僕たちの恋

 終礼が終わると深彗は彩夏に声をかけた。

「彩夏、さっきは泣かしてごめん。お詫びにこの後、映画でも見に行かない?」

「映画?なんか久しぶり。いいよ」

「彩夏、何か見たい作品ある?」

「今何やっているのか分からないから。深彗君は見たい映画があるんじゃないの?」

「うん、彩夏と一緒に見たい作品がある。それでもいい?」

「いいよ」

 彩夏は深彗の誘いを嬉しそうに二つ返事で受けた。



「それで、深彗君は何の映画が見たかったの」 

「これだよ」

 深彗は映画館のポスターを指さした。

「これって……ひょっとして……」

「そう、前から気になっていたんだ」

「そうなんだ、深彗君にしては何か意外。でも面白そうだね」

「あとポップコーン食べない?飲み物は何にする?」

 深彗はとても楽しそうだった。深彗は一番後ろの真ん中に席をとった。

 平日夕方の上映回は、二人以外数名の客が少し離れた前の席にちらほら見られるだけだった。


 映画を鑑賞中、彩夏は何度も涙が溢れてきた。

 この映画は少年と犬の物語だった。犬が亡くなると生まれ変わり再び少年のもとにやってくる。その後も犬は何度も生まれ変わり大人になった少年に無償の愛を与え寄り添った。まるで深彗の創作した昔話のようにとても悲しかった。

 深彗を見ると、これまで見せたことのない程悲しい表情をしていた。彼の宝石のような美しい瞳から涙が零れ落ちた。

「深彗君……」と彩夏は小さく呟く。

 彩夏は弱く微笑む深彗の手をとると、彼もその手を握り返した。


 映画が終盤を迎える頃、深彗は彩夏の指を絡めとるように繋ぎ直した。

 彩夏は頬に熱を感じながら、繋がれたその手を見つめた。

 そしてエンドロールが流れる頃、深彗は彩夏の耳元で「彩夏……」と甘く囁いた。

 彩夏は振り返ると、至近距離で深彗と視線が交差する。

 深彗の宝石のような美しい瞳は、スクリーンに映し出される映像に反射して煌めきを放っている。その瞳にすっかり魅了されてしまった彩夏は、その美しい瞳から目を逸らすことができない。

 深彗は、彩夏の澄んだ瞳を捉えるとゆっくりと顔を近づけ、艶やかな桜色の唇にそっと唇を重ねた。

 彩夏は、初めての口づけに頭の中が真っ白になり、気恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。

 彩夏の唇はとても柔らかかった。深彗は、一度唇を離し彩夏の左頬を右手でそっと包み込むように触れる。彼が触れる頬が性急に熱を帯びていく。

 彩夏の心臓の音が、深彗に聞こえるのではないかと言うほどドキドキした。

 深彗は、慈しむような眼差しで彩夏を見つめ「今度は、僕が君を守るから……」そう囁くと再び甘い口づけを落した。

 深彗の溢れる愛に胸がいっぱいとなった彩夏。その艶やかな頬に真珠のような大粒の涙が伝っていった。



 映画館を出た二人は、沈黙したままだった。

 彩夏は、初めての口づけに気恥ずかしくて深彗の顔を見ることができない。 

 また、先程観た映画がいつまでも胸に残り映画の世界観から抜け出せないでいた。

 彩夏は、以前にもこれに似た体験をしたような不思議な感覚を覚えた。

「彩夏、映画どうだった?」

「いい映画だったけど、深彗君の昔話を思い出したら何だか悲しくなっちゃって、泣いちゃった」

「うん。僕も」

「なんかね、以前にもこれと同じようなことがあったような気がして……なんだか不思議な気分……」

「彩夏……?何か思い出したの?」

「ううん。何も」

「そうか……」

「ただ……何度生まれ変わろうと、想い人を見つけ出し寄り添うなんて……」

 彩夏は、自分でもよくわからない感情にのみ込まれ声をつまらせた。

 深彗は、彩夏の手を握り寄り添った。

「それほど、かけがえのない存在だったんだろうね」

 彩夏の手を握る深彗の手に力がこもった。







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