第10話 スローライフ?
魔剣士との戦闘のあと、エリアは魔剣士たちの治療を断り続けている。
「私が何でエルをあんな目に合わせたやつらの治療しないといけないの?本当ならエルの絶対切断で肉片になっていたはずなんだからぅ。」
「もしかしたらこれからは僕が彼らの主人になるのだから、そこは協力してもらわないと・・・わかった・・・後で二人で一緒にゆっくり過ごそう!エリア、君のためにちゃんと時間使うから・・・ね?」
「約束ですよ・・・」
満杯の回復室で横たわっている、魔剣士たちに回復魔法を一人ずつかけていく。
「クリティカルヒール!」
「ありがとうございますエリアリーゼ様。」エルセフィアが続ける。
「ほんとは治したくなかったんですよね・・・すみません。」
「うん、、、そうだね。でも仕方ないよ。エルの頼みだもん。」
「エリアさんって、エルシード様とどういう関係なんですか?」
「う~ん、多分恋人?許嫁?・・・私のもの~」
「あははっ さすがですね。」
「だって、エルが目覚めてからは私ずっと一緒なんだよ。これからも死ぬまで一緒!」
「うふふ、あんなに恐ろしい魔法が好きなように使えて、何もかも自由にできそうなのに、ご主人様がいいのね。」
「うん、ずっと傍で守ってくれるって約束してくれたんだよ。」
「アルカテイルの事よりも大切っていってくれた・・・私もエルのためなら何でもするよ。」
「それは我々にとっては困った発言ですが、いまは良しとしましょうか・・・」
「本当に二人だけで国を作ってしまいそうですね・・・」
ほほ笑んで見送るエルセフィア。
全員治し終えるころには、エリアはご機嫌になっていた。
**********
回復の完了した魔剣士たちと意思疎通を図るため王城の会議室に集まる。
「まずは王子にお聞きしたいことがあります。あなたは今後どうなさるおつもりですか?」
「本当は何もしたくない。エリアと静かに生活できたらそれでよかったんだけど・・・僕やエリアの力を狙い、勝手に脅威に思ったり利用しようとする者が多すぎるので、どこか干渉を受けずに暮らせる場所を探したい。そう思ったんだ。」
下を向いてじっと手を見つめている。
「でもそれが難しいと分かった時、同じ平和を愛する仲間と一緒に独立した国を持ち安定した人生を送りたい。そうなれば、もう僕にはアルカテイルしかない・・・そう考えたんだ。」
「なるほど、わかりました。あまり大きな大義を掲げないのは、むしろあなたには好印象です。いいでしょう私は力をお貸ししましょう。」ジルベールはほほ笑む。
「皆はどうだ?」
皆黙ってうなずく。
「アルカテイル王太子殿下に忠誠を誓います。」アーバイン・スレイン・レシールの3人が片膝をつき頭を下げる。続いてひとりひとり了承の言葉を述べる。
「面白そうだからいんじゃない。」ランディア
「主様がよい人なので協力しますよ。」エルセフィア
「難しいことはわかんないけど、悪くないかな。」ティルレイン
「これからはあなたの配下です。何なりとご命じください。」ジルベール
**********
早速翌日から大変な仕事が始まる。それは、ドアルネス後方エルシアの手前に空間転移させた、アルカテイル領出身の兵士たちに対する対応と交渉である。
調査では、ほぼすべての兵士たちの生存者は5万6千人にも及んだ。
残念ながら死亡した兵士は5千人にもなってしまったが手厚く葬る。
生き残った人間の9割の人数はアルカテイル出身であり、18歳から35歳までの男性が占めていた。
誰もが皆ミリス帝国の仕打ちには不満を多く持っており、誰もがドアルネスの今後の対応にも戦々恐々としていた。
まずは、エリアシリーゼを中心とする回復・介護部隊が数千人単位で範囲回復魔法をかけていく。
これでも5日ほどの時間が要したが、対応が丁寧であったためか?この間にこれらの捕虜たちの間には安堵の声が上がっていた。
そんな中で、今回の強制転移させたエルシードから、魔法を使った拡張放送で、説明や今後の話がなされる。
「捕虜となったミリス兵たちに報告があります。ぼくはエルシード・ファン・カルシエル・ド・アルカテイル、大戦で消失したアルカテイル王族の生き残りです。この度の件では、こちらが手を出しにくいように徴兵においてはアルカテイル領出身者が選ばれていたという事が判明しています。この亊については、皆さんには失礼ですが、僕としてはむしろ幸運であったと考えています。」
捕虜たちの間にざわつめきが起こる。
「それは、こんなことでもなければ、こんな多くの同郷の皆さんとお会いすることは難しかったと思います。そして、皆さんは、間違いなく私の同胞に違いないのです。もちろんこれをもってアルカテイルを再興しようとまでは考えてはいませんが、皆さんがこのドアルネス南部を開発して一つの街を作り、ドアルネスに協力していただけるなら、再びミリスがドアルネスに攻め入ることもできなくなりますし、何よりも皆さんが生きているだけで僕はうれしいんです。」
捕虜たちは、静かに清聴している。
「僕に力を貸してください。安定したら、こちらから人間を派遣して、アルカテイル領に転移魔法陣を作り、皆さんのご家族をこちらに来ていただくように計らいたいと考えています。そのためにも生活できる基盤を作らなければいけません。どうでしょう?僕に力を貸していただけませんか?」
歓声が上がる。「アルカテイル王国万歳」皆理解してくれたようだった。
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あとは、当面の物資の問題である。ここでエルシアの有力貴族である、エリアリーゼの出番である。
エリアの一時的な里帰りが決まる。
ドアルネスのエルシア城襲撃のあと全く説明もなくこの半年間経過していたのだ。
エルシア城では、エリアとエルシードは驚きの声で迎えられた。
多くは生きていたことへの安堵の声であったが、少数にはドアルネスとの関係を懸念する声もあった。
今回はアスファは同行していない。
エルシアを刺激しないためだ。
ティアノーラ侯爵・侯爵夫人ともそれはもう、大変な喜びをもって歓迎してくれたのだ。それというのも、以前からエリアリーゼがエルシードを心から慕っていることを知っているからに尽きるのだ。
今回の面会でもご夫妻は、エリアの無事を心から喜び、朗らかに笑うエリアをただただ柔らかな視線で見守っていた。
仕事の話も順調で、流れよく食料・開拓物資などの補給については、ドアルネスが今後はエルシアに不可侵であるということを条件に、快く協力が得られたのである。
ただ一つ、エリアリーゼとエルシードの正式な婚約というおまけがついたのは言うまでもない。
図らずも、アルカテイル領民・エルシードたちはささやかな一歩を踏み出したのである。
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