先生と過ごした3年間

有栖川 天子

ChapterⅠ

第1話「誰もいなかった部員」


高校に入学した。ごくありふれた、一般的な公立高校。


入学式を終え、最初の1週間が終わる。


クラスでは、友達を作ってグループが形成されていた。


引っ込み思案な俺には、初めましての他人に話しかける勇気などなかった。


話しかけてくれれば問題はない。会話そのものが苦手というわけではないから。


しかし、誰からも話しかけられることはなかった。


完全にぼっち状態である。



「この学校では、みんな何かしらの部活動に入部してもらいます。今日から一週間が体験入部の期間ですので、いま配った紙を参考に、裁量の部活を決めてください」



担任の先生が、配られたプリント用紙に目を落とす生徒に説明する。


プリントには、この学校の部活動一覧が印刷されていた。


放課後になり、各々が目星の部活へ向かう。


部活動は正直やりたくない。なんというか、面倒くさい。


それに、大人数での人間関係は苦手だ。


自分の中でフィルターをかける。運動部はまず間違いなく無理だ。


運動神経がいいわけでもなければ、厳格な人間関係を強いられることになる。


文化部はどうだろうか。吹奏楽や演劇は運動部と似たような理由で却下だ。


なるべく個人で没頭するような部活動がいい。


文芸部・・・。本を読むのは好きだが、書くのは苦手だ。


書道部・・・。字を書くのは苦手だ。


そうやって厳選してるうちに、ひとつの部活動に目が留まった。



「天文部・・・か」



個人で没頭するような部活動ではない・・・そんなイメージがあるが、2行程度の説明欄に「部員が少ない」という記載があった。


ならば・・・と思い、活動場所へ足を運んでみる。



「し、失礼します」



おどおどとした声を出し、ドアを開ける。


そこは、小さな空き部屋のようなところだった。


教室と言うには明らかに狭い。


畳みで言うところの、6畳ほどの大きさ。



「ん? 何の用だい?」



そう言うのは、落ち着きのある声の持ち主。


紺色のレディーススーツを着て、肩先まで伸びている黒い髪。すらっと流麗な高身長。クールな第一印象。


見るからに、生徒ではない。そこにいるのは、女性教師だ。



「えっと、部活の・・・」


「入部するのか?」


「いや、まだ決めてないんですけど」


「まぁゆっくりしていくといい」


「あ、はい」


「名前は?」


「村上友彦(むらかみともひこ)です」


「私は岩船佳奈美(いわふねかなみ)だ」


「顧問の先生・・・ですよね」


「そうだ。なにか質問はあるか?」


「じゃ、じゃあ、科目は・・・」


「理科」


「そ、そうですか・・・」



そして、会話が途絶える。


気まずい雰囲気だ。


これは、俺が何かしらの質問をしなければ・・・。



「え、えっと・・・他の部員とか、いないんですか?」



辺りを見回すと、岩船先生以外は誰もいない。


いくら少数とはいえ、部活動なのだから数人程度はいると思うのだが・・・。



「いないぞ」


「い、いない?」


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