4皿目 イクラ

ち~す、ヒロ先生、一週間ぶりだね!


あ、これうちのおかーさんから、晩ご飯代、預かってきた。

おかーさん、急に夜勤が入ってさ。今日カテキョの日だよって言ったら、じゃあ勉強の後でも前でもいいから先生と外で食べてきなさい、って。


先生、信頼されちゃってるね!


え? それでなんで勉強の前に食事にするのかって?

腹が減ったらイクラじゃ足りない、っていうじゃん。

……ん? イクラじゃなかったけ。イク毛? 


なんでも良くない? あんま意味、変わんないっしょ。

あ、で、ね、ね、センセイ、お寿司、お寿司食べに行こ―よ!

駅前の回転寿司! ガッコの行きかえりに毎日通りがかるんだけど、一度も入ったことないんだ。


うふふ、イクラ食べたーい!

え、やった! いえ~い、今日の晩ご飯はお寿司だ!


こっからだと歩いて10分ぐらいかな。

話しながら歩けばすぐだよね。


でさ、ヒロ先生って、家庭教師専門の塾みたいなトコから来ている、ってわけじゃないでしょ。個人で家庭教師、引き受けてるんだよね?


……今どき銀行の入り口に「家庭教師の生徒募集」の貼り紙する人、あんまいないよね。うちのおかーさん懐かしくて、それでヒロ先生にうちの家庭教師を頼んだんだって。


つか、相場より安いよね、ヒロ先生のカテキョ代。

……え、相場知らないの? え~とね、ふつう、3倍ぐらいする。

だから先生、めっちゃお買い得だったんだよ!


そんなお買い得なのに、募集してもしばらく生徒、来なかったん?

じゃあれだ、安すぎて警戒されたんだ。もしかしてロリコン? とか思われたんじゃん?

良かったじゃん、うちが生徒になって!

……実名出して募集していた? 知らないよ、今ごろうちにそんなこと言われても。


うん、てかさ、センセイにカテキョして貰いたい子がいるんだけど。先生、どう? できる?


その子ちょっと訳ありでね~。


小学校の頃、家が近かったから面倒見ていた子なんだけど、最近、学校に行けてないんだって。


もともと頭は悪くないっていうか、ぜんぜんうちより頭良いし?

高校受験からやり直したいって言ってるらしいんだけど。

あ、そうそう、中学生。中学3年生なんだ、その子。


やっぱ不登校の子の家庭教師って普通のところじゃ引き受けてくれなかったり、お金高かったりするじゃん。


うん、そう、そういう子専門にしているところもあって、一回試してみたんだって。

したら、ぜんぜん勉強のレベルが物足りないって、逆にごねちゃって、その子。


めっちゃ頭良いんだよね~。

うちが教えてもらいたいぐらい。


いやいや、先生の教え方、いいよ、いいよ。気に入ってるし。

先生、うちのレベルにめっちゃ合わせてくれてるでしょ。分かってるんだよ~、ふふふ

……分かってるんだけど、じゃあ内容が理解できるかっていると、それはまた別の話なんだよね。


いえ、分かってマス、分かってるから! ……あ~、うん、お寿司食べたらまたうちにもどって勉強ね。はいは~い。


てかさ、何気に大学生の男の先生に教えてもらってる、って友達に自慢できるんだよね。えへへ


ヒロ先生は、ま、うちのタイプじゃないけどそこそこイケメンじゃん?

うちのカテキョ、イケメンだし、って自慢したら、みんな写真見たい! って言ってきてさ。


先生、写真撮らせてよ。

え、ダメ?

ん~、じゃあなんか画像ちょうだい。なんでもいいから。


……ナニコレ。……ヒバゴン? え? なにそれ? UMA?

ちょっとごめん、何いってるのか分かんないや。でもま、いっかこれで。


あ~、似てるっちゃ、似てるかな?

え? 先生に。


ブハハハハ! 冗談、冗談だよ!

ヒロ先生はイケメンだよ!


あ、着いた、着いたよ!

じゃあまずはイクラから食べますか!

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