7皿目 トビッコ

いや~、まいったまいった。

まさか部長がこの夏、ネス湖に旅に出てしまうとは……


うちのサークル、ここんとこずうっと部長んちの別荘を借りて夏合宿してたからさあ、ほんと急な予定変更だよ~


あ~、部長んちの別荘、最高だったんだけどな~!

海が近くってさ、周りも民宿だからそこそこ騒げたし、飲みながら花火もできたし。地元の夏祭りも……


残念~、残念、残念んんんっ!!!


っつうわけでさ、せっかく入ってくれたヒロ君には悪いんだけど、今年のうちのサークルの夏合宿は中止ね。はぁ……


いや、ほんっと悪いと思ってるよ!

せっかくヒロ君の同級生の女の子もうちのサークルに入ってくれたのにさあ~。……あの部長め。女の子を泣かす気か! あの女ったらしがあッ!


どうせだったら全員ネス湖に連れてってくれればいいのに! あいつだけネス湖かよ! スイスかよ!! ヨーロッパかよ!!!

なんか腹立ってきたな。えいっ!


ん? レモンハイ頼んだ。え、ヒロ君も飲みたかった?

だよね~、飲まなきゃやってらんないよねぇ~

これで五杯目。

飲み過ぎ?


いやいや、いやいやいやいや、こっからっしょ!

あ~もう部長のやつ~!


ぉあ? あれは……、ポニテっが来た!

待ってました、こっちだよ~


おお、なんかヒロ君と並んで座ると、ザ・大学生! って感じがするね。

ヒューヒューお二人さん! リア充ってるかい!!


いやいや全然酔ってないデスよ~、これでレモンハイはまだ五杯目デスよ~


ん? なんだいヒロ君。

これ? 食べていいの? トビッコの軍艦?

ほんじゃ遠慮なくいただきま~す。


……あたしさ、トビッコを食べるとき、つぶつぶを一つずつ前歯で潰さずにはいられないのよ。なんかこの感触が癖になるんだよね。



……結城君、ずっとひとりで副部長さんの相手をしてくれてたの?

お疲れさま。


そうなの、昨日の夜中に副部長さんからLINEが来てね、ずっと話に付き合っていたんだけどなかなか終わらなくて。


だいぶ悔しかったみたいなの、夏合宿がダメになって。


うん、それでね相談なんだけど。

もし良かったら私たちで夏合宿の計画を改めて立ててみない?って思って。


これまでみたいに一週間とかは無理かもしれないけれど、一泊二日ぐらいならみんなで海に遊びに行けるんじゃないかな、って。


もちろん副部長さんにも聞いてみるけど……

今、トビッコを前歯で潰すのに一生懸命みたいだから、まず結城君と相談してからでいいんじゃないかな。


結城君、どう思う?

賛成してくれるの? わあ、嬉しい!


じゃあじゃあ、さっそくだけど、ここからなら千葉とか神奈川の海に行けるよね。

車の免許、持ってる人がいたらいいんだけど、結城君、持ってる?


そうだよね、私も夏休み中に教習所通おうかなって思ってたから、まだ持ってないの。


じゃあ電車とか、バスとかかな。


え、結城君の実家、神奈川なの?

ううん、お世話になろうとかってそんな図々しいことじゃなくて、じゃあ穴場の海水浴場とか知ってる?


わあ、教えて、教えて!

うんうん、そこ、いいかもね!


……実はね、私、夏合宿あるって聞いて新しく水着買ったんだけど。

ちょっと、あの、……ビキニタイプの水着、でね。あんまり人が多いと恥ずかしいかな、って思ってたから。


……でもせっかく買ったから、着ないのももったいないかな、って。


え、家庭教師の生徒さんも? ああ、前に話していた元気のいい高校生の子?

うん、いいよ、もちろん! こういうのって人数いた方が楽しいよね!

……副部長さんの世話も持ち回りでできるし。


ああ!

副部長さん、もうレモンハイ頼まないで! お水、はいこれ、お水!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る