第2話 紫
「先生。何でもう帰っていいんですか?」
そう大きな声で聞いたのはやはりたかし君だ。彼はまだ教科書を開いたままだ。彼がクラスの中で一番帰りの支度が遅いのは、そういうことだと思う。
「お家の人にもメール送るけど、学校のすぐ近くで事件があって、犯人がまだ見つかってないみたい。そんなに怖がらなくて大丈夫。今日はお家にいようね」
その後先生はまだ何か言っていたが、私にとってはどうでも良かった。今は十時半。ゲームをして犬のアンと遊んでも、まだ時間が余っている。さっさと家に帰って宿題をしてしまおう。
帰りの会が終わると、集団下校の準備が始まった。校庭には班の番号が書いてあるプラカードを持った先生が並んでいる。私は一班。学校の一番近くだから集合場所も解散場所も学校だ。
「一班のみんな、気を付けて帰るんだよ。何かあったらすぐに誰かに助けを求めること。学校か家に逃げること」
一班対応の瀬良先生はにこやかに言った。真っ黒なジャージがとても似合っていてかっこいい。私達のことを真剣に思ってくれているのも、高い鼻も全部かっこいい。のんびりとしているうちの担任とは大違いだ。
私は先生にしっかり「さようなら」と言った。先生、私の名前覚えてくれてるのかな。
校門を出てすぐに交差点に着いた。いつもの通学路、ここを曲がって少し歩けば家に着く。近くには集団下校している他の班がいた。それと、いつものように花が置いてある。
紫色の派手なのが四本、黒いラベルのペットボトルに刺さっている。コンクリートの壁に寄せられたそれは、とげとげとしていて少し怖い。ずっと前からここにあるけど、私はここを通る度に見ないフリをしていた。
「おじょうちゃん、それアザミだよ」
「アザミ?」
振り返ると、知らないおばあさんがいた。花と同じ濃い紫色の服を着ていて、腰がすごく曲がっている。ぎょろっとした目で、私の顔を見つめている。
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