第4話 事件

「学校からメールあったよ。事件あったんだってね」



 ママは海斗の倒したつみきを集めながら言った。そしてママの手の中に納まったつみきをまた海斗が取って積み上げる。私が学校に行っている間。ママと海斗はずっとこんなことをしているのだろうか。



「聞いた? 事件の話」



 私はママの話を片耳で聞きながら、ランドセルから連絡帳を取り出した。筆箱から一番芯が尖っている鉛筆を抜き取って、今日の日付を書く。



「火事だって。ちょっと前からここら辺で続いてたんだけど、学校のすぐ近くの家も燃やされたんだって」



 私は一生懸命鉛筆を動かす。さっき会ったおばあさんのこと、「アザミ」のこと、おばあさんがぼそぼそ言ってたこと。全部ぜーんぶ連絡帳に書いてやる。真っ黒にテカっている芯が、パチンと跳ねた。



「怖いね。犯人捕まってないらしいよ」


 

 丁度一ページ分書き終わったところで連絡帳の中の私が家に着いた。今年から始まった「連絡帳日記」。連絡帳にその日にあったことを書かなくてはいけないめんどくさい宿題。こんなことしているの、佐伯先生だけだ。



「油とかガソリンとか、液体持っている人がいたら近付いちゃだめだよ。あと怪しい人。うーん、放火魔ってどんな見た目してるんだろう」



 ママも積み木を積み上げ始めた。その丸っこい木の上に、そんな大きな四角が乗るはずもない。



「うん、分かった。じゃあねママ」



 連絡帳をランドセルの中に入れて、二階を目指す。ゲームもアンもそこにある。今日は元々塾も水泳もなかった日だ。パパも帰ってきてないからたっぷり時間はある。



「ちょっと茜。宿題やってからよ」



 階段の丁度真ん中ら辺に来たとき、下からママの声がした。私は元気よく答える。



「もうやったよ!」



 


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