61話。アルスター島、リゾート計画

 さんさんと降り注ぐ日の光を浴びて、海原がキラキラと輝いている。

 砂浜では猫耳少女たちがビーチバレーをし、浅瀬では人魚族の女の子たちが、水を掛け合って黄色い歓声を上げていた。


「ワン!? かわいい女の子たちがいっぱい! 楽園ですか、ワン!?」


 それは完全に同意だ。


「というよりも、海の魔物がいる危険があるのに、丸腰で海水浴ですかワン!?」


 イヌイヌ族たちは、ビックリ仰天していた。海水浴は王族専用の護衛付きプライベートビーチなど、身分が高い者の贅沢だった。

 だからこそ、庶民でも楽しめるようにすれば、商売として当たる可能性が高いと踏んでいる。


「魔物がこの浜辺に近づく危険はありません。なぜなら……」


「カル様ぁ! ヤッホー!」


 どどぉおおおおーん!


 突如、海が割れて海竜の背に乗った人魚姫のティルテュが顔を出した。

 水飛沫が盛大に降り注ぐ。


「ワン!? 巨大な海竜だ、わ~ん!?」


「あっ、この海竜は僕の配下なので、大丈夫です!」


 腰を抜かしてひっくり返えるイヌイヌ族に、慌てて解説する。


「実は海竜王を倒して手に入れた【海竜王の霊薬】の効果で、僕は中級以下の海竜なら無条件で従えられる能力を手に入れたんです。

 海竜を使って、この島の近海に魔物が侵入するのを防いでいます」


「そ、それでは、カル様は実質、海竜たちの王様ということではないですかワン!?」


 竜は中級以下が9割なので、そう言えるかも知れない。


「アハハハハッ! 海竜が、私の言うことを何でも聞いてくれるなんて、すごく気分爽快だわ!」


「おわっ!? とんでもない美少女が海竜の背中に!?」


「私は人魚族の王女ティルテュよ。なに、あなたたち見ない顔ね?」


「人魚族の王女様って!? はわわ~、お初にお目にかかりますワン! ボクたちはイヌイヌ族の商人ですワン!」 


 イヌイヌ族たちは、目を白黒させながらも、礼儀正しく腰を折る。

 そんな彼らの態度に、ティルテュはすっかり気分を良くした。


「ああっ、あなたたちが、カル様のおっしゃっていた御用商人候補ね。

 へぇ、かわいいコたちじゃない? ふんっ、気に入ったわ。私とカル様の結婚式の準備は、あなたたちに依頼してあげるわ!」


「はわっ!? それはビッグニュースですワン!」


「ちょっと! そんな予定は無いから真に受けないでください!」


 ティルテュの冗談を本気にしてもらっては困る。


「海竜王の権能を受け継いだカル様は、大海の王と言えるわ! つまり人魚族の王女である私と、お似合いのカップルということよ!

 カル様と私の結婚は、お父様をはじめとした人魚族全員の望みよ!」


 ティルテュが海竜から飛び降りて、僕にしなだれかかってくる。彼女は布地面積の異様に狭い水着姿だったので、体温を直に感じて、僕は赤面してしまった。


「おわっ! ちょっとティルテュ、近いって!」


「そんなに恥ずかしかならくても良いですよ、カル様! 大好きです!」


「はぁ〜っ、人魚姫様、本当におきれいなお方ですワン」


「カル様がうらやましいですワン」


 ティルテュの持つ魅了の魔力にやられてしまい、イヌイヌ族たちは、ぽわーっとしてしまっていた。


「カル様、これから私と海中デートしましょう!」


「ティルテュ、駄目だって! まだ僕はイヌイヌ族との商談が残っているから!」


「こら! ティルテュよ。カルが嫌がっておるではないか? 離れるのじゃ!」


 その時、水着姿のアルティナが駆け寄ってきて、ティルテュを引き剥がした。

 ナイスフォローだ。


「アルティナ!? カル様は嫌がってなんていないわ! 私があまりに美少女だから照れているだけよ!」


「なぬ!? おぬしのその根拠のない自信はどこから湧いてくるのじゃ!?」


「はぁ!? 当然でしょう? お父様は、私のことを世界一かわいい、一万年にひとりの美少女だって、毎日、おっしゃってくれているわ! 家臣たちだって、ティルテュ様の美貌は女神にも勝るって、べた褒めなんだから」


「それは親の贔屓目と、家臣のおべっかじゃろうが!? この箱入り娘が!」


「そんなこと無いわ! 見なさいこのイヌイヌ族たちを! 獣欲に滾った目を私にぶつけているわ! かわいそうに私の虜になってしまったのよ!」


「ワン!?」


 ティルテュがなにやらヤバいことを口走ったので、僕はイヌイヌ族たちに勢い込んで話しかける。


「え、えっと、ですね! このようにこの砂浜は、海竜に守られていて安全です!  ここにホテルや商業施設を建てて、リゾート化できないかと考えているんです」


「それは素敵なご提案ですワン! 【人魚姫の砂浜】とか名前をつけてブランド化して売り出せば、バカ受けしそうですワン!」


「ぜひ、そのお手伝いをボクたちにさせて欲しいですワン!」


 イヌイヌ族は尻尾を振りながら、叫んだ。

 よし、売り込みは大成功だ。

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