57話。システィーナ王女を聖竜王の魔の手から救う

【システィーナ王女視点】


「それでは伯父様、今回のわたくしの暗殺計画に加担した者の名前を、すべて教えてください」


 わたくしは王宮の取り調べ室で、伯父様と向き合っていた。

 伯父様は今日、わたくしにすべてを話すという約束で、減軽の司法取引に応じた。


 とはいえ、相手はわたくしを暗殺しようとした罪人。念には念を入れて、両手両足に鉄枷をはめた上に、部屋には魔法封じの結界を張ってある。


 さらにふたりの近衛騎士が、伯父様にピタリと張り付いて、おかしな動きをしないように警戒していた。


「そうすれば約束通り、死刑にならないように取り計らいます。自然豊かな土地で、静かに余生を過ごすことができますわ」


 尋問は気が重い仕事ではあるけども、この国の病巣を取り除くためには、必要なことだった。


 古代文明の研究に力を入れ、これまでの慣習を否定するわたくしを快く思わない者たちが、大勢いる。

 わたくしの敵になる者をあぶり出さなくては……


「システィーナ……お前の死を望んでいるのは、聖竜王サヴァンティルだ! サモン!」


 えっ……?

 その瞬間、叔父様の身体から炎が噴き上がった。

 魔法? 魔法封じの結界でも抑えきれない超強力な魔法が、強引に発動していた。


「ぎゃあああ……っ!?」


 叔父様は絶叫した。この事態は、彼にとっても予想外だったらしい。


「なぜ!? これは火炎竜を召喚する呪文……ぐぎぁあああ!?」


「クハハハハッ、そうだ。お前自身を生け贄にして、我を喚び出すためのな!」


 叔父様の体内から、まったく別の禍々しい声が響いた。


「バカな!? 聖竜王はこの私を国王にしてくれると……ゲハァアアアア!?」


「姫様、お下がりを!」


 叔父様の身体を内側から焼き尽くして、炎で形成されたドラゴンが姿を現す。炎そのものが疑似的な生命を与えられた存在──火炎竜だ。


 近衛騎士が、呆然と固まるわたくしの手を引いて、わたくしを部屋の外へと脱出させる。


 その瞬間、取り調べ室を地獄の業火が席巻した。逃げ遅れた騎士が炎に焼かれる。


「ま、まさか、叔父様を陰から操っていたのは、聖竜王!?」


「そのまさかだ。お前に古代エレシア文明などを復活させられては、あのお方は困るのだ。この場で消え失せい!」


 火炎竜の巨体が、天井や壁を突き破る。沸点を超えた石壁が、溶岩となってどろりと流れた。


 あ、熱い! 呼吸をするだけで、喉が焼けるようだわ。

 近衛騎士が耐熱魔法障壁を展開してくれなかったら、一瞬で蒸し焼きにされていたに違いない。


「姫様、お逃げを……!」


 わたくしを庇った騎士が、火炎竜の爪の一撃で炎に包まれた。


「げぇあぁあああ!?」


「さあ、システィーナ、お前も灰となるがいぃいいい!」


 火炎竜がドラゴンブレスを発射する構えを取った。

 ああっ、なんということ。こんなところで、死ぬなんて……


 一瞬、わたくしの脳裏に、海竜王の討伐に向かったカル殿の姿が浮かんだ。

 できれば、もう一度、彼に……


「わ、わたくしを殺しても、この国にはカル殿がいますわ。彼ならきっと、聖竜王も倒してくれます!」


「バカめ! ヤツの元には、聖竜王様の腹心が潜り込んでいる。勝ち目など無いわ!」


 火炎竜が勝ち誇る。

 なんですって? そんな……

 わたくしが絶望に押し潰されそうになったその時。


「【氷海のブレス】!」


 白く輝く冷気の奔流が押し寄せ、火炎竜を飲み込んだ。

 今の声は、ま、まさか……


「なぁにぃいいい!? これは海竜王リヴァイアサンの奥義!?」


 火炎竜は驚愕の叫びと共に、一瞬で跡形もなく消し飛んだ。

 輝く冷気は触れた物をすべて粉々にして、周囲を極低温の氷の世界に変えた。


「……ああっ、なんということですの!?」


 ぽっかりと空いた天井の穴。

 わたくしが見上げたその先には、巨大な黒竜の背に乗るカル殿がいた。


「システィーナ王女殿下、海竜王リヴァイアサンを討伐して、ただいま戻りました。こちらは、冥竜王アルティナです!」


「うむ! 驚かせてすまぬが、わらわも一時的にドラゴンの姿に戻れるようになったのじゃ」


 わたくしは感激と安堵のあまり視界が滲んで、カル殿のお顔が見れなくなってしまった。


「ほ、ほんとうですか!? だとしたら、我が国にとって、いえ、人類にとって大偉業です!」


 やはり、カル殿はわたくしの見込んだ通りの……いえ、それ以上のお方ですわ。

 カル殿がいれば、きっとこの国は大丈夫。これはお父様にも、ぜひ、わたくしとカル殿の婚約を真剣に検討していただかなくては……!

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