5皿目 トロ
あなたが結城先生?
ふふ、今の若い人たちって本当にみんな、かっこいいのね。
結城クン、って呼んだ方がいいのかしら。やっぱり結城先生かしら。
大学の方は大丈夫だったのかしら?
わざわざこちらまで来てもらってごめんなさいね。仕事が忙しくて、なかなか抜けられないのよ。
お昼ごはんを一緒に食べながらお話ししましょう? もちろん、私がおごるわ。
ここの回転寿司、回転ずしの割に良いネタを置いているのよ。ほとんど注文よね。運ぶ手間を回転の機械で省いているだけ。
ここの大将はね、前に銀座で握っていたそうよ。
年を取って引退を考えていたら、常連さんだったどこかの社長さんがじゃあ、うちの近くに店を出してくれ、機械があればあんたも楽だろうって。
この辺り、現役の時に銀座に馴染みがあった人が多くて、回転寿司にしては値段が高いけれど、……ね、お客さん、けっこう入っているでしょ?
なんでも好きなものを頼んで頂戴。
それとも大将におまかせにしようかしら? それでもいい?
じゃあ、そうしましょう。
大将、こちらにおまかせを二人分、お願いね。
それで家庭教師のことなのだけど。
あら、もちろん私じゃないわよ。教えてほしいのは私の子。
あら、まあ、うふふ、お世辞を言ってくれたのかしら? ありがとう。
子どもは中三だけど、私、まだ三十三歳なの。
まだ、って言ったけれど、結城君ぐらいの年齢なら、おばさん、かしらね。
でもお手入れには気を抜いていないわ。
ね、どうかしら? 自慢なのよ、この胸の谷間。ふふ、触ってみる?
……あら、下着が透けてるかしら。午前中忙しくて汗かいたから。
仕事するときはこの上からもう一枚着るからどうしても薄着になるのよね。
せっかく若い人と会うから、ゴージャスな赤いレースのブラを付けてきたのよ。
見せるつもりじゃないのよ? 気持ちの問題。気合いよ、気合い。
……見たい? ふふ、良いわよ。ほら、ここの襟に指をかけて、少し引けばいいのよ? ね?
ふふふ、冗談よ。
家庭教師のお願いをするために来てもらったのだから、そっちの話を先にしましょう。……続きは後でね?
私の子ども、一人っ子なのよ。
高校の時に付き合っていた彼氏との間で妊娠した子でね。
そうなの、私、シンママ。
高校三年生で妊娠しちゃったの。
大学受験を考えていたから、もう家族中、彼氏の家族も巻き込んで大騒ぎよ。
結局、彼氏は自分の子だって認めてくれなかった。
相手の家族とも話し合いができなくて、自分の親とも気まずくなって。
うちを出ていけ、って言われなかったのは良かったのかもしれないけれど、やっぱりずっとぎこちなくて。
近所の目とかもあるでしょう?
引っ越しとかも、親の仕事の関係上できなくて。
大変だったのよ、あの頃は。
その時に助けてもらったのが、今日、結城君を紹介してくれたあの人なのよ。
そうそう、あの元気な高校生の女の子!
あの子の母親が産婦人科の病院の看護師をしていてね、若すぎる母親だった私を支えてくれたの。
彼女自身シンママでね、当時はまだ幼い自分の娘を抱えて離婚したばかりで大変だったのだけど。
お互いに、支え合っていたところがあったのかもしれないわね。
その時の縁がずっと続いていて、それで結城君を紹介してもらったのよ。彼女、今は私のクリニックで働いているわ。
私? 医者をしているわ。親がそのクリニックの院長で経営者なの。跡継ぎなのよ、私。
そう、そうなのよね。
親が怒るのも無理ないな、って今なら思えるわ。
医学部受験志望の高校三年生が、とんでもないわよね。
でも。
うん、後悔はしていないわ。
本来の予定から二年遅れて医学部に入学して、親に助けてもらいながら頑張って子どもを育ててきたのだけれど。
だけどやっぱり目が届かないところがあったのね。
去年の四月から学校に行きたくないって。
頭は良い子なのよ。
なんというか、少し変わっているというか、気難しいところがあるというか。
親の私が言うことではないわね。
そんな子なんだけれど、そんな子を受け入れてくれそうな高校があるのよ。
本人も、そこなら行ってもいい、って言ってて。
学費が年間百五十万だったかしら。ううん、お金の問題じゃないのよ。
あの子が行きたいと思ってくれたのなら、どこにだって行かせたいわ。
ただどれだけ勉強すればいいのか、分からないところがあるのよね。
偏差値が63というのは私にとっては普通だけれど、今の子たちの高校受験だとどうなのかしら?
そんなところも年が近い結城先生に教えてもらいながら、勉強を手伝って欲しいのよね。もちろん、お礼は十分に支払うわ。
結城先生は塾とかに登録している家庭教師ではないのでしょう?
雇用契約は私と先生の間で結びましょ?
ふふふ、指切りでもいいわよ。
お寿司が来たわね。どれもおいしそうだわ。
このトロなんか赤味が鮮やかで艶があって、きっと舌に乗せたら蕩けるような食感でしょうね。
まずはこのお寿司をいただいて、返事はそれから聞かせてね。
結城先生は、将来、何になりたいとか、決まっているの?
そうよね、大学に入ったばかりってそんなの分からないわよね。
でも私、結城君、先生になるの向いてるって思うわ。勝手な言い分だけど。
家庭教師、引き受けてくれるの? ありがとう!
ふふ、ねえ、結城クン。
家庭教師の御礼に、お給料とは別に健康診断をしてあげるわよ。
私は泌尿器科も診れるのよ。ね、ちょっと耳を貸して。
……あなたのあそこはちゃんと剥けているのかしら?
それとも初めてがまだだったら、私が教えてあげましょうか?
ほら、私は医者なんだから、恥ずかしがらずにちゃんと教えなさい?
ね? 結城クン……
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