第2話 もう一人の異能
魔法国エルシアは人口10万人程度。兵力わずか1万5千人程度の弱小国である。
ただし国民のほぼ7割が魔法士であり、実際には見かけより戦力が高いと思われている背景から周囲の国から攻められることが稀であった。
エリアリーゼ・ウル・カルラム・ティアノーラ。
彼女の本名である。
魔法国エルシア王国において最も大きな貴族・ティアノーラ侯爵家の長女である。
父は四属性の強力な攻撃魔法を操る魔法師団長。
母は100年に一人といわれる聖属性魔法を駆使する聖女である。
この二人から生まれた9歳の少女は、紅い髪に真っ青な瞳が印象的な、未完成とはいえ誰の目から見ても美しい少女である。
エピソードとして、彼女が7歳の時に隣国に攻め込まれたエルシア王国は、彼女一人の力により隣国の進行を退けた経緯がある。
そして常に外敵から狙われることになった彼女が身を寄せたのが国家魔道研究所であった。
彼女は魔力量、構成力はエルシード以上で、9属性すべてを同様に使える能力を有し、中でも聖属性魔法に最も特化した治癒蘇生術を得意としている。
ここで説明をしておくが、属性は全9属性で、『火』・『水(氷)』・『風』・『土』・『雷』・『光』・『闇』・『無』・『聖』が存在して、通常の魔導士では、3属性使えれば天才と呼ばれる状況である。
少人数であれば欠損部位の再生、死後の時間経過の浅いものであれば、死者の蘇生も可能とする異能者である。
ひそかに時期皇帝は彼女が女王として即位するという噂まで上がっているのだ。
彼女は長女といいう立場上、王族との結婚の可能性があることから、多くの知識をもっていた。
そこで最も彼女が興味を示したのが、150年の時を超えて目覚めたエルシードである。彼女は彼の資料に目を通して気持ちを馳せるのだ。
彼は大戦の最中、滅びゆくアルカテイル王家からその血を絶やさないために守られた最後の生き残りであることを知っているのだ。
アルカテイルは軍事的は小国であり、人口30万人に対して、その戦力の中心となる人材はわずか魔導士5千人と魔剣士千人の精鋭のみであったとされる。
兵自体が少数であったにもかかわらず、大戦では総兵力20万人の超大国であるミリス帝国の進行を7度にわたり退けたが、国民に被害が出る前に、アルカテイル国王の投降断罪という形で幕を閉じたのである。
その際アルカテイルの王子一人は幼くして、魔法技術による眠りを与えられ、ひそかにここエルシアに亡命していたという話なのである。
そんな神秘にあふれる存在に接し、何か特別な感情を持たずにはいられないエリアであった。
寝静まるころ、暗殺者が入り込むことは珍しくない事なのだろう。
魔道研究所には警備として魔道結界が張り巡らされているが、守備に就ける人員が配置できないほどの人員不足に陥っている。
それでも、魔道研究所のほうが、一番安全なのである。
結界の解除ができる高位魔導士未満では侵入は不可能だからである。
返してみれば侵入された場合は、極めて危険な敵が入り込んだことに間違いがないのである。
目下魔法修行中のエルシードは空間索敵魔法と魔力感知走査魔法を発動させながら睡眠をとっていた。
隣国ドラウネスは2年前にエルシアに3万人の兵力で攻め込み、わずか一人の幼女の操る広範囲高火力魔法の前に壊滅状態にされ、撤退を余儀なくされた苦い経験をもとに、精鋭の暗殺者送り込んでくるのである。
侵入の回数を重ねてエルシア城内の調査ができたようで、ついに襲撃が実行されようとしている。
狙いは2年前の幼女である。
覚醒した無属性魔道少年には気付いていないのである。
魔道結界の揺らぎを感知するエルが目を覚ます。
「侵入者だ・・・9人。動きが速い。」
「こっちに来る。」
エルの寝室は一番手前の部屋だ。まずはここから狙われるだろう。
動きやすい服に着替えて寝たふりをする。
案の錠、静かに壁をすり抜けて2人の暗殺者が入ってくる。
静かに寝台に近寄りダガーを振り上げる。
「グラビティフォール!」
暗殺者は周囲に大きな重力をかけられ地面にひれ伏しピクリとも動けなくなった。
「空間索敵・・・」
最も多い人数が集まる部屋。5人・・・エリアの寝室だ。
「まずい」
「空間転移!!」
一番奥の部屋に飛び込む。
すでに室内はエリアの実行した風属性魔法による嵐が起きており、膠着状態となっていた。
エリアの腕には彼らの手によって魔力を封じる封飾具が3つもつけられている。
エリアの自力では逃げ出すことは困難だ。
「エリア!!」
「エルぅ?!」エルシードに抱き着く。
「空間障壁!」エルシードとエリアの周りに防御障壁が生じる。
「もう大丈夫だよ。」暗殺者は魔法、暗殺具を使用して一斉にとびかかるが彼らには触れることができない。
「ディメンションバースト!」
殺傷能力の比較的低い空間魔法で弾き飛ばし、敵を壁にたたきつける。
暗殺者の声にならない呻きが聴こえ、周囲が静かになった。残りの二人はすでに逃げたようだ。
7人の暗殺者を捕獲され、敵の作戦は失敗に終わった。
「ありがとう、エルぅ。助けに来てくれたの?」抱き着いて離れない。
「無事でよかったよ。エリアを狙っていたみたいだね・・・」
「2年前の事を恨んでるんだよ。でも今回エルがいること知らないから驚いたんじゃないかな。」
「エルかっこよかったよ。」
エリアはエルシードの頬にキスをした。
エリアにとって、やはりエルシードは王子様なのだ。
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