第3話 戦乱と自己の証明

ドラウネスの襲撃失敗から数日、エルシードは自分が何をすべきなのか?自分がどういう人間なのか?考えるようになっていた。


「僕は一体誰なんだろう・・・。魔法は使えるようになったけど何のために使っていけばいいんだろう。」


「知りたい?」


エリアは深く澄んだ漆黒の瞳をのぞき込む。


「私、あなたのことよく知ってるよ。あなたの事は資料で全部見せてもらったから・・・」


「それって、次期女王特権か。」怪訝な顔でエリアを白い目で見る。


「もともと、兵士や文官も少ないこの国では管理されていない、いろいろな種類の情報は自分で調べられるからね。私のは特別だけど・・・」


「・・・できれば教えてほしいんだけど、自分の事を・・・」


自分の出自もはっきり理解していないのだ。


こわいような躊躇われるような罪悪感を感じながらエリアの真っ青な瞳を見つめる。


「いいよ~、たぶんあなたの事は私の方がよく知ってるんだから」


自慢げに話し始める。


「あなたの本名は、エルシード・ファン・カルシエル・ド・アルカテイル。今はなきアルカテイル王族のただ一人の生き残りよ。150年もの間、眠ったままでここにきてから魔法をやっと解除して今があるの。何か憶えていない?」


漆黒の眼を丸く見開き驚いて開口する。


「アルカテイルは、魔道剣士の聖地。一人で100人もを相手取って戦える最強の戦士たちを作り出す神秘の国よ。その分、軍事にかかわる兵力は少なくて、それが原因で度重なるミリス帝国の物量作戦の前に滅んでしまったの。」


「あなたがアルカテイルの王子であることは、極秘の事で、知られればミリス帝国が引き渡しを要求すると思うわ。」


「・・・僕の国の国民は生きているのかな・・・」


「ミリスの国民になって生き延びているみたいよ。」


「行ってみたいな・・・旧アルカテイルに・・・」


「エルシアからの入国なら、受け入れていると思うよ。もともと身分は孤児/研究用素体という事になってるし。変った身分だけど一応身分証明できるよね。」


「・・・」


じっと考える。いつか旅に出よう、そして自分の生かされた理由を探しに行こう。心に決めた。


「私もついてってあげようか。」


何か、見透かされたような会話に、少し気まずい感じを覚えていた。


**********


「うむぅ、腐っても魔法先進国といったところか。10歳程度の魔法士見習いに暗殺者7人がかりでやられるとは。」


「まさか、あの小さな魔女以外にも、あれだけの実力のある魔導士見習いがいるとは思わなかったぞ。それも、空間魔法の天才的使い手というのは、厄介だ。」


ドラウネスは2年前の敗退から、ようやく兵力5万人の戦力を配備して虎視眈々とエルシアの制圧に期をうかがっている。


特にこれといった特色のない軍ではあるが、暗殺技術に関しては秀でており、攻め入る前には他国の扇動や、夜襲、情報操作を行ってくるのが常なのだ。


今回の失敗でエルシア侵攻の足掛かりを完全に失ってしまった形となっている。


皇帝グレノール・デル・ドラウネスは弱ったように、軍師兼アサシン部隊主席であるアスファ・ジルベルディアを呼び出す。


「アスよ、あの忌々しい魔道研究所のガキどもを何とか出来んか?」


「研究所から外に出てくれないと難しいですね、結界がどうしても引っかかってしまって、構えられるとどうにもできないというのが実情ですよ。」


「・・・あれをやろう・・・とっておきの魔法具をやる。」


広範囲で魔法をすべて無効にする封魔の腕輪カレンデュラである。アスファは腕輪を手に取りながら、難儀そうに言う。


「まぁ、出るところに出て一対一で命の駆け引きするのなら、あんなガキども敵ではないんだが・・・難儀なことだ。あとは誘い出す作戦があればいいんだがね。」


玉座から退出していく。


**********


壊れた寝室をエリアと片付けながら切実な感想を漏らす。


「魔法攻撃って、力加減を調節するほうが難しいよね。近接戦闘で使えるのってやっぱり剣だよね。剣術練習して僕も魔剣士になろうと思うんだ。どうかなぁ」


「かっこいいし良いと思うよ」


エリアは同意して微笑む。


「誰か教えてくれる人がいるといんだけど・・・」

「近衛騎士団長のデリア様だったら文句ないよね。頼んであげようか?」

「知り合いなの?」

「私王公貴族に知り合い多いのよ。まかせて」


数日後、エルシードに声がかかる。近衛騎士団長である。


「君がエリアリーゼ様の言っていた、天才魔導士かい?魔剣士になりたいって言う」


「あっ、いや、天才では無いと思うんですけど・・・魔剣士にはなりたいです。」


「ふむ」


「私はデリア・カートライト。近衛騎士団を率いている。よろしく頼む。」

凛とした女性騎士だ。


「まずは、君はあまり重い剣は持てそうにないし、刀身が短いと役に立たない事がありそうだね。即戦力としてなら、長めの細剣がいいかな?魔法剣士なら魔力付与も使えるだろうし・・・。」


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


それから、毎日2時間の特訓が始まった。


特訓はかなり厳しいもので、毎日ボロボロになって部屋に帰ってくるエルシード。


とはいえ、実際に上達は極めて速くデリアも驚くほどであった。


そんなある晩、突然正面から結界を破って研究所に入ってくる侵入者が1名。


アスファーである。


「さて、きさまらの秘密兵器を破壊してやろう。まずは魔女の首をもらおうか」


アスファーは魔力探知を使いながら、エリアを探している。魔法も巧みに使える魔道暗殺者なのである。


「また来たね、今度は私が追い返してやるわ」


エリアは鼻息が荒い。


情けないことに大人の職員は誰もいないのだ。


ドアが開く、背の高い細身の男性が紅鋼のダガーを両手に持ち立っている。


「こいつはただものではない。」


エリアもアイスニードルを無詠唱で放つが、どうも思うように魔法が発動しない。


「なんで?なんで魔法使えないの?」


慌てて部屋から飛び出す。


エルシードが空間転移でアスファーとの間に割って入る。


「俺の出番か!」


「ほう、君が噂の無属性魔法士か・・・死んでもらう」


アスファーは身体強化を自分にかけると、恐ろしい速度で迫る。


エルシードも細剣を翻すと攻撃を受ける。


きれいな金属音が連続で響く。


恐ろしく重くて速い攻撃が降り注ぐ・・・


「なかなかやるようだね」


まともに受けずに受け流すように力を逃がして凌いでいる。


「クッソ、俺身体強化つかえないぅぅ」


「ほら、切り裂いちゃうよ。」


「うわっ、いたっ、うわぁぁぁ」


一瞬でエルシードの胸・首・両大腿部にかなり深い傷がついており、大量の出血が吹き上がる。


やられた。


転がるように部屋の奥になだれ込む。


体制を立て直そうとするが、痛くて力が入らない。


エリアが必死に治癒魔法をかけようとするが、効果が発現しない。


アスファーはとどめを刺しに、近寄ってくる。


「・・・チャンスは一度だけ・・・エンチャント空間切断」

細剣に魔力付与を行う。


身を翻すとアスファの正面から細剣で切り込む。


「ぐあぁぁぁぁぁっ」


アスファーの右腕は細剣を受けたはずのダガーごと切り裂かれて床に落ちた・・・


「やりやがったな・・・ッチッ絶対切断か・・・この借りは必ず返す!」


暗殺者は空間転移を使って消えた・・・


エリアは泣きながら負傷して大出血したエルシードに狂ったように回復魔法をかけ続けていた。

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