第3話 おばあさん
「そう、アザミ。綺麗でしょう。私が毎日お世話してるのよ」
おばあさんはそう言うと、嬉しそうに花を撫でた。ペットボトルから伸びる花は、可愛く揺れている。
「何でここでお花を育ててるの?」
私はずっと不思議だった。どうしてわざわざ交差点なんかで花を育てるのだろう。ここはよく車が通るから空気も綺麗じゃないだろうし、誰かが踏んでしまうかもしれない。毎日ここまでくるのも面倒だろう。私だったら、家で育てる。
「この花は、浩司のためのものだから」
おばあさんは花をみつめたまま喋る。ほんの少し、声が震えている気がする。
「私の孫はね、とっても可愛かったの。おばあちゃん、おばあちゃんっていつも私のそばにいてねぇ。私の横じゃないと寝れないのよ」
嬉しそうな、悲しそうな、よく分からない表情をしている。おばあさんが話す度、唾が飛んで花に掛かっている。それが汚くて怖くて、私はもうここから逃げ出したかった。
「もう帰らなくちゃ」
ランドセルのベルトをぐっと握りしめ、何も気にしていないフリをしながら話す。何だかあんまり上手に話せていない気もするけど、恐怖の中よくやったと思う。
「あの子、きっとまだ泣いてるわ。あぁ私が目を離さなければ。ううん違う。あいつが悪いのよ。あの黒い車。黒い車が……」
おばあさんは私の話をまるで聞いていないようだった。ぼそぼそとよく分からないことを喋っている。もう、私の存在をまるで無視しているようだった。
私は今がチャンスだと思い、そのまま家の方へ走った。
「ただいま」
玄関を開けるとすぐにリビングに向かう。ママが弟の海斗と一緒に遊んでいた。私の顔を見ると、すぐに「おかえり。大変だったね」と言った。ママの優しい声で
、一気に心が落ち着いた。今やっと気づいたけど、随分心臓の動きが早くなってたみたい。
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