君と僕との物語④

『それと、これ、お持ちになりますか?』

 それは、処置のために外されたミィの首輪だった。

 その首輪には白い鈴がついていて、その鈴の音はこれまでに聞いたこともないほど美しく、心に染み入る優しい音色を響かせた。

 少年はその首輪を受け取とるとその動物病院を後にした。

 ――リーン……シャラリーン…… 

 その首輪の鈴は揺れるたび、繊細な音色を響かせた。



 

――もしも願いが一つだけ叶うならば、もう一度君の笑顔を見てみたい

 それは、白猫ミィの儚い夢だった。

 心残りだったミィの魂は銀杏地蔵に救いを求めた。

 それは何の前触れもなく訪れた。


 ミィが事故に遭い息絶えたその頃、なんと不幸にもミィを保護してくれた少年が突如、心肺停止状態に陥った。その少年の魂が肉体を離れた時、入れ替わるようにミィの魂は少年の肉体に宿った。

 しかし、蘇生した少年(白猫ミィ)は、皮肉にもそのすべての記憶を失っていた。

 それでも、少年に生まれ変わった白猫ミィは再び君に出会うことができた。

 出会った頃の君は、悲しみの沼に沈んでいた。

 笑うことを忘れ、夢も希望も見出すことができない君は失望の日々を送っていた。

 だから少年は君を守ってあげたかった。

 傍で君に寄り添ってあげたかった。

 君の苦しみを取り除いてあげたかったんだ。

 いつしか君に心惹かれていく少年は、君に恋をした。

 そんなある日、少年はこれまでの記憶が蘇りそのすべてを思い出したんだ。


「深彗君、あなたはどうして私の知らないミィのことを知っているの?私しか知らないことまで……」

「あなたは一体、何者?」

「僕は……」

「深彗君……?ひょっとして……あなたは……」

「……やっと……気づいてくれたんだね。そうだよ、僕は、深彗ミィだよ……」 

「深彗君が……深彗ミィ?」

 ぱっちりとした切れ長の目。ガラス玉のように澄んだ瞳は、ブルーにもグリーンにもイエローにも見てとれる不思議な色合い。

「ミィ……!」

「そうだよ……僕はミィなんだ……!」

「嘘みたい……。ミィ……私、あなたに……ずっと、ずっと、会いたかった……!」

「僕もだよ……彩夏……!」




 

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