60話。御用商人に回復薬を売って大儲けする
「カル・アルスター子爵様に、ごあいさつ申し上げます、ワン。」
帽子を取って、礼儀正しく頭を下げたのは、僕の腰くらいの背丈の犬型獣人たちだった。
彼らはイヌイヌ族といって、正直者であることで有名な種族だ。なにしろ、うれしいと無意識に尻尾を振ってしまうのだ。
「わざわざ離島までやって来てくださって、ありがとうございます。まずは、おかけください」
「ありがとうございますワン。海竜王を討伐した大英雄様にお会いできて光栄ですワン!」
イヌイヌ族は尻尾を振りながら、目を輝かせている。
どうもお世辞ではなく、本気で僕に好感を持ってくれているようだ。
彼らには竜騎士ローグの紹介で、御用商人になってもらうために来てもらった。元々、ヴァルム家と取り引きしていた商人みたいだ。
「それで買い取っていただきたいのは、海産物の他にこの新型回復薬です。【再生竜水(ヒールドラゴンウォーター)】と名付けました」
僕が瓶に詰めた【再生竜水(ヒールドラゴンウォーター)】をテーブルに置くと、イヌイヌ族たちは興味深そうに、見つめた。
ネーミングは魔法名そのまんまだ。
「新型回復薬のお噂はうかがっておりますワン。エクスポーションを超える効果だとか……それで、これをいかほどで売っていただけますのかワン?」
「まずは100本ほど、無料サンプルとしてお渡しします。実際に使ってみていただいて、本格的な取引はそれからですね」
僕の言葉を聞いたイヌイヌ族は、目を丸くした。
「えっ!? これ全部、無料ですかワン!?」
「この新型回復薬の効能を、大勢の人に知ってもらうのが第一歩ですから。
次回から、エクスポーションよりやや高い、一本、5000ゴールドほどでお取り引きできればと考えています」
エクスポーションの相場がひとつ約3000ゴールドなので、妥当なところだろう。
あまり安くすると、回復薬の市場を破壊したとして、エクスポーションの販売元である教会から睨まれる危険がある。
エクスポーションのような強力な回復魔法を封入した回復薬は、教会が作製方法を独占していた。
「えっ、5000ゴールド!? そんなにお安くて良いんですかワン!?」
「もし、噂通り失われた手足すら再生する効能があるとしたら、一本10万ゴールドでも買いたいと、お客さんが殺到するハズですワン!?」
「アルスター子爵様は、無欲過ぎますワン!?」
イヌイヌ族は騒然となった。
えっ? 僕として、妥当な値段設定のつもりだったのだけど……
「正直に申し上げますワン! ボクたちとしましては、一本、8万ゴールドで買い取らせていただきますので、他の商人には売らないという専属契約を結んで欲しいのですワン!」
「はぁ!?」
8万ゴールドとは、想定していた値段の16倍だ。
この回復薬は僕が魔法で、ぱっぱと作ったものだ。水を入れた瓶に魔法をかけて、おしまい。
ひとつ作るのに1秒もかかっていない。
「さすがに、そんなに高く買い取っていたただくのは悪いというか……5000ゴールドで十分ですよ?」
「いいえ、アルスター子爵様! 他の商人に権利を奪われる前に、ぜひ僕たちとの1本8万ゴールドでの独占販売契約を、書面で交わして欲しいですワン! お願いですワン!」
イヌイヌ族たちは、なんと床に土下座して頼み込んだ。
「その前に、サンプルでの効能テストとかは必要ないんですか!?」
「こちらですでに裏付は取っていますワン! カル様は王室直轄領で、この回復薬を使って村人を救われましたワン! 不覚にも感動してしまいましたワン!」
「悠長なことをしていたら、他のライバルに、この金の成る木が取られてしまいますワン! ビジネスは速度とタイミングが命ですワン!」
イヌイヌ族に必死の形相で見つめられて、僕はタジタジになってしまった。
うーん……
「そ、それじゃ、1本1万ゴールドで、あなた方と専属販売契約を結ぶということで」
100本作るのに30分もかからない。それで100本売れたら、100万ゴールドというのは、いくら何でも破格だと思う。
「ひゃあぁあああっ! あ、ありがとうございますワン! それでは月に100本の【再生竜水(ヒールドラゴンウォーター)】を卸していただくということで、よろしくお願いしまいますワン!」
おおっ……毎月、確実に100万ゴールドが手に入る収入源をたやすく確保できてしまった。
今後の領地経営に大きなプラスになったな。
「くふふっ! やったワン! ボロ儲けは確実だワン!」
「アルスター子爵様の御用商人になれたことを神様に感謝だワン! ボクたちは勝ち組人生、まっしぐらだワン!」
「お礼に今後はカル様のために、ボクたちの商人としての力を最大限、お貸しいたしますワン! イヌイヌ族は世界中に同胞のネットワークがございますワン! 情報でも物資でも、なんでもお申し付けくださいませワン!」
イヌイヌ族たちは、目をキラキラと輝かせ、尻尾をブンブンと振った。
彼らに喜んでもらえて良かった。
僕にとってはメリットだらけで、申し訳ないけれど……
「そうだ。実は海水浴場もオープンしたんで、みなさんも遊んで行きませんか? 飲食物を売る屋台なんかも、今後、出店しようと思っているんです」
「海水浴場!? もしかしてさらなるビジネスチャンス!? よろしくお願いしますワン!」
イヌイヌ族は尻尾を振って、一斉に腰を折った。
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