無属性魔剣士の聖戦記
@drtango
成長(エルシア編)
第1話 序章~覚醒
この国は、過去に魔法で栄えた国「エルシア」。
150年前に大戦に巻き込まれ、生き残った王族・魔法士で細々と復興した小国。
当初は世界最高の魔法技術から、多くの国との国交を持ち、多くの優秀な魔導士を送り出してきた。
現在は技術を継承するものも少なく、もっぱら農業と魔法具の生産を糧に細々と歴史を刻んでいる。
この物語は、時空を超えた10歳の少年が、その特殊な能力に目覚め世界を変えていく物語。
その少年は、大戦から逃れて長い眠りとともに時空を超えてきた。
現在は魔法研究の材料として研究所で引き取られて、不自由な生活を送っている。
不自由とはいっても、苦痛のある実験はほとんど行わず、本人の同意のもとで研究はすすめられている。
同様の研究材料・素体とともに・・・・・
「エルなにボーッとしてるの?」同研究所素体のエリアが声をかける。
「エリアは魔法使えていいなぁ」エルシードはため息をつく。
エリアは実験用の素体の中ではすべての属性魔法を使いこなせる稀有な存在で、新魔法開発を手伝っている。
研究所でも最重要といえる素体である。
彼女はエルシードが研究所に運び込まれたときからずっと同年代の彼のことを気にかけているのだ。
「何言ってるの、エルは魔力量・魔力組成に関してはすごいって、先生いってたよ」
「使えなきゃ意味ないし。ただの爆弾処理係だよ。」
使えないとはいっても、魔力量が半端なく多いので、危険な魔道具整理、魔法具作成や暴走した魔力制御には関与できるのだ。
「そうそう、いま博士達が危険な集団魔力操作の実験をしているんだけど、どうも魔力の挙動が不安定らしくて、危ないらしいの。」
エリアは所長に頼まれてエルを呼びに来ていたのだ。
「うあぁぁぁあ」
轟音とともに仲間の叫び声がする。
実験棟のほうだ。
現場に走る。
扉をあけると、部屋の中央には集団魔法で暴走した魔力が渦巻いている。
危険だ。
早速暴走した魔力だまりに足を踏み入れる。
「なんだ?」
渦の中に何人もの素体が飲み込まれ、その真上には恐ろしく高密度の魔力球が形成されている。
エルシードは大急ぎで仲間の元に走る。
制御できない。
爆発する!と思う刹那、魔力球がはじけた。
周囲にあるすべてを破壊しつくして、魔力は拡散していく。状況が収まった時には、実験棟は消失していた。
「エルぅ」叫びながらエリアは中心にいるエルシードに駆け寄る。
「生きてる?」
エルシードは他の素体とともに、周囲に結解のようなものをつくり、中で意識を失っていた。
「大丈夫か?」
急いで駆け付けてきた所長が、結界内に詠唱とともに手を入れる。
入らない・・・結界内に入れたはずの手が、その場にはないのだ。
首を傾げる。
結局、自然に結界が消えるまで待つしかなかったのだ。
「あっ、起きた。」
エリアが心配そうに顔を覗き込む。
起きたのは昼も近くなってからのことである。
結界は早朝には消失しており、ほかの素体たちも無事に保護されていた。
「よかった、どこも痛くない?」
「大丈夫だよ。多分・・・」
ベッドから体を起こして、体中見回す。
「みんなも無事だよ。エルのおかげだよ。」
「そっか、何とかなったんだ・・・」
安堵の溜息をつくさなか所長が入ってくる。
「大丈夫か?エルお前のおかげでたすかった。ありがとう。」と仰々しく告げると
「今回のことで、お前の魔法属性の事で解かったことがある。」と話始める。
「お前の持っている属性の一つは無属性。特に空間操作系の魔法を使えるようだ。」
今回素体の周りに展開された結界に似た空間は結界ではなく、切り離された別の空間自体であったのだ。
そのため魔力爆発が干渉せずに彼らは守られたのだ。
「あっ、そういえば」エルは中に取り残された素体達を保護するために実行範囲を決めて、魔力で空間を隔てるイメージを作っていた事を思い出した。
「今まで不安だったな。」
所長は言うと、無属性の魔道書をエルに手渡した。
「お前の力は、非常に珍しいもので、非常に強力かつ有用なものだ。自信をもっていいぞ。」所長もうれしそうだ。
彼も、なかなか定まらないエルの属性と魔法師としての評価を心配していたのだ。
無属性魔法の魔導書は、とても興味深いものだった。
その反面非常に危険な魔法が多く、使うに躊躇われるものが多く含まれる。
しかし、エルはまだ見ぬ、自分の魔法能力に胸躍らせていた。
実際に魔導書を読破、練習場での特訓で見る間に多くを習得してしまった。
「スペースカッター!」
標的にした金属でできた標的が、きれいに真っ二つになり倒れた。
通常風属性魔法のエアカッターならよほど魔力を練らない限り切断に至らない。
この魔法の恐ろしいところは、「絶対切断」である。
標的の存在する空間自体をずらすことによって切断するため、物理法則を無視していかなる物質でも切断せずにはおかないのだ。
研究員の間で驚愕の声が上がる。
「ディメンションボム!」
標的はいとも簡単に粉々に砕け散った。
こちらは空間の密度を急激に変化させて、空間振動を発生させることで、標的を粉砕するのである。
こちらも効果は絶大で、物理法則に従う限り破壊できない物質はなさそうである。
「ディメンションバリアー」
仲間を魔力爆発から守った防御魔法である。
結界よりも素早く対象物の周囲に空間のずれを作り、攻撃を避けるのだ。
空間のずれを利用しているので、魔法構成自体が破壊されない限り破れない、強固な魔法障壁である。
「空間転移」
比較的一般的な無属性魔法で、自分もしくは対象物を現在の座標から離れた場所に瞬間移動させることが可能である。
他属性魔法の使用者でも、一定以上の魔法士ならば使える技術であるが、連続使用・高速使用・多人数同時転移や、自分以外の物質を転移させることは極めて困難であるが、この領域に関してエルは相当に優れていた。
今まで魔法の使えなかった間の隙間を埋めるように、充実した時間が過ぎていった。
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