「王」と呼ばれる冒険者
「両者整列!」
フロワさんの号令の下、俺とハイスは会場中央で向かい合う。
「では互いに、礼を」
「ありがとうございました」
「ああ、こちらこそ。ありがとうございました」
フロワさんの掛け声でハイスが敬礼をし、俺もそれに遅れて頭を下げた。
その時だった。
「おい!あれ見てみろ!」
観客席の方から、そんな声が上がった。
それを引き金に、会場全体からどよめいた声が聞こえ始める。
「一体なんだ?」
俺が頭を上げると、目の前に立つハイスが俺の後ろを見て驚きの表情を浮かべていた。
一体、俺の後ろで何が起きているのか。
そう思い振り返ると、そこで見たのは気化するように消えていく、具現化させた油圧ショベルたちの姿だった。
油圧ショベルはアームの一部とキャタピラしか残っておらず、アームのみで具現化させたものに関しては、根本以外は消えてしまっている。
「成る程、そう言うことか」
ミノタウロスから身を隠したあの時、何故具現化させた油圧ショベルが跡形もなく無くなっていたのか。
少しだけ疑問に思っていたが、俺はそれを見て納得した。
どういうタイミングで消えるのかは分からないが、おそらくは触れていないと消えてしまうとかそういう感じなのだろう。
だとすれば、ここに来るときに乗ってきたWキャブも今頃は跡形もなく来ていることだろう。
「消えてくれるならいいな。放置してもゴミにならんでよかからな」
やがて、俺が具現化させたものは跡形もなく消え去った。
「消えてしまいましたが、あれはよろしかったのですか?」
「ん?ああ、よかですよ。むしろ消えた方が邪魔にならんでいいでしょう?」
「はあ。海人さんがよろしければよいのですが」
少し腑に落ちないようではあるが、それでも納得はしたようで、フロワさんがここに来るときに通った道の方へと歩き始める。
その後をつくように、ハイスも同様に歩き始めた。
「では、戻りましょうか。恐らくは貴方の冒険者登録の手続きが完了しているはずです。受付の方で説明を受けてください」
「そうですか」
こうして、俺たちは会場を後にした。
集会所に戻り、アクネルとレナンと合流した俺は、当初の目的である冒険者登録をするため、受付に顔を出していた。
「お待たせしました。
そう言うと、目の前でミラー越しに座る茶髪の若い受付嬢が、いそいそとカウンターの上にいろいろ置いていく。
「まずはこちら、冒険者としての身分証である『
「階級?」
「はい。その階級ですが、ことらをご覧ください」
受付嬢のその指示に従い、俺はカウンターに広げられた一枚の紙を覗き込む。
その紙には見出しとして『冒険者の制度』と書かれており、下には文字がびっしりと埋まっていた。
「まず初めに、いかなる冒険者もランクは『
「ほう」
「はい。『
「成程な」
つまりはノルマを達成できれば昇格できるというわけか。
だが、そうなると色々気になるところが出てくる。
「少し聞きたいんだけど、そのポイントって複数人でクエストを受けた場合はどうなると?」
「その場合は、全員が平等にクエストに設定されたポイントが加算されます。しかし、たとえそれでランクを上げたとしても、『
「成程なぁ。意外と対策されてるわけだ」
「そうですね。冒険者というものは、そもそもは軍の代わりに魔王軍と戦う戦力として、民間から募って立ち上げられた組織です。人類の砦である王都を護衛する軍の代わりに、最前線で魔王軍の情報取集や戦力との交戦が主な仕事になりますので、厳しいぐらいが丁度いいのです。それにポイントが高いということは、それなりの危険性が孕んでいるという事。死ぬ可能性が少しでもあると感じれば、自然と身の丈に合ったポイントのクエストを選んでいきますよ」
「確かにな。じゃあ、もう一つ、そのクエストが完了したとかはどう判断すると?」
「それは自己申告ですね」
「自己申告?」
「はい。つまりは、冒険者の報告次第というわけです」
「ん?それだと嘘つく奴なんかも出るんじゃなかとや?」
「そうですね。過去にはあったみたいです」
やっぱりか。
「ですが、それを防止するためにペナルティが設けられました。それは冒険者としての資格剥奪。状況によっては極刑です」
「極刑?!」
受付嬢のその言葉に、俺は思わず驚きの声をあげてしまった。
まさかそこまで罰が重いとは思わなかった。
せいぜい罰金とかその程度かと。
「え、極刑ってどういう時になると?」
「そうですね。滅多には起こりませんが、そうなる場合ですと、その虚偽の報告が原因で国や町が滅ぶとかじゃないですか?例えば討伐対象を倒すことなくクエストを完了にした結果、その討伐対象によって町一つが滅んだりすれば、極刑になるでしょうね」
「そうか。じゃあもし逃げたら?」
「その時は懸賞金がかけられます。なんですか?虚偽の報告でもするつもりですか?」
「いや、そういうわけじゃなかけど!仮にも推薦された身だしな!」
「ですよね!まあ、もし貴方が虚偽の報告をし、そのせいで極刑を言い渡されて逃げたとしても、後ろのお二人からは逃げられないと思いますがね。いくら貴方が別世界から来た人と言えど」
受付嬢はそう言って後ろの二人、アクネルとレナンに視線を向けて小さく笑う。
俺はそんな受付嬢に愛想笑いを返すと、ふと後ろを見る。
そう言えば、二人は一体何者なのだろうか。
何故ここまで慕われているのか。
それに呼び名についても気になる。
「どうした?」
「なんでも」
俺は不思議がるアクネルにそう短く答えるや、受付嬢の方に向き直る。
「なあ、受付嬢さん」
「ああ、申し遅れました。私の名はマルラです」
「じゃあ、マルラさん」
「はい何でしょう?」
「その、さっきからあの二人を『槍王』や『魔法王』って呼ぶのは何なんですかね?」
「ああ、ご存じなかったのですね」
「まあ」
「では、こちらを」
そう言うと、マルラさんが先ほどの紙を指さす。
「先ほど階級について説明しましたが、『王』とはその最高階級である『
「え、マジで?」
「マジです」
俺はゆっくりと後方へ振り向く。
そこでは、首から下げた金属光沢のある赤い認識票を見せつけるようにどや顔をかますレナンと、少し照れくさそうにそっぽを向くアクネルの姿があった。
「すげぇな……」
「でしょ!」
「ああ、ほんと」
さらに自慢げにするレナンに、俺は絞り出した言葉を掛けると再びマルラさんに向き直る。
「そのロッソ?ってのにはどうすればなれるんだ?」
「そうですね。実は『
「はぁ~そうですか……なんかもう、次元が違いますね」
「そうですね。ですが、貴方にもその可能性は十分にあると思いますよ?」
「無いよ~」
突然後ろに立っていたレナンが、俺たちの会話に割り込んできた。
「何でや、まだ分からんやん?」
「え~?だって『
レナンが生意気な顔で見上げてくる。
そういえばミラさんの店でそんなことを言ってたな。
すっかり忘れてた。
いや、忘れてたわけじゃないが、条件を見落としていた。
「じゃあ、幹部と戦う時は俺一人でやればよかっちゃない?」
「あー、どうだろ?」
「難しいだろうな。その場合だと、私たちがその場にいないことが条件になるだろう。だが、幹部と言えど必ずサシとは限らない。一人で軍勢を相手に出来るかも重要になってくる。私たちの時は幹部一人だったから何とかなったが、それでもかなり苦戦したぞ」
「成る程。まあ、階級は地道に上げてった方がよさそうだな」
アクネルの話を聞き、取り合えずは現実的ではないことが分かった。
それに、自分の能力についても完全に分かっているわけじゃない。
そんな先の話よりも、まずはそこからだ。
「話も落ち着いたようですので、次は報酬について説明していきますね」
「あぁ、まだあるんですね……」
こうして、マルラさんの冒険者説明会は30分に及んだのだった。
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