第18話 首切りバニー、その絶望

 さーて、首切りバニーとやらに接触してみるか。本当にあの陰気臭いバニーガールがそうなのだろうか


 バニーガールは相変わらず、入口付近で呼び込みをしている。モデルのようなスラっとした長身に、ウェーブがかかった長髪は、白に近いグレー色。紫のバニースーツに網タイツ。いかにもバニーガール


 ――私は目をつぶり、いったん落ち着いた――


アスティ「あの、すみません。『首切りバニー』っていう凄腕のバニーを知ってますか。失礼ですが、あなたのことではないですか?」


 バニーは、まるでこちらの質問を予想していたかのように、しかしそれでもこちらの面倒な質問を疎ましく感じているかのように、ふうっとため息をついた


バニー「凄腕のバニーガールの話……? もしその話が仮に本当だとしてあなたたちは……」


 その時、バニーの目が一瞬にして殺意でぎらついた。まるで目だけでこちらを金縛りにして殺してしまうかのように。続けざまにバニーはこちらを威嚇するかのように軽くバク宙し……


バニー「戦いたいと思う!?」


 間違いない。さっきまでは信じてなかったが、間違いなくこいつが『首切りバニー』だ。その殺意だけで、気迫だけで、すでにわかる。本当に殺されるかもしれない。だが恐らくは大丈夫だろう。私は、私の能力に、そしてこの世界からの扱いに、自覚的になりつつあった。やり直せるとしても、正直仲間が死ぬのも自分が死ぬのも胸糞悪いので、できれば何度もそうはなりたくないが……


アスティ「いいよ。戦おうよ」

バニー「後悔しないでよ!」


ナレーション「ベニー・ザ・バニーが現れた!」


 な、なんだこれは!? さっきまで町中にいたはずなのに、周りの景色は紫っぽい闇に包まれ、バニーと私たち以外の人影が見当たらない。幻術か? それとも異空間とか固有結界みたいな?


 この空間は何やら妙な重圧感がある。何より、内臓を直接わしづかみされているような気持ち悪さがある。できれば早期決着を狙いたい。『首切りバニー』という名前も不気味だしな。もしを持つなら、なるべくバニーには坑道……じゃなかった、行動させたくない


アスティ「フレアちゃん、とりあえず一緒に全力攻撃で! フォクシーちゃんは防御で様子見!」

フレア「承知!」

フォクシー「わかりました!」


 まずは私のファイア、続けざまにフレアちゃんの連舞脚が炸裂する!


バニー「……」


 バニーは何もしてこない。ダメージは通っているはずだが、こちらを試すかのような余裕がうかがえる。突き刺すような重い視線だけがこちらを押さえつけている


 アスティ「クソッ!」


 向こうの手の内がまだ何もわからないのもあり、あまりに不気味過ぎるが、こちらは手を緩めるわけにいかない!


アスティ「さっきと同じ行動で! 油断しないでね!」


 私とフレアちゃんの攻撃がヒットする!

 次の瞬間、フォクシーちゃんはすでに倒れて……戦闘不能になっていた


アスティ「え?」


 バニーが何か特殊な攻撃をしたのか? 攻撃が早過ぎて見えなかったのか? しかし考えている暇はない。落ち着け、この世界の戦闘不能は、レアアイテムや教会で治せるのだ


アスティ「さっさと倒してやる!」


 バニーに攻撃を入れる。手ごたえはしっかりある。だがあまりにも相手がタフ過ぎる


 バニーが視界から消え……フレアちゃんの首元に閃光が走るのが見えた。次の瞬間、フレアちゃんの頭はもうあるべき場所になく、低い場所にあった


アスティ「あ……あ……」

バニー「終わりね」


 首に熱いものがほとばしったかと思うと視界が歪み、の地面が私の視界に入っている。そう、


バニー「もうこんな無茶しちゃダメよ。このことは早く忘れなさい。回復してあげるから……」


 気付くと私達は全快していた。誰も命に別条がないどころか、ケガ一つしていない。いや、むしろ全てが幻だったのか? あるいは時間が巻き戻った?


 違う。違う違う。仲間達の様子を見れば明らかだった。起こったことは事実だと。フォクシーちゃんも、あのフレアちゃんでさえも、青ざめて肩を震わせていた


 はぁ、なんだってんだよ。こんな強い奴がいるなんて聞いてねえよ。こんな強い奴がいるなら…


アスティ「『鍛練』しまくってぶっ倒すしかなくない!?」


 フレアちゃんもフォクシーちゃんも、何とも言えない凄い顔で、私を見ていた

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