第2話 隣の席、関西弁。
「席は白鷹くん、あの男子生徒の隣になります」
「わかりましたぁ!」
たった一言で強烈な印象を残した謙介(けんすけ)は、裕斗(ゆうと)の隣の席に向かって歩き出した。
「よろしく!よろしくな!」
席に到着するまでに、謙介は丁寧にも、近くにいた生徒に挨拶をしていった。
「白鷹くん?よろしくな!」
聞き慣れないイントネーションで元気よく挨拶された裕斗は、まだ驚いたままだった。
「ん、んん。よろ、しく…」
裕斗は、いつものそっけない態度はとらなかった。しかし、外国人と話しているかのような緊張した口調になってしまった。
(人見知りなんかな?)
だから、謙介の裕斗に対する第一印象はこれだった。
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休み時間。
「謙介くん、どこ出身なの?!」
「大阪から来てん!」
「そりゃこの関西弁だもんなぁ!」
謙介の席の周りには多くの人が集まった。
謙介の性格は明るく、笑顔も多い。それに、関西弁ながらも親しみやすい口調で、すぐにクラスに馴染んでいた。
左隣の裕斗は、特に迷惑がるわけでもなく、暇そうにスマホを触っていた。
「・・・」
スマホに飽きた裕斗は、いろいろな話題で盛り上がっている右隣を見てみた。
「てかこの列の席って女子の列じゃん!」
「え?!俺 女子やけど?!」
「「あはははは!」」
謙介が冗談を言って周りが爆笑している。
『関西出身=おもしろい』は偏見だが、謙介はそれに当てはまるようだ。
「何わろてんねん!こんなかわいい男おるか?!」
謙介は冗談を続ける。
(・・・?)
人の隙間から見えた、まだ見慣れない謙介の笑顔。
しかし裕斗はなんとなく、その笑い方に違和感を覚えた。
(関西の人だからか…?)
などと的外れなことを考えていたら、
「なぁ白鷹くん!俺かわいいよな?!」
「え」
人だかりで裕斗の姿などほとんど見えない中で、謙介は急に裕斗へ話を振った。
しかも、よくわからない質問をしてきた。
(話の流れは分かるけど・・・)
裕斗は返答に迷っている。
それは今日来たばかりの、まだよく知りもしない人間に対して気を遣っているからではない。
普段の裕斗であれば、どんな相手にでも『かわいいね、超かわいい』などと、自分が求められている"ノリ"に合わせて適当な返事を秒速でしている。
しかし、なぜか今はそれができない。
「か、かっこいい…かな。背が高くて」
今は、自分が思ったことを率直に伝えることしかできない。
「…!ありがとお!」
それに対して謙介は、今度は冗談ではなく、心からの笑顔で返事をした。
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