ぬふりをしていた事実に向かい合う覚悟をしたのだ。


**********


そこはドラウネスの城、まずはグレノール王との謁見が整えられる。


「初めてお目にかかるエルシード・ファン・カルシエル・ド・アルカテイルです。」


「エリアリーゼ・ウル・カルラム・ティアノーラです。」


名乗りを上げ挨拶をする。


「お前たちが我が軍を苦しめた二人じゃな。」


「儂はお前らの事はわからぬ、以後アスファの指示に従い動くがよい。」


ただそれだけ言うと玉座を退いて奥に消えていった。


「陛下はあくまで陛下。国事は基本的に私にすべて任されている。」

こんなものだ。


アスファは、彼ら二人を戦力として調べていく。


「まず、エリア君は全属性の魔法を自由に使えるんだね?」


「う~ん、実際には超級回復系魔法が得意で、他精神系の魔法は苦手ですけど、一応高位魔法は一通り使えます。魔法は3つまでは同時に使えます。」


「でも、詠唱時間が長めで、魔力攪乱系の魔法や魔法具には弱いよね。接近戦はできないかな。」


「うん、落ち着いて魔法が使えない状況は苦手かな・・・」


蒼い目を光らせながら説明する。


「うむ、戦闘への参加には多少条件はありそうだけど、十分な能力だ。」


「魔剣士殿は、どうだ?」


「僕はむしろ、一対一の対個人戦に優れていると思っているし、一通り空間系の防御魔法を展開すれば、やられることはないと思う。」


「うむ、同じ空間系の魔法士や精神系・即死系の魔法以外は有効な攻撃方法はないだろうね。欠点は攻撃範囲が狭い亊と火力不足だな。」


正確な評価である。


「エリアと一緒に動けば、戦場の真っただ中でも、僕が守って、エリアが高位魔法でせん滅するって線はあると思う。」


「あとは、魔剣士殿の絶対切断攻撃の範囲が広がれば、火力不足は補えるはずだ。おそらくはエリア君の魔法でも生き延びる魔法耐性の高い敵などには、この絶対切断が威力を発揮することになる。」


「・・・俺に身体強化の魔法教えてくれないか?それかアスファさんに使った剣技を完成させたいんだ。」


「うん、あれに絶対切断乗せられたら無敵だな。いいでしょう。」


アスファは楽しそうにほほ笑む。


「案外アスファさんて優しいよね。殺しに来るときは怖いけど・・・」


「仕事だからね。本業は政治家だよ。」


「これからの作戦を説明するね。」


二人とも椅子に座りなおす。


「まずは、エルシード君がこのドラウネスに亡命したという情報を流しましょう。おそらく、彼らは君を捕虜にすることで、完全なる戦争の終結を他国に宣言したい所ですから、表立って身柄を要求してくるでしょう。」


「そこで、直接エルシード君を引き渡す条件として、ミリスの第一王女の身柄と交換という事で釣り合わない要求を出します。」


ミリスの第一王女をドラウネスが確保すれば、ミリスから攻められる心配がなくなるという事である。


しかし今回の目的はそこではない。


「そしてその際には直接エルシード君にもミリスの玉座の間まで行っていただきます。これが罠です。」


「おそらくは交渉を破棄して、その場でエルシード君を捕まえようとするでしょう。そうなれば、こちらがミリスを攻めるだけの口実ができるといった寸法です。」


「なるほど。」


「あっ、もちろん魔剣士殿は自力で逃げて帰ってきてくださいよ!ほしいのは、戦争をする口実だけですからね。」


「え~、大変な仕事だな~。」


「君ほどの空間魔法が使えればどこからでも逃げられるでしょう?」


からからとアスファは笑う。


ミリスが動き出すまで、エルシードはドラウネスに場所を変えて剣技の訓練だ。


教えるのはアスファ。


何も使わなければ彼の暗殺剣はすごい。


空間魔法なしには相手にはならないほどだ。


エルシードも今回は少し形を変えて、剣技は暗殺用の双剣・長い細剣と短い細剣の二本刺しだ。並行して身体強化の魔法も練習する。


体に魔力を隅々まで循環させる、何とも言えない落ち着かないような、体の中から満たされてはじけてしまいそうな張り詰めた感覚を我慢しながら、身体強化を身に纏う。やっとアスファと剣を交える。


すさまじい速度の剣撃、剣速に負けないように、視力強化・思考高速化をさらに追加してかけ合わせていく。


気を抜くとすぐに身体強化が消失してしまう。


難しい・・・このまま4時間は特訓が続く。毎日だ・・・


エリアは静かにお茶を飲んでいる。


遊んでいるわけではない。


常に途切れないように頭の中で高位魔法魔法陣を描き続ける。


もう少しで並行詠唱も4つの魔法でできるようになりそうな状況。


威力に関しては、魔力構成の単純化・圧縮・追加合成と繰り返し、高火力魔法を練り上げていく。


基本無詠唱なエリアだが、複雑な構成の魔法は多少時間はかかるようだ。


構成を単純化・圧縮して高速化を実現していく。


それを頭の中でやっているのだ。別次元の異能である。


自らがやれることを最大限やりながらその運命を待っているのだ。


そして、ついにその時がやってきたのだった。



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