第3話 ビギンの町、旅の目的
つい寄り道をしてしまったが、先程スルーした町に戻ってきた。キョロキョロ……んー、こじんまりとしているが、のどかで平和な町という感じ。スライムに囲まれてる割には、対抗できるような武力はあまり感じないが
アスティ 「到着ー!……ってここが『ビギンの町』で合ってる? フォクシーちゃん?」
フォクシー「はい、そうです。とりあえず宿屋で詳しくご説明します。そこの右手に見えている建物です」
アスティ 「右の建物ね、OK!」
宿屋「ここは宿屋です。一泊0Gですがお泊りになりますか?」
ん、宿屋は無料なのか? それより一泊「0G(ゴールド)」って、わざわざそんな言い方する必要ある? そういう風習なのだろうか? まあいいか……
フォクシー「長くなりますが順を追って説明します。大事なお話なので最後まで聞いてください」
フォクシーちゃんが先程に増して真剣な顔になる。こちらもつい真剣な顔になる。……決して先程怒られたのが怖くて今も引きずっている訳ではない。断じて
フォクシー「この世界はアスタリカ世界と言います。アスタリカに異世界から訪問してきた人は『ビジター』と呼ばれます」
アスティ「はい先生質問!」
早速話に割って入る私に、フォクシーちゃんは驚き、目を見開いた
フォクシー「な、何でしょうか……?」
アスティ「なぜ先生は私が異世界からのビジターだとわかったのですか?この世界の人がワープした可能性は?」
まずはここをはっきりさせたい。ここがはっきりしないと信用できない
フォクシー「鋭いですね。この世界にワープ魔法は存在していますが、現在は基本的に使えないのが1点目の理由」
フォクシー「使えないはずの悪口……いえ……タブー化された言葉を使われたことが2点目の理由になります」
??? 私の脳内にはてなマークが浮かぶ……
アスティ「異世界ものは得意なはずなのに、訳わかんない用語や設定が出てきて混乱してきたぞ畜生クソったれめ……」
フォクシー「順を追って説明しますので、きっとご理解頂けると思います。あせらないでくださいね」
フォクシーちゃんが私を穏やかな口調でなだめる。私を騙す演技とは思えない。性根からこの子は優しいのだろう。しかし……次の瞬間、フォクシーちゃんの顔はみるみる険しくなった。まるでこれから、言うのもためらうような言葉を言おうとしているかのように
フォクシー「この世界を実質的に支配、いや『世界征服』している組織が存在しています」
フォクシー「『言語統制機関 禁止語句制定連合会』、略称『禁句連』とその組織は呼ばれます」
げんごとうせいきかん きんしごくせいていれんごうかい――きんくれん。たいそうな名前の組織が出てきた。いかにも悪だくみしてそうな名前だ
フォクシー「『汚い言葉を排除し、綺麗な言葉を守り、人々の心と生活をより豊かにする』それが禁句連のスローガンです。最初はそのスローガンを守って真面目に
活動しているように見えました。しかし…
フォクシー「やがて禁句連は私利私欲のために動くようになりました。自分達の都合の悪い言葉を排除し、金、人、世の中を動かす」
話は徐々に核心に迫っていく……!
フォクシー「禁止候補の言葉は、選挙の過半数の賛成で使用禁止…禁句になります。『タブー』という魔法で文字通り、使えなくなります」
フォクシー「タブー化された言葉は、書くことも話すことも不可能になります。それが『タブー』という魔法の強力な効果です」
フォクシー「しかしタブーの効果は禁句連、そしてビジターにはほぼ無効化されます。だからアスティさんはビジターと判断できました。見た目からして禁句連とは明らかに違いましたし」
なるほど、禁句連という悪の組織が、いろんな言葉を「タブー」という魔法で封じているが、ビジターの私には効いていないと
フォクシー「言葉をタブー化するかどうかは選挙で決まりますが、禁句連はマスコミに介入し、世論を、人々の心を操っています。ですから禁止候補の言葉はほぼ確実に
タブー化されるように誘導されます」
アスティ「何そのクソみたいな茶番!チート級の反則じゃん!」
フォクシー「同意です。そして、ここからアスティさんの帰還にも関わる特に大事なお話になります。禁句連は回復魔法以外のほとんどの魔法を禁止したのです。タブーの力によって」
アスティ「話が繋がってきた気がするけど、なんかいや~な予感。私が帰るための魔法もタブー化された?」
フォクシー「ご名答」
アスティ「はぁ~~~~~~~~~??? マジでゴミなんだけど~~~~~~??? ふっざけんな~~~~~~~~!!!」
フォクシー「解決法はあります。禁句連を倒します!!!」
今なんて言ったんだ、フォクシーちゃんは……??? 私は思わず何度も辺りを見渡した。そんなことをしても答えは見つからないのだが
そして私はフォクシーちゃんの言葉の意味を、自分の頭の中で理解した
アスティ「! え、マジで!? フォクシーちゃん勇者なの? 勝算あるの?」
フォクシー「勇者ではないですし、今のままでは勝ち目もないでしょう。しかし勝つための道筋は見えています。仲間を集め、装備を整え、少しずつ鍛錬して強くなりましょう。禁句連は強いですが、鍛錬はしていないので必ず追い越せます!時間はかかりますが必ずできます」
そう語るフォクシーちゃんは落ち着きつつも、口調は自信にあふれ、表情には決意、そして覚悟がはっきりと表れていた。続けて、フォクシーちゃんは一点の曇りもなくこちらを見つめてこう言った
フォクシー「強引で申し訳ありませんが…… ご協力して頂けませんか?」
アスティ「も、もちろんだよ! むしろ私の方からお願いしますだよ!」
フォクシーちゃんの表情から緊張が抜け、笑みがこぼれる
フォクシー「では改めてよろしくお願いいたします、アスティさん」
アスティ「こちらこそよろしく、フォクシーちゃん!」
こうして、私が元の世界に戻るための旅が長い旅が始まるのだった。もっともこの時はこんなに長い旅になるとは思ってもみなかったが。始める前から長く続くなんて考えてない方が、物事は長く続くものだ
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