第16話 港町、シーポート

 そんなわけで帰り道にある…じゃない、港町シーポートにやって来たのだ


 主にモンスターと海賊対策なのだろうか、町全体が高い壁で覆われているものの。綺麗な川は運河として利用され、町の至る所を流れており、心地良い潮風が吹いている。商業の活気はもちろんのこと、一般市民も良い意味でそれぞれ好き勝手をやっており賑わっている。まさに理想的な港町!


 いかにも町案内が好きそうな若い男女が町の入口にいる。絶対話しかけたら町の紹介をするやつだ


案内男「ここは港町シーポートさ! 迷子にならないように気を付けてね! 店はだいたい左の方に集まってるよ!」


 ほらね。というか『左の方』ってなんだ。まあ、そっちの方がわかりやすくて良いけどさ


案内娘「ここのオススメは港にある食堂ね! 水路に沿って右に行くとあるわよ」


 なるほど、目的の食堂は右か。もうちょっと寄り道してから行ってみよう


 食堂とは別に、こっちにはバーもあるのか。バニーガールが入口付近で呼び込みをしている。モデルのようなスラっとした長身に、ウェーブがかかった長髪は、白に近いグレー色。紫のバニースーツに網タイツ。いかにもバニーガール。しかし呼び込みとは思えない、あまりに虚ろ気な表情


バニー「全然お客様が来ない。フードポートには勝てないわ。やってらんないわね……」


 客が来ないから不機嫌なのか。元々暗い性格なのか。フードポートに客を取られて愚痴っているようだ。ということは、それだけフードポートという店は人気店、ということだろうか?


 しかしこの町の店のアイテム、流石に高いな。私達も強くなったから、買いそろえるのもそこまで大変って訳でもないけどさ。今の手持ちだと、まだ全部は買えないか。その分性能も高いみたいだけど。とはいえ、この腕輪なんて大した効果もないのに高過ぎる。ぼったくりか。お金に余裕が出たら最後に買うくらいでも良さそう


 ん、紫色のおかっぱ髪の小さな女の子が向こうでうずくまってる。具合が悪いのだろうか。とりあえず行ってみよう


厨二女子「は……話しかけるな……。邪眼がうずいて……早く私から離れろ……! うぐ……ぐああっ……!」

アスティ「………」

フレア「おぞましい気迫を感じる……。かなりの使い手と見た!」

フォクシー「気迫とは何か違うような……何か残念なものを感じますが……」


 完全にやべえ奴だった。ま、まあ誰しもそんな時代はあったりなかったりするさ……ハハハ……


 噴水の辺りに、真面目そうな鎧騎士がいる。有用な話が聞けるだろうか


鎧騎士「強敵ほど戦いのセオリーに長けている。そのセオリーに従い行動する」

鎧騎士「逆に言えば、強敵は行動が読みやすい! 例えば〇ターン目は必ず魔法を使うとか。HP1/4以下で強力な必殺技を使うとか」

鎧騎士「相手の行動を把握すれば対策できる! 回復と攻撃のタイミングも見極めやすい! どんな強敵でも理屈で勝てる! 運のせいにするな! …ただし、レベルと装備も大事だ」


フレア「かなりの使い手のようだ……」

鎧騎士「ただ、申し訳ない……。即死と石化は……運を呪うしかないな……」


 なるほど。知識と経験、その両方が強敵に勝つための武器って訳ね。これから少しずつ積み上げるしかないね


 民家の玄関先に男の子がいる


少年「フードポート食堂なら右の方だよ。僕も時々お母さんと食べに行くんだ」


 ふむ、やはり人気店なのか。お腹が空いてきた。でももうちょっと情報収集するぞ


 んん、クソデカい家、というか豪邸が建っている。さぞかし地位とお金のあるお偉いさんが住んでいるのだろう。世の中金だ。豪邸を守るデカい門の前には、いかにも金持ちにふさわしい、執事とメイドが立っている


執事「ドン・ビキーテ・エル・ロッペンハイム・フォン・ブルクス・エンデル・ファイ・プレミオル117世様の屋敷に御用かな?」


アスティ (名前クソ長い!っていうか…)

フレア「名前が長くてドン・ビキーテ」

アスティ「やめろばか!」

フレア「アハハ……」


 フレアちゃんのオヤジギャグは何とかならないのだろうか……


メイド「失礼ですがアポはございますか?」


 アポというのはアポイントメント、つまり予約である。こんな豪邸に、この私が予約も用もある訳ない。はて、そういえば今気付いたが、この世界の言葉って『日本語』なのか? それとも魔法とか不思議な力で翻訳されてるとか? じゃあ『アポ』も、本来はが省略されたものなのだろうか。しらんが


 何か食べたくなってきたが、まだ情報収集としては足りない


 ――私は目をつぶり、いったん落ち着いた――

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