第4話 もしも失うなら

エリアは泣きながら回復魔法をかけ続ける。


「クリティカルヒール!!アルバトロスキュア!!リプロダクション!!」


「お願い!誰か助けてぇ!!」返事はない。


他の素体は騒ぎの間にみんな避難してしまった後だ。


最上級回復魔法が平行詠唱される。


瞬時に傷がふさがり表面上は完治するが意識が戻らない。


脈が弱く速い。呼吸が不安定だ。血液が足りないのだ。


魔法ではどうにもできない。


エリアは泣きながら必死に医療研究室に引きずって連れていく。


研究員達は気づかない。


明日には死んでしまうかもしれない。


もはや自分でやるしかなかった。

知識はある。


実験室の医療器具から輸血バッグを用意して太い針を自分の足の付け根の太い血管に突き入れる。血液を抜き取る。


血液型は同じだったはずだ。


とりあえず800ccの採血を行い輸血バッグに移す。


自分も意識が保てるぎりぎりの量だ。


直ぐにエリアシードに輸血が開始される。


エリアは泣きながら、彼の胸に縋り付いて気をうしなっていた。



翌朝、エルシードは目を覚ます。


嘘のように痛みも苦痛もない。

傷が治っている。

腕には空になった輸血用バックがぶら下がっている。


重い体を起こそうとすると、そこには胸に縋り付いて泣きはらしたエリアリーゼがいた。


顔色は良くないが、落ち着いた呼吸をしている。

寝ているだけだ。


「たすけてくれたのか・・・」


愛おしく見つめ、頭をなでる。


静かな時間が流れていた。


あの出血で助かったのは奇跡だ。


ただの仲間以上の感情がそこにはある。


「エリア・・・助けるのは僕の役目だったよね」


自分の力の足りなさに、怒りを覚える。


「強くならなきゃ・・・」


僕はずっとこの娘を守っていくことを誓っていた。


エリアの肩に毛布を掛けて頬に手を添えた。


しばらくすると、エリアが目を覚ます。


「ありがとう、エリア」


「助けられたのは僕のほうだったね。」


漆黒の瞳がほほ笑む。


「よかった生きてる。昨夜はどうなる事かと心配だったんだからぁ」

涙目の少女が言うと、エルシードに抱き着いた。


「今度こそ僕が君を守れるように、強くなる。約束するよ。」


「うれしい!でもエルが生きていてくれればどうでもいいんだけどね。」


貧血で立ち上がれないエリアを抱き上げて、回復室に向かう。


もしも、昨晩エリアを守れずに失っていたら、どうなっていただろう。


敵を討つだけの力もなかったとしたら、僕の心はどうなってしまっただろう。


想像するだけで胸が焼けるように苦しくなる。


今回、暗殺者は広範囲で魔法を封じる魔法具を使用して侵入してきていた。


剣技の訓練をしていなかったら対抗できなかっただろう。


薄氷を踏むような運命に、ただ恐ろしさを感じる。


居ても立ってもいられない気持ちを抑えて、ただひたすら強くなるための方法を考える。


**********


剣技の訓練は続いている。デリアとの剣技の訓練は苛烈を極めたが、必死についていくエルシード。


デリアはそんなエルシードを微笑ましく見る。


「なぜそんなに、強くなりたいんだい?」


「守りたいものを守れない怖さを身に染みたんです。以前は自分の住んでいた国を探しに行きたいからだったんですけど、今は守りたいんです。」


「今回の襲撃が身に染みたんだね、エリアリーゼ様は今後研究所から出て王城に戻ってもらう方向になりそうなんだが・・・」


うまくいかないものである。


こんな時に離れ離れになる事に動揺を隠せない。


こんなことで諦められない。


「今度一度エリアの部屋に招待してくれないかな?」

「うん?どうして?」


「今後しばらく、エリアは研究所を出て、お城に戻ることになるってデリア先生はいっていたよ。」

「え~それは嫌!!」


「仕方ないんだとは思うけど、心配なんだ。できれば僕が空間転移できるように座標を確認しておきたいんだ。それと結界も・・・」


「う~ん、わかった。何とかしてみる。でも城に戻るのは却下だよね!」


つまらなそうな顔で答える。これから別々の生活が始まる予感。


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