交差点を曲がると、アザミ

@sunf

第1話 アナウンス

「みんなはプラタナスの木、見たことある?」



 今日も佐伯先生は楽しそうに国語の授業を進める。漢字ばかりの文章を読むことの、何がそんなに楽しいのだろう。



「先生ね、植物大好きなんだ。色んな形、大きさ、色、意味がある。プラタナスの花言葉、知ってる?」



 先生の質問に答えるのはたかし君だけ。彼は分かっていても分からなくても、とりあえず声を出せばいいと思っている。どの授業にも大きな声で「知らない」「分からない」と馬鹿みたいな返事をする。



「じゃあ次は音読、横井さんから一行ずつ」



 私は急に名前を呼ばれて、「はい」っと早口で返事をした。それから題名を読もうとしたとき、急に変な音が聞こえた。ギッという機械音。先生が右手を挙げて、音読中止の合図をした。



「えー授業中に失礼します。先生方は至急職員室にお集まりください」



 副校長の声が、同じ内容を再び繰り返す。教室内は一気、楽しそうな声や不安そうな声で溢れる。突然のアナウンス。授業を退屈に思っていた人なら誰しもが待ちわびたものだろう。もちろん、私も。



「なんか先生呼ばれちゃったみたい。皆は教科書読んでてね」



 佐伯先生は荷物を置いたまま教室を出ていき、数分後に小走りで帰ってきた。



「みんな。今日はもう下校です」



 再び教室が賑やかになった。私は勢いよく教科書を閉じてお道具箱に入れた。

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