第8話 鍛練と、ワンキル

 最初は町の周辺でレベリングしてみよう。装備は最初より少しよくなったが、スライムに苦戦してるうちは遠出は禁物だろう


フォクシー「来ます!」

アスティ「!?」


 目の前に現れたモンスターは、スライム1匹と……こうもり2匹か。こうもりは初見だ。モンスターとしては最下級と思われるが、おそらくスライムよりは強いだろう。私の鼓動は自然と高まっていく……


 スライムなら私とフォクシーちゃんの攻撃で倒せるが、それだとこうもり2匹が残ってしまう。こうもりの攻撃力は未知数なので、その状況は避けたい


 もし私に攻撃魔法が使えるなら、こうもりくらいなら1撃で倒せるだろうか? もし倒し損ねても、さらにフォクシーちゃんが攻撃して倒せないってことはまずないだろう


 私に攻撃魔法が使えるとしたら、やはり最初は炎系の最弱魔法だろうか?


 攻撃魔法……攻撃魔法……攻撃魔法が使いたい……


 その時、私の頭の中に何か、ゆらめく赤い色の塊と、薄いグレー色っぽい文字のようなものが浮かび上がってきた


 これは……梵字とかルーン文字と呼ばれるものに似てる気がする。まあ私にそこらへんの知識は全くないんだが。正体不明の文字が数個……おそらく何らかの意味を示す単語。その単語のグループがさらに数個、頭の中にふわふわ浮かんでいる。いったいこれは……?


 その単語の意味はわからないし読めないが。なんとなく、単語の内の一つに精神を集中してみる。すると、その単語に変化が起きた


 左から徐々に単語の色が変わり……金色に光っていき、やがてひとつの単語全体が金色になった


(これは……!?)


 同様に、他の単語にも精神を集中させていくと、全ての単語が金色に染まっていった


 複数の単語――『魔力を流す回路』を通じて具体的な力と形を持った『それ』は私の手のひらに集まり、比喩ではなく文字通り、焼けるような熱を持っていた。私はすでに『それ』の使い方を、感覚的に知っていた


アスティ「ファイア!」


 私が叫ぶと、『それ』は魔力を帯びた炎の玉となり、か弱いモンスター……こうもりに向かって無慈悲に飛んでいき。そしてモンスターだったものは一瞬黒いシルエットになったのち、燃え尽きた炭のように、もろく崩れていった


 そう、一撃だった。ワンキルというやつだ


フォクシー「!? お見事です、アスティさん!」


 ハッと我に返る。私は攻撃魔法「ファイア」が使えるようだ。この調子で敵を蹴散らしていこう!


アスティ「ファイア!」


 私が2匹目のこうもりもファイアで片付けると、続けてフォクシーちゃんがスライムに杖の先端で2撃目を食らわせ、私達は勝利した


フォクシー「やりましたね! アスティさん!」


 フォクシーちゃんが祝福してくれる


 これだけの魔法の力が最初からあるならば、これからの旅はそこまで苦労しないだろう。私はこの時そう思ったのだ。しかし……甘かった。私がこの考えを思い直すのには、決して長い時間はかからなかった


 そう、なかなか「楽しませてくれる」のだ、この世界は

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