第2話 隣の席、関西弁。

「席は白鷹くん、あの男子生徒の隣になります」

「わかりましたぁ!」

たった一言で強烈な印象を残した謙介(けんすけ)は、裕斗(ゆうと)の隣の席に向かって歩き出した。

「よろしく!よろしくな!」

席に到着するまでに、謙介は丁寧にも、近くにいた生徒に挨拶をしていった。


「白鷹くん?よろしくな!」

聞き慣れないイントネーションで元気よく挨拶された裕斗は、まだ驚いたままだった。

「ん、んん。よろ、しく…」

裕斗は、いつものそっけない態度はとらなかった。しかし、外国人と話しているかのような緊張した口調になってしまった。

(人見知りなんかな?)

だから、謙介の裕斗に対する第一印象はこれだった。


*********************************************


休み時間。

「謙介くん、どこ出身なの?!」

「大阪から来てん!」

「そりゃこの関西弁だもんなぁ!」

謙介の席の周りには多くの人が集まった。

謙介の性格は明るく、笑顔も多い。それに、関西弁ながらも親しみやすい口調で、すぐにクラスに馴染んでいた。

左隣の裕斗は、特に迷惑がるわけでもなく、暇そうにスマホを触っていた。


「・・・」

スマホに飽きた裕斗は、いろいろな話題で盛り上がっている右隣を見てみた。

「てかこの列の席って女子の列じゃん!」

「え?!俺 女子やけど?!」

「「あはははは!」」

謙介が冗談を言って周りが爆笑している。

『関西出身=おもしろい』は偏見だが、謙介はそれに当てはまるようだ。

「何わろてんねん!こんなかわいい男おるか?!」

謙介は冗談を続ける。

(・・・?)

人の隙間から見えた、まだ見慣れない謙介の笑顔。

しかし裕斗はなんとなく、その笑い方に違和感を覚えた。

(関西の人だからか…?)

などと的外れなことを考えていたら、

「なぁ白鷹くん!俺かわいいよな?!」

「え」

人だかりで裕斗の姿などほとんど見えない中で、謙介は急に裕斗へ話を振った。

しかも、よくわからない質問をしてきた。

(話の流れは分かるけど・・・)

裕斗は返答に迷っている。

それは今日来たばかりの、まだよく知りもしない人間に対して気を遣っているからではない。

普段の裕斗であれば、どんな相手にでも『かわいいね、超かわいい』などと、自分が求められている"ノリ"に合わせて適当な返事を秒速でしている。

しかし、なぜか今はそれができない。

「か、かっこいい…かな。背が高くて」

今は、自分が思ったことを率直に伝えることしかできない。

「…!ありがとお!」

それに対して謙介は、今度は冗談ではなく、心からの笑顔で返事をした。

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