第21話 祝勝会と、食文化

 祝勝会をやる予定の『フードポート食堂』は、シーポートの東、シーポート港にある。観光客や旅行客、冒険者などはともかく、地元住民もその景色と新鮮で美味しい料理を求めて来店する


 新鮮な海産物は海から鮮度を落とさずに届き、その他の材料も運河を通じて種類豊富に、比較的素早く集まってくる。そういう訳で、飲食店としての立地条件は最高と言えるのだろう


 元はといえば禁句連の役員を倒したらすぐここで祝勝会をやる予定だったが、『首切りバニー』なんていう暗殺者に負けたのが癪で、まあほぼ私のわがままで、バニーを倒してここにやってきたという流れだ。そのバニーにはだいぶ手加減されてたようなので、また戦う機会もあるだろう


 能書きはこれくらいにしといて。『フードポート食堂』は木造の、決して派手ではないが田舎くさくもない店だ。カウンターが2つ、左右にわかれていて。向かって左側には海産物を主に扱う店長、右側には少し怪しい定食を主に扱うばあさんがいる。あまり表には出ないが、他にも調理スタッフがいるらしい。昼食時というには少し遅い時間だが、それなりに人が入っている。ピーク時はもっと混んでいるのかもしれない


 私達3人はフォクシーちゃんの誘導で、左側のカウンター……ハゲ頭の店長がいる方のカウンターに座った。


店長「へい、お嬢ちゃん達、お待ち!」


 シュシュシュ! キラキラと光る海産物……それはまるでマグロの寿司のような……というか『トロ』そのものでは? 異世界にも寿司、それもトロが存在するのか


アスティ「わっ、凄い! キラキラして新鮮でおいしそうだよ!」

店長「うまそう、じゃなくてうまいんだよ! さっさと食いねぇ!」


 頑固な寿司職人といった感じの人だ。目つきが鋭い。そしてハゲだ


フレア「うぐぐ! こ、これは……!?」


 毒でも盛られたか? 食中毒か?


フレア「うまい! なんだこのうまさは!」

アスティ「え、そんなに!? どれどれ……」


アスティ なにこれおいしい! ほっぺたがとろけちゃうよ~!」


 おせじではない。やっぱり確かにこれはトロだったが、なんだこの旨さは。現実世界でもこんな旨い寿司屋では食べたことがないぞ


フォクシー「ウフフ……。お口に合ったようで何よりです」


 みんなの緊張がほぐれる


フォクシー「さて……」


 しかしすぐに、フォクシーちゃんは話を切り出そうと、緊張を走らせた


フォクシー「今後の予定についてお話いたしますね」

フォクシー「まずはここシーポートから船で軍港ベイハーバーに向かいます」


アスティ「ハイ! フォクシー先生!」

フォクシー「何ですかアスティさん?」


 今のタイミングでの質問は予想の範囲内だったのかな? 今回は驚かれなかった


アスティ「ベイハーバー……軍港って……ぶっちゃけ危なくないですか? ただでさえ洞窟でやらかした訳だし」


 現状では軍隊と敵対してるのではないにしても、そもそも女3人で軍港へ行くというのはどうなんだろうか?


フォクシー「いい質問です。結論から言いますと『ほぼ』心配ないと考えています」

フレア「『ほぼ』とは? 何か曖昧で頼りない表現だが……?」


 フォクシーちゃんの顔がさらに引き締まった


フォクシー「1点目に、ベイハーバーは軍港というだけあって軍が常駐します。しかし……禁句連は直接的には軍を動かせません」

フォクシー「逆に間接的には可能と言えますが……すぐに私達に対して行動を起こさせるのは、かなり難しいでしょう」

フレア「ふむ、なるほど」


フォクシー「2点目は、禁句連の体質……禁句連は総じてプライドが高いのです」


フォクシー「禁句連はタブーにほとんど影響されず。また、表立って批判を受けることもほとんどありません」

フォクシー「素性の知れない私達に負けた……わざわざ報告して恥をさらしたくない……禁句連の役員ならほぼ、そう考えます」


 うーん、そういうものなのか。具体的過ぎて逆にがある


フレア「納得した。しかしフォクシーはやけに詳しいな」

アスティ「案外、フォクシーちゃんって禁句連の『ス★パ★イ』だったりしてー……なんちゃって」


 しまった。言い過ぎた


フォクシー「…………」

フレア「…………」


 気まずい静寂がその場を包み込む。気持ちがヒンヤリとしてくる


アスティ「ご、ごめんフォクシーちゃん! 冗談のつもりだったんだけど軽率でした! 本当にごめんなさい!」

フォクシー「いえ、大丈夫です。確かに疑われるのも無理ないでしょう。普通は知りえない情報ですので」

フレア「しかし良いのか!? 仲間にこんな言い方をされて……けじめをつけるべきではないのか?」


 『けじめ』ってヤクザじゃないんだからと心の中では思ったが、今は軽口をたたいている場合ではない。今の私はそんな立場ではない。フォクシーちゃんは少し考えたのち、話し始めた


フォクシー「けじめ……そうですね。では1点目」

フォクシー「なぜ私が禁句連について詳しいか。その理由は必ず近いうちにお話しします。それを最後まで聞いて頂くこと。」


フォクシー「2点目……今後どんなことがあっても禁句連を一緒に倒すこと」


フォクシー「以上、2点を守って頂けるなら、これからも仲間としてご協力させて頂きます」


フレア「な、何!?その条件は……」

アスティ「けじめというより……私に得しかなくない!?」


 フォクシーちゃん側には何も得が見当たらない。いや、むしろ最後までこの旅をやりとげるという覚悟としか私には感じられなかった。こちらに断る理由がない


フォクシー「ダメ……でしょうか?」

アスティ「いや大丈夫、というかむしろ、こちらからお願いしますだよ! フォクシーちゃんマジ天使!」

フォクシー「良かった……。ではこれからも改めて宜しくお願い致します」


アスティ「で、船はどうやって乗るの? 乗船券って高そうだけど……?」

フォクシー「幸いなことに、私は4人分のフリーパスを持っています。無料で乗船できますのでご安心を」

フレア「流石フォクシー! 手際が良いな!」


アスティ「フォクシーちゃんマジ天使! フォクシーちゃん愛してるよ~!」


 私は思わずフォクシーちゃんに抱き着いてしまった。あ、フォクシーちゃん、いい匂い……


フォクシー「えっ!? あ、あの……。あ……わ、私、あの……その……」


 その時だった。私達を邪魔するように騒がしい音……ガラスが割れたり誰かが乱闘したりしている音だろうか……が聞こえてきた! クソめ!


アスティ「何、今の音!? 食堂の方から!?」

フレア「考えている暇はない! 食堂へ行くぞ!」

フォクシー「いえ、慎重に行きましょう! 町中で騒ぎを起こすのはまずいです!」

アスティ「しっかり準備してから食堂に行こう!」


――私は目をつぶり、いったん落ち着いた――

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