46話。父ザファル、カルの計略によりボコボコにされる

【父ザファル視点】


 俺は聖竜セルビアにまたがって飛翔していた。カルの私兵どもと、捕虜収容所を攻撃して人魚族の兵を解放するべく、向かっている最中だ。


 俺の後ろには、飛竜に乗った娘のシーダや竜騎士ローグ、5体の冥竜が続く。

 冥竜たちは元ヴァルム家の兵や、猫耳族たちを乗せていた。かなりの兵力だ。


『ザファル、捕虜収容所の防衛部隊は、あくまであなたを攻撃するフリをするだけ。

 カルが罠にはまったのを確認したら、もう正体を隠す必要はないわ。反転して、防衛部隊と一緒に、シーダと冥竜ゼファーを討ち取るのよ』


 聖竜セルビアからの魔法通信が入った。 セルビアは予想外の事態の連続にテンパッていたが、今は余裕を取り戻し優雅な口調に戻っている。


『フハハハハハッ! 最後に笑うのは、やはりこの俺だということだな?』


 俺も勝利を確信して、笑いを堪えるのに必死だった。


『そうね。でも油断はしないことね。元ヴァルム家の兵と進化した猫耳族、さらに冥竜たちまで加えたカルの陣営は、今やかなりの戦力よ』


『問題ない。陽動部隊の指揮官を任されたシーダは、父であるこの俺を舐めきって油断している。

 まずはシーダを不意打ちで倒して捕らえ、カルの兵どもを大混乱に陥れてやろう!』


『最初に指揮官を倒すのは、良い手だわ』


『フハハハハハッ、シーダの命令にハイ、喜んでぇ! と従ってきたのは、すべてこの布石だったのだ。シーダには、父の偉大さをたっぷり教え込んでやる!』


『そ、そう……』


 何か呆れたような呟きが、返ってきた。


『ヴァルム家の栄達のため、シーダはできれば生かしたまま捕らえたい。

 無能な上に、王家と家臣の信頼を失っているレオンに跡目を継がせるのは、さすがにもう無理だからな』


『あなたの娘は、もうあなたには従わないと思うけど……元々、かなり嫌われていたんじゃないの? まあ良いわ。シーダを人質にすれば、カルへの切り札にもなるしね』


『くくくっ……そういうことだ』


 完璧な作戦に、俺はほくそ笑んだ。

 やがて、捕虜収容所が見えてきた。

 数匹の海竜と、半魚人たちの部隊がその周囲を守っている。奴らは、突然の襲撃に混乱しているのを装っているようだった。


「父様、突撃だよ!」


 シーダの命令で、攻撃をしかけるフリをする。

 まだ、カルが罠にかかったという知らせは来ないのか? 茶番を続けるにしても、下手に海竜王の軍に損害を与えないように気をつけなくてはな……


「みんな、攻撃開始! 【炎の嵐】(フレア・ストーム)!」


「なっ!」


 シーダが放った炎の嵐が、俺をも飲み込んで、地上の半魚人たちを焼いた。

 幸いセルビアが魔法障壁を展開してくれていたので、ダメージは最小限で済んだが、それでも背中に痛みが走る。


「な、何をするのだシーダ!? 味方を撃つなど……!」


「味方じゃないよ、父様は聖竜王に寝返ったんでしょう? 冥竜たち、あの裏切り者を撃ち落とせ!」


「承知!」


「はぁわわわわ!? なに、ちょっと嘘でしょう!?」


 冥竜たちから黒炎の弾丸を容赦なく浴びせられて、聖竜セルビアが慌てふためく。

 その時、美しい人魚姫ティルテュの映像が、上空に映し出された。


『勇壮なる人魚族の将兵たちよ! 私はオケアノスの王女ティルテュよ! 我が父、我らが王は、カル・アルスター様の手により救出されたわ!』


 都市中から爆発的な歓声が上がった。

 これは投影魔法か。ティルテュ王女の側には、憔悴したオケアノス王が立っていた。

 王に代わって、ティルテュ王女が号令を発する。

 

『皆の者、雌伏の時は終わったわ。これよりは、カル様の軍と協力して、反撃に出るのよ!』


 うぉおおおおおおおおっ!


 王女の声に触発され、捕虜収容所から鬨の声が轟いた。

 捕虜収容所のあちこちから、爆音が響いてくる。

 オケアノスの兵たちが反乱を起こし、看守たちに襲いかかっているようだった。


「これは、まさか謀られたのか!?」


 カルとティルテュ王女は、海竜王との決戦に向かったハズだ。オケアノス王を救出するとは、予想外だった。


「くぅうううっ!? こ、この私が偽情報に踊らされたというの!?」


 聖竜セルビアも動転していた。


「カル兄様には、父様の浅知恵なんて通用しないんだよ!」


 飛竜に乗ったシーダが、大剣を叩きつけてくる。

 重い一撃に、セルビアの魔法障壁が耐久限界を超えて砕け散った。


「ああっ、でも安心してね。殺しはしないからさ。父様は捕虜として連れて帰って、聖竜王の情報を吐かせるつもりだから」


「おのれ、シーダ!」


 俺も剣を抜き放って、シーダに斬撃を浴びせるも、娘はそれを弾いた。

 ぐっ! やはりかなり腕を上げておるな。子供とは思えんぞ。


「これでヴァルム家は領地召し上げ、お家断絶だね。あーあっ、私の言う通り、カル兄様の家来になっておけば良かったのにさ」


「な、なななんだと!?」


 それは俺がもっとも恐れる事態だ。屈辱と動揺に、剣が鈍る。


「ザファル! 離脱してカルの元に向かうわよ! しっかり掴まっていなさい!」


「逃がすか! ゼファー! あの聖竜を撃ち落とせ!」


「承知! 我が主に楯突いた罪、死をもって償えぇえええ!」


「おわぁああああ!」


 聖竜セルビアがシーダに背を向けて、全速力で逃げ出す。

 冥竜ゼファーの【黒炎のブレス】が、俺たちに向かって発射された。空に爆炎の花が咲いた。

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