第171話「100%の悪人はいない」


放課後、部室へ入ると。



「・・・」


「なによ」



睨みつけられて、そう言われました。


部室には、彼女・・・三永瀬蒼だけが存在していた。



「いや、なんでも」


「わたし、もう来ない方がいいの?」



来ない方がいい・・・というのは、部室に来ない方がいい。という意味合いの問いかけだろうか。



「いや、そんなことは」



そんなことはないが、正直、彼女との関わり方がよく分からない。


その一点に尽きる。



「私が怖い?」


「ま、まぁ」


「じゃ、やっぱ消えた方が良いわけ?」


「そんなことは言ってないけど」


「・・・はぁ、なんかごめん」



急に謝られた。


頭に上っていた血が、急にクールダウンするかのような口調の変化。



「えっと・・・」


「村上先輩は、前の私の方が良かったでしょ? 前までの、三永瀬蒼のほうが」



大人しく、そして優しい。それが、前までの三永瀬蒼。


もちろん、その方が俺的には良かった。


関わりやすかった。


でも、それが作られた性格だと知ったら、逆にそっちの方が怖いし嫌だ。



「そんなことはない。俺に合わせる必要なんてないし」


「誰も合わせるなんて言ってないわよ」


「スミマセン」


「はぁ。なんか調子狂うわね」



そんなこと言われてもなぁ・・・。



「でもなんか、村上先輩がいつも以上に死んだ顔してるから、なんだか心配」



と、蒼がそんなことを呟く。


彼女がヤンキーと分かって、真の性格もあらわになって。


ロクでもないような人間だと思っていた。


でも、こういう一面を見ると、彼女も彼女で人間なんだなぁって感じる。



「そんな顔してたか?」


「そうね。もしかして、私のせい?」



あながち間違ってはいないのかもしれない。


でも、ちょっと違う。



「あのさ、平林綾香って知ってる?」



今ならいけるような気がした。


どこからか分からない自信があった。


だから、思い切って蒼に相談してみることにした。


平林綾香のことを・・・。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る