第5話 もっと強く
その先へ予想通りエリアは城に戻ることになった。
守ろうと思っていた大切なものは、彼のもとを去ってしまったのだ。
ここに僕がいれば守って行けたのに。
悔しさをにじませて、王城に戻る彼女を見送る亊しかできなかった。
実際のところ現状で王城に戻っても人は多いが、守れる戦力は結局のところ少ない。
むしろ研究所よりも危険か、襲撃があればむしろ被害者が多くなるだけではないのか?またアスファが襲撃に来れば守り切れないかもしれない。
でも作戦は考えている。
まずはお城におよばれすることが先決。
お友達が遊びに来たことにして城に入れてもらうのだ、そして魔法結界(空間探知・魔力感知・物理魔法防御)を彼女の周りに配置するのだ。
そして極めつけは、自分が空間転移して駆けつけられるように、転移座標の記録を行う。
これで完璧だ。
さみしいのは仕方ない。
それでも見守るのだ。
エリアも納得して協力してくれている。
そして、王城に入り込みまんまと結界と転移座標を配置できたのは幸運だったかもしれない。
**********
デリアの手ほどきを受けてもう1年がたつ。
デリアはおもむろに、特訓の総括をしだす。
「強くなったな、あとは君が成長に従って体力が追い付いてくれば、ひとかどのの者になれるだろう。どうする?その先へ進むかい?」
「もちろんです先生。」
「ではこれからは私の奥義を一つ授けよう。でもすぐには習得できないと思います。並みの体力・筋力・集中力では、奥義を放つことはできないからね。」
「君は身体強化魔法は使えますか?」
「今はちょっと・・・・」
「では早々に体力をつけるしかないですね。せっかくですから身体強化魔法の練習もしておいてくださいね。」
「はい・・・」
厳しいのだ。無属性魔法師でありながら身体強化系の魔法は苦手だった。
・・・それから3か月たっぷりと地獄が待っていたが、何とか乗り越えた。
身長も5cm伸びた。体力も1,5倍程度にはなっただろう。
「これが私の卒業試験だ。」
デリアは深く腰を構えて剣を横凪ぎに構える。
息を整えて集中。
一気に剣で大気を薙ぎ払った。
ただの素振りではない。
なんと10mも先にある標的が剣も触れていないのに切断されている。
「閃空刃(センクウハ)という奥義で、剣と直接接触しなくても、標的を切り裂くことのできる技です。おそらく君ならば、そこに空間切断の魔力付与を追加できれば、広範囲の絶対切断攻撃ができるようになる。できれば無敵です・・・」
できるかどうかは別として、エルシードの特徴を十分に有効活用した技である。
朝から晩まで標的のダミーと睨めっこ。
剣を十分な前動作から、標的一点に集中すると気力と瞬発力を瞬時に放出できるように溜めを作る。
意識の中で何かが弾けた様にその力を一気に放出する。
失敗・失敗・失敗・エルは天を仰ぐ。
「そんなすぐにできれば世話ないよね・・・」
延々と続く繰り返しに身を投じるのであった。
ドラウネス王国はなぜ、大々的にエルシアに攻め込まないのか?原因は簡単である。
エリアリーゼの広範囲高火力魔法の存在である。
逆に言うとエリアさえいなくなれば、いつ何時ドラウネスは攻め入ってくるという事になる。簡単な道理である。
そこで彼らは暗殺を企てるのだが、今度は対人戦に優れた空間魔導師見習いのエルがいた。
魔法師の複数人での集団魔法では、事前に気付かれてしまう可能性が高く、魔道に優れたエルシアが先に攻撃を仕掛けてくるだろう。
手詰まりなのだ。
そこで、アスファとその暗殺部隊の役割が大きいのだが、今回は王城にエリアリーゼが引っ越したことで、攻めやすくなったと考えているようで、さっそく作戦を企てているのだ。
今回の襲撃はさらに多人数の襲撃。
アスファ・雷属性魔導士デュセル・アサシン10名での侵入。
アスファはすでに右腕の欠損部分も改善しており、前回同様の脅威となる状況だ。
速攻を仕掛けてくる。
城は結界が甘いため、するすると抜けられ、あっという間に内部に侵入。
目視で警備兵に見つかったアサシンは、戦闘慣れしていない警備兵を瞬殺していく。
最上階は王族とその関係者で使われている階であり、そこにたどり着く前に対処しなければならないのだ。
夜中、エルシードの目が覚める。
王城の結界に侵入者が引っ掛かったのだ。飛び起きる。
「王城に侵入された。行かなきゃ」
動きやすい服、魔力を練りこんだ細剣を腰に携えて、転移魔法で王城へ飛ぶ。予定通りエリアの部屋に出現するが、すでにエリアリーゼの姿はなく、暗殺者が通ったと思われる廊下にはところどころ大量の血だまりが点在している。
「まずい、もう連れ去られた後か。」
廊下を駆け降りる。正面、すでに破られている門には20人以上の重傷者が倒れ重なっている。
「空間探知!」
見つけた10人前後の敵集団が城から離れようとしている。
「先回りだ!」
空間転移で瞬間で敵の目の前に出現。
「スペースカッター!」
空間の刃が何条も重なりながら敵に迫る。
手加減できるほどの余裕がない。
一気に6人のアサシンが無残に切り刻まれた。
「うぎゃーっ」
悲鳴が上がる。
エルシードに気づいた魔導士が状態異常魔法「パラライズ」を放つ。
空間障壁を作って命中を避け、残った4人のアサシンはあっという間に腕を上げたエルシードの細剣に切り裂かれて果てる。
「あと、二人」
エルシードはアスファの携帯しているカレンデュラの効果のため動けなくなっているエリアを見つけるが、雷属性魔法士が邪魔をする。
魔法士は雷系の上級魔法をエルシードの頭上に放つ。
防御は難しい。
「ディメンションボム!」頭上の空間爆発を誘導して雷系魔法を瞬時に拡散させてしまった。そして驚いて少し足を止めたアスファの油断を見逃さない。
「できるか?・・・」
力をためて集中する。そして一閃、空間を薙ぎ払う。
「閃空刃!!」
縛られたエリアを抱きかかえるアスファの両足を切り裂く。
アスファは転倒し、エリアは地面に投げ出された。
「空間転移!!」エルシードはアスファとエリアの間にやっとの思いで飛び込む
「空間障壁!」勝負あった。
エリアとエルシードは同じ空間障壁に守られた空間にようやく入ることができた。
もう、敵に手は出せない。
あとは、こちらが残った二人を倒すか逃がすかだけの問題だ。
アスファとにらみ合う。
「おのれ、またお前か。忌々しいほど強いな」
「もう諦めたらどうだ?ぼくは、絶対にエリアを渡さない。君たちはエルシアを侵略できないよ。あきらめないというなら、僕があなたたちをつぶしに行くよ。」
魔女とこの空間魔道師に一緒に攻略されたら、さすがにまずいのだ。
「俺はこれでも、ドラウネスの軍師だ・・・どうだ、空間魔道士よ我と一緒にドラウネスに来ないか?」
「・・・それは和解要求ということでいいのか?」
「いま、ドラウネスは特色のない国、後方のミリス帝国におびやかされて、もはやエルシアを取り込む以外に対抗できる策がない。本当は貴様ら二人を捕らえて精神操作のうえ、ミリスに大被害を与えるつもりだったのだ。」
答えようがない。
「調べによると、貴様はアルカテイル王国の残子であることは知っている。お前は自分の国を取り返すために強くなることを選んだのではないのか?それだけの、魔剣士としての才能を持ちながらミリスから逃げ回って生きていくのか?」
「・・・ぼくは祖国を見てみたい。ミリスには興味はない。そしてそれ以上にエリアと過ごす静かな時間が大切なんだ。でも、ぼくが打って出ないとエリアと静かな時間すら過ごせなくなると言うのなら、もっともっと強くなって邪魔をする何者にも立ち向かう」
もともとエルシアにあるこの安らかな時間はいつまでも続かない。
本当は知っていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます