関西弁の男の子
鳳雛
第1話 新学期、転校生。
桜の季節。
戸沢(とざわ)高校は新学期を迎えた。
玄関前の廊下の掲示板にはクラス分けの名簿が貼り出されている。
多くの生徒がそれを見ては友人と会話を弾ませている。
そんな中、高校2年になった白鷹 裕斗(ゆうと)は、掲示板を一瞥したら誰とも話すことなく自分の教室に向かって歩いていった。
裕斗の教室は2-2。
教室にはすでに半数以上の生徒が入室していた。
そしてやはり、友人たちとの会話で各々盛り上がっていた。
裕斗は正面黒板に掲示された座席表を、また事務作業のように、ちらっと見てはすぐ自分の席に着いた。
裕斗の席は教室のちょうど真ん中あたり。縦横6列ほどある席の中心だ。
その席で、裕斗は誰とも話さずに荷物の整理をしだした。
「お!白鷹じゃん!」
「お前も同じクラスか、とりま1年よろしくな!」
裕斗は友人がいないわけではない。
このように話しかけてくる生徒もいる。
「うん、よろしく」
しかし、裕斗はいつも彼らにそっけない態度をとる。
「今日も塩対応だなぁ笑」
意外にも、周囲は裕斗のこの対応をキャラクターとして受け入れている。
キーンコーンカーンコーン
「はい席ついてー」
始業のチャイムが鳴り、担任の教員が教室に入って指揮をとる。
生徒たちはおとなしく新しい自分の席に戻る。
(ん?)
裕斗は自分の右隣に着席する生徒が来ないことに気づく。
クラス分けの名簿でも座席表でも、裕斗は自分の名前にしか注目していなかったので、隣が誰なのかまったくわからない。
自分の担任になる教員にすら目を向けなかった裕斗が初めて教壇を見たとき、2人の人間が立っていることに気づいた。
周りはすでに、教員ではない方の、制服を着た男に注目していた。
教員が話し始める。
「今年からこのクラスで1年間過ごしていくわけですが、もう一人、仲間が加わることになりました。彼が今日からこの学校に入学する鶴岡くんです」
裕斗は、まるで宝物を見つけたような眼差しで彼を見つめる。
教員から紹介された隣の男が口を開く。
「はじめまして!鶴岡 謙介(けんすけ)いいます!」
裕斗を含めたクラスの全員が、目の次に耳を奪われた。
「か、関西弁…?」
裕斗がつぶやく。
謙介と名乗ったその男は、関西弁交じりの敬語であいさつをしたのだ。
普段の裕斗なら、隣の席に誰もいなくても、どんな人間が来ても、見向きもしなかっただろう。
裕斗の変化は、この時からもう始まっていた。
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