3皿目 甘えび
ごめんなさい、結城君。急にお願いをして。
私、まだクラスであまり知り合いがいないの。結城君は私と学生番号が近いから、なんとなく名前を憶えていて、それで……。
あ、ありがとう! じゃあこのノート、コピーさせてもらうね。
うん、わかった。明日の1限目に返すね。
それまでお借りします。
ああ良かった、急にレポート課題を出されるなんて思ってなかったから。
え、あ、うん、ここの回転寿司じゃなくて大学の前のカフェでも良かったんだけど……
私、実はそのカフェでバイトしてるんだ。
そうそう、あそこバイトは髪の毛をポニーテールにする決まりなの。
今日これからバイトだから、ほら、ポニテ。
大学から近くていいかな、って思ったんだけど、実際うちの大学の人達がけっこう来るって気づいて。
ちょっと気まずい時もあるから、このまま続けようかどうしようか、って思ってるの。
結城君は何かバイトしている?
へえ家庭教師なんだ。なんか意外。
ん? ううん、そういう意味じゃなくって。
バイトとかしないで勉強を頑張るタイプなのかなあ、って思ってたから。
サークルも入ってるの? そっちの方が意外かも!
……未確認生物探索愛好会? なにするの、そのサークル?
休みごとに出かけて各地の未確認生物を探して歩く……
そのままなんだね。
あ、あ、ヒバゴン!
知ってる、知ってる! 私の地元だよ!
そう、私、広島の出身なんだ。ヒバゴン!
地元の人しか知らないと思ってた! ヒバゴン!
かわいい?
うんうん、あのイラストだとかわいいんだけど、なんだろ、めっちゃ怖い系の模型とかあって。
ゴリラとか、えっと東北のナマハゲ? みたいなのとか。
お饅頭とかも売ってって、地元ではけっこう推してるんだけどね。
や~、なんか懐かしいなあ。
ん、まあ、まだ東京に来てから2ヶ月しかたってないんだけど。
広島はちょっと、……遠いよね。
こんなに家族と離れているの初めてだから、うん、たまに寂しい、かな。
え? このお皿? 私の? 甘えびだけど、どうしたの?
……一皿580円? うそ、私、同じ色のお皿、3枚食べてる!
あ~、今日のバイト代がとんだ~……
っていうか、やっぱり無理ね。
あのね、実は今、コンタクトがなくて、目がよく見えないの。
引っ越しが忙しくて、使い捨てのコンタクトのストックがなくなっちゃって。
……でもこっちでどこに売っているのか、わからなくて。
そうなの、黒板の字が見えなくて、ノートを取ることができなかったの。
先生の話は一生懸命聞いていたからメモはとってあるんだけど。
眼鏡? うん、あるけど。でも……
や、あの、うーん。まあ、今も持ってきてはいるんだけど。
あのね、笑わないでね? 結城君にしか見せないから。
ん。これ。
もうほんとこの眼鏡、ダサいよね。
大学の受験勉強の時ずっと使ってたんだけど、フレーム太いし、レンズは大きいし……
掛けてみるの? いいけど、笑わないでよ、もう。
え? な、な、なに? 急に何言うの?
ケホッ! あ、なんか
熱ッ
お茶、熱い!
……舌、ヤケドしちゃった。
もう、結城君が急に変なこというから!
あ、と。……そろそろバイトに行かなくちゃ。
え、会計やっておいてくれるの? ありがとう、じゃあこれ私の分のお寿司代。
ノートも、ありがと。必ず明日、返します。
……それから、ひさしぶりに地元の、広島の話ができて、嬉しかった。
えっとね、結城君、よかったら今度、バイトが休みの日に一緒にどこか、遊びに行かない?
っていうか、コンタクト売っているお店、一緒に探してくれたら嬉しいんだけど、どうかな?
うん、じゃあ、また明日ね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます